別冊花とゆめ2011年11月号『ガラスの仮面』美内すずえ 著 感想

別冊花とゆめ2011年11月号『ガラスの仮面』を読みました。以下、感想を書いていますが、ネタばれしていますので未読の方はご注意ください。

真澄さまが覚悟を決めた(^^)、 そんな回でありました。

正気を失ったかのように、薄暗い自室で紫のバラをちぎりつづける紫織さんを、強引に屋外へ連れ出し、外の空気に触れさせる。狂気のバラをすべて、片付けさせる。甘やかしてきた鷹宮翁を叱責する。

すべての言葉と行動が。いちいち納得できるものばかりで、その迷いのなさが格好よくて、感嘆しながらページをめくっていました。守るものができた人は強いな~。

これらすべての行動って、つきつめればマヤのためなんですよね。マヤと結ばれるためには、鷹宮との縁を上手にほどく必要があるわけで。
その結果、考えに考え尽くした結果が、この荒療治だったと。

きれいに別れなければ、とばっちりはマヤに行きます。別れることが重要というより、別れ方が問題なのだと。
だから、一晩考え抜いた結果が、あの行動なのですね。

鷹宮家に到着してからのマスミンには一切迷いがありませんが、読者としては、その前夜に悩み苦しんだ彼を見ているからこその、感慨があるのではないでしょうか。
速水さんだって、鬼じゃないんです。
紫織さんは自分ばかりが被害者のつもりですが、速水さんだって元婚約者に対する自責の念はあるわけです。錯乱した姿を見れば心は痛んだでしょうし、それでも婚約破棄を推し進めなければならない状況には、どれほどの苦しさがあっただろうと思います。

あの夜、飲んでいたのも。
うれしいお酒じゃないですからね。
床に転がった瓶もグラスも割れたガラスも。みんな速水さんの動揺した心を表していて。

さんざん煩悶した挙句、シャワーを浴び、ネクタイを締めて、朝食の席ではすっかり、「大都芸能速水真澄」の顔になる。この一連の流れが凄いと思いました。仮面をかぶる。いつだって、彼はこうしてきたのだろうな、と想像できました。
まあ、今回のも大きな試練ではありましたが。
これまでだって、大変なことはいろいろあったはずで。
そのたびにこうして、独りになってよく考えて。翌朝には素知らぬ顔で、当たり前のように出社したのだろうと。そうしてかぶった冷酷な仮面。それでも、本当は温かい人なのです。でなければ、悩んだりしないから。悩むって、戦略に悩んだんじゃないからね。良心の呵責があったからこその、あの酒量だったと思います。

>ぼくは もうあなたの“命令”はきかない・・・!
>お義父さん・・・!

ついに。心の中で英介に決別宣言ですよ。
この親離れには、かなりの痛みを伴うだろうなあと以前から思っていたのですが。あっさり実現しちゃったのはやはり、マヤと思いが通じ合ったからなのでしょう。
マヤがいれば、もうなにも恐くないってことなのかな。

紫のバラで埋め尽くされた、異常な状態の紫織さん部屋については、私は医者の指導がおかしいと思いました(^^;

正常な人間だって、あんな部屋に一日中閉じこもっていたら、気持ちがおかしくなるでしょう。安静にするったって、重病人でも大けがでもないんだから、軽い運動(散歩程度)は必要だと思うんですが。

そんな異常な部屋で、相変わらず「わたくしは紫のバラの花が大嫌い・・・」とは言うものの、「真澄さまはわたくしが嫌い・・・」と、自分の事に関しては「だい」嫌いとは言わない紫織さん。
解釈が相変わらず自己中心的だな~と思ってしまった。
あれだけのことをしでかして、すべてがバレて、自殺未遂で大勢の人に心配と迷惑をかけて、そのあげく「大嫌い」とまでは思われてないわ、「嫌い」なのかもしれないけれど・・・と思えるその、幸せな思考回路。
自己愛ですなあ。

なんかね、たぶん彼女の中では、やっぱり甘える気持ちがあるし、本気で「大嫌いとまでは思われてない」と思いこんでいるんでしょう。

病気とか怪我で、人の気持ちをひく・・・という経験が、紫織さんにはこれまでにもあったんじゃないかと思います。そうすれば優しくしてもらえるから。今回の鷹宮家の対応みてると、思いっきり振り回されてますからね、紫織さんの行動に。誰も、冷静な行動がとれてないというか。
それこそ、腫れ物に触るような扱いで、結果的にはどんなバカげたことでも許されてしまう。あの部屋中にバラの花とか、異常なのは紫織さんだけじゃなく、それを許す鷹宮翁以下家族も、同じじゃないかと。まして、婚約解消を申し出た男に対して、地位も財産も全部譲るから孫娘の言うとおりにしてくれ、と懇願するだなんて。よく考えると変過ぎる(^^;

私は、紫織さんが本格的に精神を病んだとは思ってなくて、詐病的なところがあるんだろうなと考えてたんですけど。マスミンが来たのに「あなたはだぁれ?」とか言い放っちゃうところを見ると、やっぱりな、でした。

死ぬほど恋い焦がれた相手のこと、忘れるわけがないと思うし。
部屋が暗くて顔がよく見えなくても、声をまったく忘れてしまうなんてことは、ありえないんじゃないかと。
精神錯乱の原因になった大好きな相手ですよ。その人の声を聞いて、まるで他人のように無反応、ってことはないと思うんです。
やっぱり紫織さんは、半分無意識では、わかってたと思う。目の前の人が真澄さまだって。でもまだ、駆け引きしていたと思う。
哀れな自分、を演出することに。
ごらんなさい。あなたのせいで私はこんなことになってるのです、と。

>おじいさまにいいつけますわよ

これは、紫織さんの人柄をよく表す発言だったかと。
これまでずーっとこうだったんだろうなあ。なにかあれば、みんなおじいさまが解決してくださった。だから速水さんのことだって、諦めたりしないんです。おじいさまがなんとかしてくださると、信じてるから。
実際、おじいさまは、「わしの持ってるもん全部やるから紫織の言うこと聞いてやってくれ」的なことを真澄に頼みこんじゃってますもんね。まともじゃないや(^^;

>これがぼくの責任のとり方です!

