別冊花とゆめ2011年10月号『ガラスの仮面』美内すずえ 著についての感想を書いています。ネタばれしていますので、未読の方はご注意ください。
今日は、英介について書こうと思います。
鷹宮翁が真澄に頭を下げ、紫織との結婚を懇願する姿を見て、内心、驚きながらも無邪気に喜んだであろう英介。
「わしの命令だ・・・!」と真澄には予定通りの結婚をさせようとします。
鷹宮翁は、結婚さえしてくれるのなら全財産と鷹通グループ総裁の座を差し出すと約束するのですが、これは英介が大喜びするのも無理ないかと。
そもそも英介は、真澄がどれだけ深くマヤを想っているか、そのことを知らないからです。
英介にしてみれば、この結婚プロジェクトが大都にどれだけ利益を誘導できるか、それが最大の関心事なわけで。その意味からすると、真澄の行動は大成功、よくやった、となるのも当然でしょう。
愛なんてものは、最初から存在しない政略結婚だと、英介も真澄も承知の上で始まったことだったのに。狂い始めたのは、真澄が北島マヤに本気で惚れこみ、その気持ちをもはや隠せなくなってしまったからですね。
そのことがなければ、「鷹宮翁の全財産ゲット。鷹通グループ総裁の座を取得」なんて事態は、英介と真澄が速水邸で祝杯をあげてもいいくらいの、これ以上はないほどのゴールになるはずでした。
英介は真澄の気持ちなんて、知るよしもないし。
真澄さまも、すべてを説明するつもりはないでしょう。
たしかに・・・本当のこととはいえ、打ち明けるにはちょっと恥ずかしいかも。
11も年下の、ずっと昔から見守っていた女優と相思相愛になれたから、政略結婚を解消したい、なんてね。
片思いだと諦めていたから別の人と婚約をしたものの、本命の相手と、互いに思い合っていることがわかった今、このまま紫織さんと結婚するわけにはいかない・・・なんて、真顔で英介に告白する真澄さま・・・想像つかない(^^;
まあ、このさい理由なんて、どうでもいいことなのかもしれません。
理由はどうあれ、速水側の理由で破談になる。これがすべてとも言える。
英介に、「純愛だから」といくら説明したところで、破談にする事実は変わらないわけです。
真澄さまのことだから、そうした感情論を英介と戦わせることを、是とはしないでしょう。
あーでも。
本当はそういうこと、ちゃんと英介に話したら、英介もそれなりに考えてくれるんじゃないかなと、私は期待しちゃってるんですけどね。
この馬鹿もんが、とか、口ではいいつつも納得して協力してくれるんじゃないかと。
まあ、英介の場合、「とりあえず紫織さんとは結婚しとけ。好きな女がいるなら、結婚ではなくともこっそりつきあえばいいではないか」的なアドバイスをしそうな危険もあるんですけど(^^;
ともかく、真澄さまが紫織さんと結婚できない本当の理由、というのは、英介に知らせておいて損はないと思うんですよね~。隠しておくより、ちゃんと話しておいた方が、英介もそれなりに動いてくれそうです。
英介にしてみればですね。
まさか真澄がそんな、恋煩いでとんでもないことになってるとは思いもしないわけですから。
紫織さんが自殺未遂したという報を受け、鷹宮家に呼び出され、彼女の尋常でない姿を見たときには、まず真澄に同情したと思うのです。
あーこりゃ、真澄が婚約解消言い出すのも無理ないわ、と。
英介は小さな頃から真澄と一緒に暮らして、彼の、本来は優しい性格を十分に承知しているわけですよ。そして、経営者としての有能さ、ビジネスのためなら相当のことまで感情を抑えて割り切る理性を、知り尽くしているわけです。
そんな真澄が、なぜ、婚約解消を言い出したのか。
そして、なぜ紫織さんは自殺未遂しているのか。
答えはひとつしか出てきません。
