春の宵の空気が大好きだ。
今日の夜空はどんより曇って、空気は雨の匂いがする。この、湿気を含んだ空気が、いいのだ。
コートは着てるけど、外を歩くと暖かい。マフラーが要らないくらい、今夜は暖かく感じた。
星の見えない夜、外を歩いていると、必ずといっていいほど、私の脳裏によみがえる台詞。
昔、夢中になって見てたドラマ、『新金色夜叉』のワンシーン。
>宮「星も見えないのね。暗い空」
>貫一「ああ。まるで宮さんの髪の色を、ぬりこめたようだ」
なにぶん古い記憶ですので、一言一句正確に、とは言い切れないのですが、たしか上記のような会話をするシーンがあったのです。
すごく、いい雰囲気で(^^)
二人の間にあった憎しみや確執が消えさり、つかの間の甘い逢瀬を楽しむ、という場面でした。これがまた、とても胸を打つシーンだったのです。
姦通罪のあった時代。いくら宮が離婚に向けて動こうとしても、どうしようもできず。
表立って交際することなどできない二人が、夜の闇にまぎれて、互いの存在を確かめ合う、という。
別に抱きしめあうわけでもなく、約束をするわけでもない。
二人でいることがなにより幸せで。
いろんなしがらみでがんじがらめに縛られた二人が、一瞬だけ自由になれたその、圧倒的な幸福感。
むしろこのとき、星も月もいらなかったんだろうなあ、と思います。宮さんにしてみたら、星も月も見えないその暗闇が、まるで自分たちの立場を象徴しているようで、思わず言葉にしてしまったのではないだろうかと。
その、少し憂いを含んだ宮さんの言葉に、その黒は宮さんの髪の色だと返した貫一さん。
時間はかかっても、きっと大丈夫。必ず幸せにしてあげるっていう自信があるからこそ、言えたんだろうなあ。
その後ふたりがどうなったか・・・・以下、ネタばれしていますので、ドラマを未見の方はご注意ください。
最終回。どうなることかと固唾を呑んで見守る私の目の前で、ふたりはあっさり永遠の別れとなりました。
宮さんが心臓の病で・・・です。
原作は未完ですので、これはドラマのオリジナル結末ということになりますが、私はテレビの前で、唖然呆然、固まってしまったのを覚えています。
急展開、というか、最後の最後でこれかい、と。
月の輝く晩に、愛する人の胸の中で、というのはいかにもドラマ、という感じでしたが、あまりに唐突すぎて私にはなかなか受けとめられなかった。
貫一さん、救われなかったしね(^^;
だって、ずーっと兄妹のように育ってきた相手で、幼いながらに結婚の約束も交わしていて。当然結婚するものだと信じていたのに、年頃になった途端、見ず知らずの男に急にかっさらわれて。
悔しくて悔しくて、相手の男ばかりか最愛の宮さんまでも憎んで。復讐を誓うことでやっと自我を保っていたのに、いろいろあって、やはり宮さんを憎みきれない、救おうとしてしまう自分を発見し。
お互いに誤解も確執もとけ、心を通わせて。でもまだ片付けるべき問題は山積みで。それでも時間さえたてば、ひとつひとつ整理すればいつかは必ず、一緒になれると。信じていたのに。
待ちわびたその時がやっときて。もう誰にも隠さず、晴れて一緒になれるという、まさにその瞬間、お別れとは。
あの後、貫一さんはどんな人生を歩んだんだろう。
そんなことを考えたりしました。
役者さんもうまかったんですよね。
宮さん役が、横山めぐみさん。『真珠夫人』の瑠璃子役や、『北の国から』の れいちゃん役で有名ですけど。私にとっては、宮さん役が一番でした。
そして貫一さん役の石橋保さん。この方が貫一さん役でなかったら、私はここまでこのドラマにはまらなかったかも。それくらい、見事に演じてらっしゃいました。
若さゆえの真っ直ぐ感が、伝わってきました。憎むことで精神の均衡を保っていたのに、憎みきれない、それを上回る愛情との板挟みで苦しむシーン。目で、しぐさで、もう全身で叫んでるんですよね。言葉はなくても。「宮さんが大好きだー」って。
そして、クラシカルな背広が似合うところも素敵でした。特に、茶色がお似合いだったのです。
まだ宮さんと和解していない時期に。宮さんに呼び出され、茶のレトロな背広で、思いつめた顔で待ち合わせに向かう情景が、なんとも印象的でした。
負けまいと、心に言い聞かせてるんだろうなあと思って。
懐柔されまいと自分を叱咤しているだろうに、でもその場所へ向かうこと自体、すでに負けちゃってるんですよ(^^;
それにも気付かない。まっすぐな情熱。
私は、月も出ない真っ暗な夜には、『新金色夜叉』の台詞を思い出すのです。