この発言にはシビれました。
かっこいいなあ、マスミン。これらの行動すべては、紫織さんのためというよりマヤのためであるのですが。でも結果的には、一番、紫織さんのためになってます。

あの、バラだらけの薄暗い部屋で、マスミンへのあてつけのように紫織さんが病人の生活を送り続けていたら・・・。それこそ、数年後には本当の病を発症することになったのでは、と。
それで、5年も6年もたってから、「外へ出なさい」なんて荒療治をしたら、それこそ残酷で性急過ぎる行為になってしまうし。

今この段階だから、これだけ乱暴なことも許されるのかな、と思いました。十分耐えられると思うし、紫織さん。

実際発狂していたわけではない、と思います。
要は逃げたかったのかと。現実から。
病人になれば、優しい速水さんが立ち去るわけはない、という目論見が、なかったとは思いません。

環境も、大事ですな。

マスミンが、夜中にあれだけあれこれ悩みまくったのに、翌朝には眩しい光射す朝食の席に、昨日の汗も迷いも(涙も?)さっぱりシャワーで洗い流して、ぴしっと決めたスーツで現れたこと、みたいに。

それなりの環境におかれれば、それなりの気持ち、というものが自然と湧き出てくるものだと思います。

もし、マスミンが汗まみれのヨレヨレシャツで、シャワーも浴びずに英介と朝食の席で顔を合わせたら・・・。
いくら仮面をかぶろうとしても、ほころびが見えてしまったかもしれない。

紫織さんも、天気のいい庭先で青い空を眺め、鳥のヒナを愛で、日差しを浴びていたら、暗いことは考えづらくなるのは当然です。思考も前向きになるはず。
気持ちのいい風に吹かれながら、後ろ向きになれ、厭な気分になれ、というほうが無理なんです。

ただひとつ心配なのは、紫織さんがそんなマスミンに惚れ直すんじゃないかと(^^;
だって今月号の速水さん、かなりカッコイイ。
そんな姿を見せたあげく「よかった。正気に戻りましたね。じゃあ僕はこれで。婚約は解消させていただきますので」だったら・・・。

ところでコージ君。マスマヤのラブっぷりを見た後、マヤに冷たい態度をとり続けるんですが、お子様にもほどがあるな、と。

ショックなのはわかる。そりゃそうだろう。
そっけない態度をとりたくなるのもわかる、無理もない。
だ~け~ど。
人前で、周りにわかるほど無視するってのはどうかと思いました。そこはほれ、社交辞令というものがあるだろうと。二人きりのときはともかく、他の人の手前、自然に振る舞うのが社会人ってもんじゃないのかと、説教したくなりました。
あれじゃ、マヤの立場がない。

そして黒沼先生。マヤと速水さんの関係が変化したことに気付いたようですが、それにしてもなぜ、他の人に、紫織さんの家の者を装って電話させたのか、謎すぎでした。
そんな電話しても、マヤが小切手を本人に直接返したのかどうか、確かめられないと思うんですけどね。

部屋に忘れ物なんてありませんでしたよ、と言われればそれまでだし。調べて、折り返しご連絡いたしますと言われれば困るし。

何なんだろう。
あの船に、紫織さんが乗らなかったことを予想して、それを確かめるための電話だった?
でも、だったら別に、自分がかければいいだけだし。演技力の要る電話とも思わないしなあ。

黒沼先生が、マスマヤの関係を知ったら。そのことを演技指導にどういかしていくのかな~と気になります。
紅天女の恋をつかむためのいいチャンス、と、マヤの背中を思いっきり押すのでしょうか。
稽古の一環だ、行って来い、なんて休みをとらせて伊豆へ送り出したりして(@^^@)

かなり以前の未刊行の連載で、黒沼先生が、真澄を一真に見立てて、マヤに演技をさせる、というのがあったと思うんですけど。たしか、真澄には椅子に座っててくれればそれでいいから、とかなんとか説得して。

あれ、もう一度見たいなあと思いました。
マヤの演技に引き込まれていくマスミンの描写が、よかったです。あのエピソードを復活させて連載されたら素敵だなあ。

あの連載当時は、マヤも真澄もお互いに両思いに気付いてない状況で、今とは多少状況は違いますが。

今のマヤと真澄にとっては、お互いの思いをあらためて知るいい機会になるだろうし、そんな二人を見たら黒沼先生も状況を一瞬で理解するでしょう。
まだ婚約解消できていなくて、ちゃんと言葉で愛を確かめることも許されないような二人にとって。演劇の中で、架空の人物になぞらえて思いを語ってもいい、となれば。どれだけせつなく、激しいものになるのかなあと。

マスミンは演技とかできなそう(拒絶しそう)ですが、マスミン相手に愛を語る阿古夜(マヤ)の情熱に圧倒される様が目に浮かびます。それで、「ありがとう、ありがとう」とか、心の中で言っちゃいそうです。「がんばるから。もう少しだけ待っていてくれ」なんて、密かに目で訴えたり。
対するマヤは、もう、ここぞとばかりに大胆に愛を語らう、みたいな。あくまで阿古夜であれば、許されることだから。
たとえ、婚約解消できていない真澄相手には無理なことでも。舞台のお稽古だったら、それは許されるから、みたいな。

来月号の展開が、楽しみです。

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