『殉愛』百田尚樹 著 感想

 『殉愛』百田尚樹 著 を読みました。以下感想を書いていますが、ネタバレ含んでおりますので、未読の方はご注意ください。

 読後、一番に思ったのは、百田さんどうしちゃったんだろ…ということです、悪い意味で(;;;´Д`)ゝ 

 ノンフィクションのはずなのに、一方的な立場からしか書かれていません。記述は全部、さくらさんかさくらさんを擁護する人たちへの取材に基づくもので、この本は全編、さくらさんを褒めたたえる内容になっています。

 娘さんやKさん、Uさん、そして前妻さえも、ひどく性格の悪い人のように描かれているのですけれども。本当にそうなのだろうか?と、なにかもやもやした気持ちが残ってしまいました。

 特に娘さんに関しては、本当にお気の毒だと感じました。
 小さな頃に両親が離婚。お母様が亡くなり、たかじんさんのお母様の元で育てられたとのこと。こうした背景があったなら、なおさら、たかじんさんが亡くなるときに会うべきだったと思うのです。

 もちろん、父と娘の間でいろんな思いや、行き違いがあったのかもしれませんが、たかじんさんがたとえ「会いたくない」と言ったとしても、娘さんには、「会う権利」があるし、それはたかじんさんの思いよりも優先されるべきです。だって、親なのですから。

 まして、娘さん自身は他の報道でインタビューに答え、たかじんさんの入院先も、末期がんのことも知らなかったと主張されているようです。それが本当なら、この『殉愛』で悪者にされてしまっているのは、あまりにもひどい話だと思いました。『殉愛』だけ読んだ人には、娘さんはとても非情でお金に汚い人だと誤解されてしまいます。

 私は宝島社の検証本『殉愛の真実』の方を先に読んでいるので、いろいろ『殉愛』の矛盾が気になってしまう、というのもあるのですが、仮にこの『殉愛』を先に読んでいても、おかしいと感じたと思います。

 あと、この本は最初から最後まで、とにかく未亡人であるさくらさんを、賛美した内容になっていて、そのことにも違和感を感じました。
 二人の愛、を謳う本なら、たかじんさんも美化されているのかと思いきや、たかじんさんはだめな男として描かれているんですよね。女性関係のだらしなさなど。そして、おそらくさくらさんだけに打ち明けた心の内面、本当にこれは公開すべき内容だったのかなあ、と疑問です。
 二人だけの間のこととして、胸に秘めていてもよかったのかなと。この本を世間に発表することを、たかじんさんは本当に喜んでくれたのでしょうか。

 人それぞれ、考え方は違うと思いますが。
 もし私がたかじんさんだったら。自分がつけていたメモなどは、公開してほしくないです。そして、勝手かもしれませんが、自分の中の醜い部分は、そっと隠したままでいてほしいのです。いいことならともかく、恥ずかしい内容などは、世間に向けて公表してほしくないです。

 妻なら、もう少し夫を美化した内容を、本に載せるよう求めるのが通常ではないかと。
 たかじんさんが浮気癖のあるどうしようもない男である、という内容が本に載ることで、結果的に妻であるさくらさんは、ダメ夫を支える素晴らしい妻である、という印象が強いのですが。

 あれ、この本て、愛を描いた本じゃなかったっけ?
 一方的に、さくらさんサイコー、という、さくらさんの本になっていると感じました。

 そして最後に、これは一番まずいだろうと思ったのが、聖路加国際病院で亡くなった後、たかじんさんをお風呂にいれてあげる、という場面です。
 医師が「お亡くなりになりました」と言って、死亡診断書を書くために病室を出た後、寺田さんというナースマネージャーが「お風呂に入れてあげる?」とさくらさんに聞いて、寺田さんの許可のもとで、たかじんさんの体を入浴室に運んだとのことですが。

 体を洗ったり、洗髪したり、湯船に入れたりしたそうです。

 それは、たかじんさんが亡くなった後ですから、いわゆる湯灌のことですよね。でも、病院内に湯灌の施設なんてあるのでしょうか。これ、もしかして普通の入院患者さんが使う入浴室なのでは? だとしたら、いくら有名人とはいえ、衛生上からもとんでもないことだと思うのですが。もしそうだとしたら、美談でもなんでもないです。単なる非常識な行為になってしまいます。

 その点がとても気になりました。

 この『殉愛』、読んで感動は全くありませんでした。むしろ、??と思う点が多すぎて、百田さんどうしちゃったんだろうっていう疑問がわいてきます。
 これを、本当に感動の話だと信じきっているのなら、ちょっと…。

 闘病には各自、いろんな背景があるし。命に係わる病気なら、各々、家族は壮絶な看護になると思うんですよね。それは、誰かがすごいとか、すごくないとかではなく。誰だってそうだと思うんです。
 家族のために必死になるでしょう。
 読み終わって、たかじんさんの最後の2年が特別だとは、思いませんでした。

 どんな人生もその人の生き方であるので、この『殉愛』出版を含めて、たかじんさんの生き様だったんだろうと思いますが、娘さんに対してはお気の毒に思います。父に愛されていないように、本の中では描かれていたけど、それはやっぱりひどい話です。

 そういうことは書くべきではないと、そう思いました。

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