紫織さんの人格に、相当の歪みがあると、それを一瞬で察知したと思います。
真澄の忍耐力をもってしても耐えられないほどの歪みが、紫織さんにはある。だから、大都にかかる損害を予想しつつも、真澄は「婚約解消」という思いきった行動に出ようとしているのだろうと。
英介も、一代であれだけ成功した人なので。そういう洞察力は優れていると思うんですよね。
真澄は政略結婚の相手となる女性を、泣かせるような男か→NO
真澄は政略結婚の相手となる女性を、自殺未遂させる男か→NO
目の前で、気がふれたかのように、正気を失った目で紫のバラをちぎり続ける女性・・・・その人と一生を共にする覚悟・・・それができる人は、ほとんどいないと思われます・・・。
狂った紫織さんの姿を目にした瞬間、英介はたとえばこんなことを考えたのではないでしょうか。
☆これは・・・なるほど。こういう素質の娘だから、わしからの結婚の提案を、鷹宮翁があっさり受け入れたというわけか。どうりで、話がうますぎると思ったわい。
☆真澄ならばこうした人間の扱いには慣れているだろうに、それでも自殺未遂をしでかしたというのは、この娘も相当なものよ。
☆真澄は優秀だが、変なところで純粋だったりするからな。まだまだ青い。感情に流されて、大局を見失ったとみえる。ここは頭を冷やさせ、多少強引にでもわしが軌道修正せねばなるまい。
☆この結婚に、人格などいらぬ。これは会社同士の契約だ。甘ったるい感情など、邪魔にしかならんことを、後で真澄にはよく言い聞かせよう。
たぶん、英介はすごく、真澄のことを信頼してると思うんですよね。
この政略結婚。真澄が、不用意に紫織さんを傷つけたり怒らせたりすることなど、ありえないわけです。
それなのにこの、自殺未遂。
英介は、ははーん、とうなずいてそうです。
そしてそれでも、真澄には結婚を勧めるでしょうね。
あくまでも政略結婚なので。相手がどんな人であろうと、どうでもいいわけですよ。
鷹宮翁の、たった一人の溺愛する孫娘。
その立場さえあれば、中の人がどんな人間であろうと、関係ない。
英介はあくまでも、真澄が結婚を拒絶するのを、「甘い感傷」としか、思っていないような気がします。
だからこそ、真澄さまには、ちゃんと説明してほしいなあ。ちょっと(いやかなり)かっこ悪いことかもしれないけれど。
大事なことだと思います。英介は、数少ない味方(になってくれる可能性のある人)です。
マヤへの熱い思い、魂のかたわれとして、至福のときを過ごしたあの船上での一夜を、ちゃんと英介に語ってほしいのです。
「ああ・・・! もう・・・ だめだ・・・!!」の瞬間のこともね(笑) マヤをどうしようもなく愛していると、自覚した大切な瞬間でした。だからこそ、もうこれ以上、偽りの婚約を続行することはできない、と。
それにしても、あのとき船上で二人きりの時間を過ごさなかったら、マヤちゃんも真澄さまも、互いの距離を崩せなかったんだろうなあ。紫織さん、キューピットになっちゃってるところが皮肉ですね。
私が思うに、あのときもし、紫織さんが船の時間に間に合っていたら。速水さんは紫織さんの用意した部屋に泊まって、婚約者としてそれなりに対応してたんじゃないかなあと。
そりゃあ、部屋見た瞬間に、顔赤らめて走り去ろうとしてましたけど、でももし、後から紫織さんが来たら、思い直して一緒に部屋に行ったと思うんですよね。
ひとりだったから、つい素直に、拒否反応が出ちゃっただけで。
紫織さんを前にしたら、自分の役割(フィアンセ)を思い出して、必死で仮面をかぶって、紫織さんに恥をかかせないよう配慮したのではないかと。
あの時点ではまだマヤと気持ちが通じ合っていないし、紫織さんが目の前にいたら、無下に振り払える速水さんではないと、そう思いました。