美形の人との思い出

 昔、初めて好きになった人は、竹野内豊に似ていた(゚ー゚)

 今、テレビで竹野内さんを見るたびに、なんだか微妙な気持ちになるのは、そのときの名残である。もちろん、一方的に好きになっただけで、友達にすらなれなかったけれど。
 でも、彼氏いるの?と聞かれて嬉しかったことだけは覚えている。少しは、少しだけは興味もっていてくれたんだろうか、と、時が経った今でも、思ってしまうことがある。

 その頃、妙に美形の人との出会いが続いた。といっても、別に付き合うとかそういうことではなく。たまたまバイト先で出会った人が美形でびっくり、的なことだ。

 百貨店の催しもので、短期のバイトをしたことがある。
 そのときは大量のバイトが集められて、ランダムに、出展するお店に振られていった。私はとある洋菓子店の担当となった。

 はじめまして~と挨拶した彼。一週間はこの人とコンビを組むわけだ。どんな人だろうと思って顔をまじまじとみつめた。ちょっとびっくりするくらいの美形の人だった( ̄▽ ̄)

 なんかね、全く洋菓子店の社員て感じじゃないのね。仕事間違えてませんかっていう。

 それで私は考えた。あー私の趣味ってよく変わってるって言われるからな。私にとっては物凄く美形に見えても、世間的に見たらそうでもないのかもしれない。私にとって好みというだけなんだろうな。

 しかしそんな私の思いを打ち破る出来事が起きたのは、最終日だった。

 その日、私はものすごーく「誰かに見られてる」感じがして、そわそわしていた。人の視線を感じるのだ。見られてる。誰かに。でも何で?どうして? 誰なのか?

 理由はバイト終了30分前にわかった。
 真っ赤な顔をした百貨店の社員さんが、友達らしき人に連れられて、もじもじしながらやってきたのだ。私ではなく、私の隣に立った、彼の元に。

 勇気をふりしぼった声が響いた。

 「あのー、この後って、時間ありますか?」

 私の目が点になった。言葉の意味を、しばらくつかめなかった。私は鈍かったので、まさか彼女が彼を誘いにきているのだとは、すぐにはわからなかった。

 しかしこの言葉、それから彼女の赤く染まった頬をみて、私はすーっと彼から離れ、なるべく遠くに立った。

 一応これ、告白というか、誘いにきてるんだろうな。今日最終日だし、彼帰っちゃうしね。イベント終われば、つながりなんてどこにもないわけで。だからずっと、チャンスを狙ってたんだね。でも私がいつもペアで立ってるから、邪魔だったんだろうな。
 今日感じた視線の元はこれか。私が彼から離れるのを、待ってたんだろうな。そりゃ恥ずかしいよね。こんな告白、他のひとに聞かれたくなんてない。

 でも、私がいなくなるの待ってたら、時間がたつばかりで。やむをえず、恥ずかしいのも承知で、誘いに来たんだなあ。ここはせめて聞こえないふりして、せめて遠くで立っていよう。

 まあ、あれだな。今考えると、私もトイレ行って席外すとか、もっと気をきかせればよかったのだが。私がトイレ行っちゃうと、お客さん来た時に彼が対応せざるをえなくて、それも困るかなとかいろいろ考えた末。
 最善の策として、私は知らん顔で、彼女の告白になどまるで気付かない振りをしてさりげなく、その場を少し離れたのだ。といってもわずかな距離。

 彼は淡々としていた。そういう告白に慣れていたのかもしれない。
 あっさりと断っていた。この後、会社に戻らなきゃいけないと。じゃあ退社するのは何時なのか、遅くなってもいいから的なことを彼女が言っているのが聞こえたが、彼はそれもあっさり拒絶。彼女はうなだれて、去っていった。

 私は思った。ああ、私の思いすごしではなかったんだな。やっぱり、世間的に見ても美形の人だったんだ。恥ずかしさを押し殺してまで、誘いにきたんだもの。それも、好きすぎて一人では無理で、友達に付き添ってもらってまで、勇気をふりしぼってきたのにね。でもわかるなあ。この人ほんとに美形だもんね。

 そんなことがあってしばらくして。
 私はまた、別の仕事で別の美形に会うことになった。その人に会った時もやはり、私は自分の美的感覚を疑った。

 なんかすごく・・美形な気がするけど、私もよく趣味が変わってるって言われるからなあ。私の目に美形に映るだけで、世間的にはそうでないのかもしれないな。

 しかし、そんな私の思いはあっさり打ち砕かれる。彼はやっぱり、どこからみても美形だったらしい。なぜなら、仕事先へ向かうため彼と一緒に歩いていると、視線がバンバン飛んでくるのである。

 視線は二つの段階に分かれていた。

 通りすがりの人は、まず彼に目を奪われる。おそらく、「うわ~かっこいいな」という心の声。

 それからちらっと私を見る。「この不釣り合いな女性は誰?」的なもの(^-^;

 歩いていて、これまでこんなに注目されたことはなかった。そうか~、美形の人は常日頃、こんな視線を浴びているのだなあと、感慨深かった。めったにできない経験である。

 そしてそのとき感じた優越感。
 別に私が偉いわけでもなんでもないのだが、なんだか誇らしい気分になったのは本当である。こんなに美形な人と一緒に歩いている自分、というね。

 よく成功した人が、目の覚めるような美女を連れて歩いたりするが、その気持ちがちょっぴりわかったような気がした。ステイタス、というのだろうか。素敵な人と一緒にいることで、自分自身までが素敵になったような、そんな錯覚があるのだ。

 ちなみにそのときの美形さんは、女性には大変優しい人だった。当然モテモテで、遊び人だと他の人から聞いた。そりゃ無理もないわ、歩いてるだけであれだけ注目されちゃうんだもの、と納得したのだった。

 そして、その頃、友達に紹介されたある美形さんは、真田広之さんに似ていた。しかしこの美形さんは、女性恐怖症だった。

 あまりにもモテすぎて女性から積極的に迫られることが続き、女性恐怖症というか、女の人が駄目になってしまったのだという。

 友達からその話をはじめに聞いたとき、そんなことあるのかなと疑ったが、実際本人に会ってみて納得した。本当にきれいな人だったから。

 美形にもいろいろな人がいる。
 その美貌を活かして、たくさんの人と楽しく遊ぶ人、それから、モテるゆえに人間不信、人が駄目になってしまう人。

 必要以上に人目をひくのは、本当はなかなかキツいことなのかもしれない。顔で判断されることで、本当の自分をわかってもらえない気持ちになるのかもしれないし。

 美形も大変だなあと、思う。

 もし私が絶世の美女になりたいかと問われたら、答えはNOだ。たぶん、美形は本人の罪ではない種種のトラブルを招くから。

 私が最初に書いた、洋菓子の彼。あの淡々とした断り方は、トラブルを防ぐ、彼の精一杯の自衛だったのかなあと思ったりする。必要以上に優しければ、相手を期待させてしまう。かといって、冷たすぎれば恨まれる。
 好きでもない人に告白されるのは、やっかいごとでしかないのかもしれない。あの断り方は、さまざまな経験を踏んだ彼の、処世術だったのかな。

 はっとするような美形の人は、きっといろいろ大変なのだろう。ちょっと綺麗、くらいが一番平和で、幸せなのかもしれない。

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