幸せの料理 2

 料理には、作った人の心がこめられていると思う。

 以前住んでいた部屋の近くに、小さなパン屋さんがあった。イートインのスペースはなく、売り場も狭い。パンの種類も、いわゆる大手のチェーン店に比べたら、その4分の1。

 よく行く散歩道の途中にあったので、ときどき、買うことがあった。引き戸をあけ、すぐ右手がレジ。いつもはそこに誰もいない。奥の部屋で、パンを作っているから。

 声だけが、客を出迎えてくれる。「いらっしゃいませ~」と。

 パンを選びレジの前に立つと、絶妙のタイミングで白い三角巾のお姉さんが登場。手早く袋詰めにしてくれる。

 

 私はこのパン屋さんで、不思議な体験をしたことがある。
 いや、不思議な体験というには、あまりにもささやかなものかもしれないが。

 ある日。通勤途中にそこのパンを買った。ごく普通のサンドイッチ。

 お昼休み。その日はとくに忙しく、くたくただった。とにかく疲労感がすごくて、食欲もあまりない。

 なかば義務的に、持ってきたサンドイッチを口に運ぶと・・・・。

 ??????

 その瞬間、びっくりした。うまく形容できないのだが、初めての体験。味が美味しい・・というのとはまた別で、なんというか、エネルギーが濁流となって流れこんでくる感じ。
 とにかく、流れこんでくるのだ。何かが。よくわからないけどその何かは、疲れをすべて押し流し、ぼんやりした意識まで、覚醒させた。

 味ではないのだ。
 何か本当に、そのときはエネルギーを感じた。飲みこむと、自分の体がどんどん力を増していくのを感じた。

 ただ、それだけの話なのだが、それはまさに、初めての感覚だった。

 ちなみにその後も、サンドイッチを食べる機会はあったが、あのときのような衝撃を再び体験することはなかった。

 あの日、白い三角巾のお姉さんは、特別に気合いを入れて作ったんだろう、と私は思った。このサンドイッチを食べる人が、元気になるようにと。いつもにはない、なにか特別な思いが、あったのではないかと勝手に想像した。
 そしてたまたま、私はそれを買ったのだ。

 数値にはできないし、目に見えるものではないけれど。人の気持ちというものは、料理にこめられるのだなあと、そう思う。

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