「だい」をつけない紫織さんらしさ

 別冊花とゆめ2011年10月号『ガラスの仮面』美内すずえ 著の感想を書いています。以下、ネタばれ含んでおりますので、未読の方はご注意ください。☆印は、私が勝手に想像したものです。紫織さんに対して辛口のレビューになっております。

 

 ん?と思う台詞がありました。
 それが、これ。

>真澄さまはわたくしがきらい・・・
>わたくしは紫のバラの花が大きらい・・・

 私はこれを読んだとき、胸の中に生じた違和感を、なかなか消すことができなかったです。
 この言葉、すっごくひっかかる。
 口に出したら可哀想かも。でもやっぱり思ってしまう。

 紫織さん・・・

 あくまでも、嫌い度数は

 わたくしが紫のバラ(北島マヤ)を憎む気持ち>>>真澄さまがわたくしを遠ざける気持ち(若干謙遜入)

 なのですね(^^;

 どうあっても、「わたくし、真澄さまにものっすごく嫌われてるかも」という思考には達しないんだなあと。あくまで、「きらわれてる・・・ようにみえるかもしれないわね」くらいのレベルで。

 しかもその気持ちには、紫織さんなりの謙譲の美徳みたいなものが、混ざってると思います。
 自ら、真澄さまに愛されてる事実を表現するなんてはしたない、みたいな。
 本当は真澄さまには誰よりも愛されてるけど、それを今大声で言うのははしたないから、一応ここは「きらわれてるの、オヨヨ」みたいに言っておこうか、的な策略を感じてしまった。
 誰かが否定し、慰めてくれるのを見越す、あざとさ、みたいなもの。

 そして、どう謙譲してみせても、「真澄さまはわたくしが“だい”きらい」とは呟かないのですね。

 以下、私が想像する紫織さんの本音。

☆真澄さま、わたくしを遠ざけようとするなんてひどすぎますわ
☆でも、紫織にはわかってます。あなたは本当はわたくしを愛してるんですものね。
☆さあ、いつでも準備はオッケーですのよ。婚約解消は撤回し、わたくしを抱きしめて。
☆傷付いたわたくしを見て悔恨の涙を流し、今こそ永遠の愛を誓うのよ。ホーホホホホホ。

 可哀想なわたくし、を演出すれば。
 周りが右往左往し、ご機嫌をとってくれるのが紫織さんのこれまでの人生だったのかなあと思います。
 自分の、ほんのわずかな言動に周囲があーでもないこーでもないと気を回すのが、紫織さんにとっての日常だったわけですよね。
 以下、ベッド上の紫織さんの心中を、想像してみました。、

☆あら。変ね。わたくしがここまですることなんて今までなかったのに、真澄さまったら反応が薄いわ。
☆わたくしに近寄ってもくださらないなんて。このわたくしに対して申し訳なさすぎて、恐れ多いのかしら。
☆もちろん、この償いはたっぷりしていただきますわよ。わたくしが元気になるまで、大好きな蘭の花束を抱えて日参してくださるかしら。
☆仕事だ仕事だって、わたくしとのデートがキャンセル続きだったのも、これからはそうはいきませんから。たっぷりつきあっていただきますわよ、フフフ。
☆手始めに、この部屋のバラを、わたくしの目の前で踏みつける、なんてことをしてくださっても、わたくしちっとも構いませんのよ。(紫織の妄想が広がる・・・)

☆紫織さんっ!! ぼくは間違っていました。(がばっと膝をつく真澄)
☆ぼくは、ぼくは大馬鹿ものだ。殴ってくださいぼくを。
☆こんな紫のバラなんて・・・(近くにある紫のバラを、乱暴につかむ)
☆こんなもの、こんなもの、こうしてやるー。(手で引きちぎったあげく、足で何度も憎々しげに踏みつける。
☆ぼくが本当に好きなのは蘭なんです。あなたのような。ああ、でもこんなぼくが今さらあなたに許しを請うても、もう遅い。
☆紫織さん、あなたの心のほんの片隅でいい。覚えていてください。あなたを心底愛しながら、去って行った愚かな男がいたことを。せめて、遠くであなたを想うことだけは、許して下さい。

シ☆もうやめて。もう顔をお上げになって。
マ☆できない。今のぼくにはあなたをみつめる資格などないんだ!
シ☆いいの。紫織にはわかっていましたもの。
マ☆紫織さん! あなたはなんと気高くお優しい。こんな僕を、許してくれるというのですか。
シ☆真澄さま
マ☆紫織さん。(見つめ合う二人。熱い抱擁。ハッピーエンド)

 あー、書いてたらなんだかコメディちっくになりました。
 紫織さん、こんなことを考えてたりして(笑)

 私は、紫織さんが計算の上で、傷付いた姿を演出していると考えているのですが。そう思う理由の一つが、この台詞。

>真澄さまはわたくしがきらい・・・

 この台詞を、淡々と繰り返し呟く姿に、疑問を感じました。

 想像してください。あなたに大好きな人がいたとします。その人は、あなたのことを好きではありませんでした。あなたは失恋しました。

 ○○さんはわたくしがきらい。

 1度呟けば、心がズキっと痛みますね。そりゃー、好かれてないのはわかってるけどさ、みたいな。

 ○○さんはわたくしがきらい。

 2度目に呟けば、自分の言葉ながら、その威力に唖然としませんか。何言ってるんだろう、自分、みたいな。

 ○○さんはわたくしがきらい。

 3度目に呟けば、確実に泣けます。ホントに好きなら、絶対泣くと思いますよ。そしてこれ以上、こんな言葉を口にすることはできない。むしろ、逃避しようとするんじゃないでしょうかね。愛されていない現実から。

 どうしても未練が残る自分をふっ切りたいから、という理由ならまだ、わかるんですけども。自分に言い聞かせる意味で、とかならば。

 でも紫織さんの場合、そういうふうには見えなくて。

>真澄さまはわたくしがきらい・・・

 この言葉を何度も、平気で口にできる時点で、「本当に速水さんを好きなの?」と疑問に思ってしまいました。好きっていうのじゃなくて、なにかもっと、違う感情のような気がする。そして好きじゃないからこそ、自分が愛されてると思ってるからこそ、言えるんだろうなあって。

 本人なり、周りに否定してほしいんだろうなあ。そんなわけないじゃないですかって。自己表現が下手なだけで、あの人は紫織さんを心から愛していますよって。

 私、10月号を読んで速水さんの優しさを再確認しました。
 こうなってしまった紫織さんの壮絶な姿を目の当たりにして、嫌悪感より先に同情がきているのは、生来の気質だと思います。

 私だったら・・・ぞっとしてしまい、嫌悪感がぬぐえなかったかも。その姿を哀れだとは思う気持ちの一方で、そこまでするのか、そこまでアピールするのか、と。
 もう周りに向けて、「可哀想なこのわたくしを見てーーー!」と、全力で叫んでる感じがしますからね。

 誰にも会いたくない・・・とかではなく。

 むしろ、傷付いたわたくしを、最大アピール。

 そして、そのアピールのときでさえ、「だい」きらい、とは言わないところが、いかにも紫織さんらしいなあと思いました。

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