ドラマ『二千年の恋』 感想

 ドラマ『二千年の恋』を見ました。以下、感想を書いていますが、ネタばれ含んでいますので未見の方はご注意ください。

 2000年に放送されたドラマです。当時は全く興味がなく、本放送は見ていませんでした。そもそもタイトルに「恋」が入ってる時点で、見る気は失せます。安易すぎる…愛とか恋とかいれときゃ、一定の視聴者は食いついてくるとか、そういう意図があったのかな。

 タイトルも、それから国際スパイものだという設定も、陳腐すぎて当時全く興味をそそられませんでした。

 そしてあらためて2014年、このドラマを見て思うのは、やっぱり荒唐無稽だなーと。
 あまりにも現実離れしていたり、つじつまがあわないようなことが多すぎて、冷めた目で見ていました。主人公である金城武さん演じるユーリと、中山美穂さん演じる理得(リエル)が、どちらも美男美女、美しいというところだけが見所で。

 私はコッテコテの恋愛ドラマって決して嫌いではないのですが、それなりに真実味のあるお話でないと、物語に入りこめないんですよね。いくらドラマとわかっていても、ちゃんと説得力が欲しいのです。ユーリは国際スパイという設定でしたが、もしこれが現実の話なら、理得がらみで不用意に勝手な行動をとるユーリは、お話のもっと最初の方で同胞から危険視され、命を奪われていたような気がします…。

 スパイが情報収集のために近付いた相手と、恋に落ちる。これ、絶対に許されないことでしょう。一番危険なことでしょう。私情が任務を左右するようになったとき、それを許しておくほど、組織は甘くないのではないかなあ。
 だから、理得を守ろうとユーリが彼女をホテルに匿ったとき、請われて一晩彼女と一緒にいたとき、もうその時点で、ユーリのボスはユーリを許さなかったと思う。決定的すぎる。
 連絡もなく、長時間行方不明になっちゃったんだから。仕事中のユーリが。

 理得をどうこうしたところで、不信はぬぐえないはず。もうユーリそのものに対する信用がゼロで、ユーリは即刻、仲間から殺されてもおかしくなかったと思います。

 二人きりで、いろいろ素直に話すシーンはロマンチックでしたけども。現実味はまるでなかった。そんな時間を過ごせば、もう、何事もなかったかのように、ユーリは仲間の元に戻れるはずなんてないのに。そのことに対するユーリの覚悟が、見えてこなかった。

 そもそも、ユーリがスパイっぽくない…。
 それは最初から思ってました。金城さんが気のいいお兄さんにしか見えないから。スパイの凄みも、陰も見えなかった。
 どうしても隠しきれない人の良さが、金城さん演じるユーリにはありました。お気楽なあんちゃん。のんきで楽天的な自由の国の好青年に見えました。むしろ。

 だからどんなに、ドラマでユーリの運命の過酷さを説明されても、どこか遠い出来事のようで。その重さを、実感することはできませんでした。

 ところがです。このドラマで私が心を奪われてしまったシーンは、最終回の最後の最後に出てきたのでした。

 それは、家族全員を国に殺され、弟も父もその手にかけたという壮絶な人生をいきたユーリが、理得を人質にとられ、究極の選択を迫られるシーンです。

 そのときのユーリの表情は、忘れられないものでした。
 fayrayさん演じるナオミは、爆弾のスイッチを、人質にとった理得の心臓の前にかざします。スイッチを撃てば、理得を撃つことになる。ユーリは撃たないだろう、とナオミは確信しています。

 ユーリの目から涙が流れて。ユーリは理得を撃ちます。そのときの表情が凄いのです。ナオミに対する怒りや苛立ちではなく。静かな哀しみが、涙と共に流れて。

 理得がそのとき、スコープ越しに小さくうなずいたのを。「撃って。たとえ私が死んでも、みんなを守って」という彼女の心の声だと、ユーリが解釈したのであろうことは容易に想像できますが。
 なんだか、その前に、ユーリは理解してしまったような気がしたのです。理得の意志がどうであれ、ユーリは撃つことをもう決めていたように思います。ナオミは絶対に引かない。二択しかない。なら答えはひとつだと。

 もちろん、理得が暴れて、撃たないで、死にたくないと抵抗するのを目の前で見たら、ためらったかもしれないですが。理得はそんな女性ではありませんし。

 理得と生きる、新しい人生なんてどこにもなかったんだと。人質にされた理得を見たときに、誰よりも早く深く、ユーリは悟ってしまったような気がしてならないのです。だからこその、哀しみの涙だったような。全部わかってしまい、悲しい結末がすぐそこにあることを知っての涙。

