閏日(うるうび)の参拝と雷雨

 その神社に、奥宮があるというのを知ったのはつい最近のことで。
 私はいつものように参拝を終えたあと、ふと、奥宮もお参りしようと思い立ったのだ。神社のわきにある川沿いに、ずっと道が続いている。この道をたどれば、奥宮に行けるんじゃないか、と。
 スマホで確認。確かにこの道を歩いていけばたどり着く。奥宮は標高500メートルほどの山頂にあるらしい。ただし、問題は時間だ。ここから往復で4時間半。
 山の日暮れは早いしなあ。その時点で、時刻は12時をとっくに過ぎていた。微妙。
 走ればなんとかなるかな。
 深く考えるより先に、歩きだしていた。いいや。行ける所まで行こう。往復の時間を計算して、帰るのに困らない時間まで行けばいい。
 空気はまだひんやりと冷たい。けれど、川沿いには梅が花を咲かせていた。春だなあ、と思う。
 林道を歩きだす。人気はまったくなし。この先も、誰にも会わずにいくのかな。気楽な反面、怖い気もする。
 大丈夫。ここは神域。変な人もいないだろう。もしここで何かあれば、私にはよほど、徳がないのだと諦めよう。
 早足になって10分。さっそく分岐点に到着。大きな看板が出ていた。
 なんと、この先の道路は崩れていて通行止めだという。ただし、別荘までは行けますと。
 午前中、小雨が降ったりやんだりしていたせいで、足元はぬかるんでいた。この状態でそんな道路を通るのはまずいかな。せっかく奥宮へ行けると思って、早足で歩くうちに、なんだかウキウキ、心が弾んできたのに。
 今行きますよ~って、神様に向かって叫び出したいくらいに。
 でも、別荘まではいける。
 私はその言葉を、もう一度読んだ。
 別荘までは行けるのか。じゃあ、そこまで行くのは別に悪くないよね。立ち入り禁止というわけじゃない。
 というか、そもそも別荘って何?
 この付近に別荘があるだなんて、聞いたこともない。特別な景勝地というわけでもなく、道だって整備されてないこの地に、別荘?
 奥宮にも興味があったけど、別荘にも興味が出てきた。どんなお家なんだろう。よし、行ってみよう。
 誰にも出会わないまま、どんどん林道を進んで行った。道は細くなったり太くなったり、途中工事中の箇所もあったけれど、人気は全くなし。
 30分進んだところで、なんと家が出現。これがあの看板の言っていた別荘なのだろう。7~8軒はあるみたいだ。木に隠れて、全部は見通せないけど。どの家も、一部屋か二部屋あるくらいの、小さな家だった。
 しんと静まり返って、誰もいない。見晴らしがいいわけでもないこの場所に、なぜ家が、こんなに建っているのか謎である。たとえば週末に、独りになりたくて、隠れ家をここに建てたのか?
 でも1軒じゃない。複数の家がこの近辺に集まっているのは、仲間で建てたの? それにこんな細い道、建築会社の車、通れたのかな。
 
 はてなマークばかりが、頭の中を駆け巡ったけど。
 私はこの場所の雰囲気がとても好きだと、そう思った。夜になれば、真っ暗。こんなところを通る車もない。部屋には暖炉があるのかな。煙突ないから、それは無理か。でも暖炉あったら、素敵だろうな。
 人気がないと、防犯上は不安だけど。でも、喧噪から離れたこの空間は貴重だ。こんなところで一晩を過ごす気分は、どんなだろうか。
 別荘地に到達した後、道は行き止まりになっていて。
 その代わり、その横に山へ登る道があった。奥宮はこの先らしい。狭くて、車は通れない。傾斜のきつい坂道。両側から鬱蒼とした木が覆いかぶさって、かなり薄暗い。足を踏み入れるのには、かなりの勇気が必要。
 なにより、道の入口には立入禁止の掲示があった。
 この先は、歩行者も立入禁止だという。道が崩れていると。
 細く暗い、不気味な道(それも立入禁止の掲示あり)に、足を踏み入れよう、なんて気はおこらなかった。迷うことなく、引き返すことを決意。
 いい雰囲気の別荘だったなあ。どんな人が住んでるのかなあと、そんなことを思いながら、歩き出すとすぐに。
 いきなりの雨。それも、あっという間に、音をたてて豪雨になった。
 そりゃたしかに、午前中は小雨が降ったりやんだりしてたけど。午後はたしか、晴れると言っていたのに。ここに来るまでは、降ってなかったのに。
 雨宿りしようにも、建物なんてなにもない。戻って別荘の軒下を借りることもちらっと頭をかすめたけど、辺りの暗さ、豪雨は一時的なものとは思えず。
 何時間も、誰もいない場所で雨宿りしたあげく、増水した川を横目に泥だらけの道を帰る、というのは考えただけで恐ろしい。
 私は雨の中を急いだ。走ると転びそうだったから、早歩きで。目の前が白くなるほどの、土砂降りの雨。そして極め付けは、雷。
 
 雷鳴は、山全体を振動させるほどの勢い。こういうとき、木の下っていうのもたしか、危ないんだよなあ、なんて考えながら。バッグから買い物用のエコバッグを取り出し、頭にかぶった。厚手のコートを着ていたから、上着は濡れなかったけど、ズボンは、足元から膝あたりまでびっしょり。
 雷は、おさまることなく鳴り続けた。30分たって、やっと私が出発点の駐車場まで戻った頃に、やっと雨がやんで。なんと雲間から陽が射した。
 さっきまでの雷と大雨はなんだったんだろう、みたいな(^^;
 道が復活するまでにはまだ時間がかかるだろうから、すぐに再チャレンジはしないけれど。工事が終わったら、今度こそ奥宮へ行ってみたいと思う。5月くらいなら、季節もいいし、道も出来上がっているだろうか。

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