 ドラマで映像として描かれた、荒唐無稽な過去よりも。もっとたくさんの、もっと苦しい出来事が、どんなにかユーリにはあったんだろうと、そう思わせる表情でした。表現が大げさでないぶん余計、心にしみました。
 ユーリの過去が、垣間見えたようで。

 

 自分の銃弾が、多くの人の命を救う一方で。大切な相手の命を奪ってしまう。ユーリの苦悩。彼女を失えば、自分も生きてはいけない。私はユーリの指にかかる引き金の重みを、まるで自分のことのように感じながら、画面に見入ってしまいました。

 その後がまた、ユーリらしくて。撃ったのは自分だから、彼女が確実に死ぬであろうことも、誰よりもわかっているわけです。そしてふらふらと、放心状態で理得の元へ歩み寄り、警官隊に撃たれて理得の横に崩れ落ちるのですが。理得のすぐ横であっても、決して理得の上に倒れないところがまた、ユーリの優しさであると思いました。

 最後なら、普通は触れたいと思いませんか。顔でも手でも。抱きしめたいと思えば、理得に覆いかぶさるようにして崩れ落ちてもおかしくないと思うんですよね。でもそしたらきっと、痛いし重い。だからこそ、わざと、真横に倒れて。それで理得のことを見るんですよ。

 許しを請うように? 救いを求めるように? 理得が目を開けて、視線が合ったら、ユーリは一瞬だけかすかに笑って、すぐに目を閉じて。この、微笑すれすれの演技がすごいと思いました。
 実際には表情は笑ってないかもしれないです。でも見えるんですよね。笑ってるユーリが。

 演出もすごいし、それにぴったりはまったのが金城さんだったと思います。

 ただ、理得が妊娠していたという後日談は蛇足だと思いました。う~ん、本当にこのドラマ、そういうところがやりすぎというか、陳腐というか。むしろ、そういう設定はない方が、二人の最後にはふさわしかったと思います。余韻が台無しになるといったら、言いすぎかな。

 このドラマ、最後の金城さんの演技が、しみじみと心に残ります。全11話ですが、最後の表情にやられました。それまでの10話の物足りなさが、ふっとんでしまう勢いです。

「ドラマ『二千年の恋』 感想」への2件のフィードバック

  1. 他国のテロ工作員と、彼のテロを止める方向に導いていく聡明な女性。一般の普通の会社員の女性が、工作員の人間的な部分と向き合い愛し、最終的には閉鎖的なテロ支援国家と日本の国交を結ばせてしまう、恋愛ものを超越した、壮大なストーリーですよね。

    金城武さんの日本語のセリフは、このドラマに関係なくちょっと聞き取りづらいことがあるけれど、それがまた他国の人の雰囲気を醸し出していて、中山美穂さんの演技もナチュラルで、東幹久さんのチンピラっぷりは徹底しているし、宮沢さんの執念深い刑事キャラも最後まで一貫している。挿入歌もエンディング曲も、ドラマを盛り上げていて。最近、第1~最終話まで一気に、17年ぶりに見ましたが、素晴らしかったです。

    ただひとつ残念だと私が思ったことは、8、9話あたりの金城さんの髪型。なんか伸びたのを放っておいた感が強くて、撮影のヘアメイクさんに物申したくなります(笑)8話のちょっと長いキスシーンが、あのモサイ(失礼!)髪型でも素敵に見えるのは”金城武さん”だからこそなのでしょうね。やっぱり好きな役者さんです(^^)

  2. マカロンさんこんにちは。
    心に残るドラマですよね。本当に、曲もぴったり合っていました。マカロンさんの「東幹久さんのチンピラっぷりは徹底しているし」のコメントには思わず笑ってしまいました。確かに、真に迫る演技でした。
    髪型に関しては、私は全然気にならなかったです。むしろユーリの追いつめられ感を出すためにわざと、のような気がしました。理得を好きになればなるほど、逃げ道がなくなっていく・・・
    でも金城武さんの最高傑作は、二千年の恋よりも後に作られた『ゴールデンボウル』だと、個人的には思っています(^^)それも、「僕は・・・覚えてます」というセリフを言った瞬間です。
    証券会社の独身サラリーマン、たしかにあんな人いそうだし。少し弱気で、奥手で、かっこいいけど、独身の理由もよくわかる(^^;
    金城さんはアウトローな役より、ああいう身近な役な方が似合うなあ、と思いました。

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