ドラマ『コントレール~罪と恋』の感想を書きます。以下、ネタバレ含んでおりますので、未見の方はご注意ください。『運命に似た、恋』についても、触れておりますので、ご了承ください。
『コントレール』は、NHKで4月15日から6月10日まで放送されていたドラマです。なぜ今さら、という感じですが、感想を書きたくなった理由は、『運命に似た、恋』の第1回放送を見たから。運命…の方を見て、改めて『コントレール』の良さに気付いたというか。
描き方によって、ドラマって全然違うなあっていう。
私は断然、『コントレール』の方が好き。大人なドラマで過激なシーンもあり、決して昼間に家族団らんで見るタイプの作品ではありません。ただ、本当に綺麗です。主役お二人が、とにかく綺麗。眼福。
『運命に似た、恋』を見たいと思ったのも、主役二人の名前に惹かれたからだったのですが、第1話が終わったとき、がっかりしてしまいました。原田知世さん演じる桜井香澄の、軽さ。斎藤工さん演じる小沢勇凜(ユーリ)の薄さ。ドラマの世界に入りこめず、白けてしまって。
共感もできなかった。クリーニングのお客さんから、あっさり高額なお下がりをもらう香澄や、いくら誘われたとはいえ無関係な世界のパーティーへ、しかもコスプレして出かけてしまう浅はかさ。
そして何より、ユーリが駄目すぎた(^^;
好きな相手が騙されて変な服装させられ、ピンチだというのに、笑うかなあ、そこでっていう。なんの救いにもなってない。自分が香澄だったら、あの場で助けてくれるどころかみんなと一緒になって笑ってるユーリには、一瞬で冷める。その後どんなにとりつくろっても、愛情が蘇ることはないだろう。
原田知世さんも、斎藤工さんも、影や寂しさを感じさせる俳優さんで。斎藤さんは、ガラスの家での好演が印象深かった。『運命に似た、恋』はもっと、静かで激しい恋愛ドラマなのかと思っていたら、予想を悪い意味で裏切る展開でした。
その点、『コントレール』は凄かったです。もうね、第1話が、最高潮だから。こういうドラマも珍しいなあと思う。
あらすじはといいますと、石田ゆり子さん演じる青木文(あや)と、井浦新さん演じる長部瞭司(りょうじ)が偶然出会い、お互いに惹かれあうんだけど、実は以前、あやの夫を不可抗力の事故のようなもので死に至らしめたのが瞭司ということがわかって…という、なかなか重い話です。
でも、第1話はとにかく、主人公二人の演技に引き込まれてしまいます。
石田ゆり子さん美し~。思わず実年齢を確認してしまいましたが、そりゃ瞭司もカレー食べに来るだろうなあと。あんなオーナーのいる店だったら、毎日通う常連さんがいっぱいいそうです。
あやの役がとても合ってます。もう石田さんがあやなのか、あやが石田さんなのか。そのものになりきってました。
これ、石田さんがあやの役じゃなかったら、ドラマの魅力が半減してたと思います。ただ綺麗なだけじゃなくて、そこに不幸な影や、だるさや、事件へのやりきれなさや、周囲へのうんざり感をそこはかとなく漂わせた女優さんじゃなきゃいけないから。
そして適度に肉食、適度な色気。過剰だと引いちゃうし、少なすぎたら魅力がない。
石田ゆり子さん、奇跡のバランスでした。この役ができるの、石田さんしか考えられない。
そしてそれは瞭司役の井浦新さんも一緒。井浦さんでなければ、このドラマは成立しなかった。正義感と、もろさと、ピュアなところを言葉じゃなく、全身で表現してた。
寂しい同士の恋愛。生き物の本能なんだと思います。異性に救いを求めてしまう瞬間。
ただ、私が思うに、愛情の深さはあやの方に軍配が上がる。瞭司はたぶん、引きずられた。あんな美女が、ぐいぐい迫ってくるのですから、事情はよくわからずとも、恋愛とか抜きにしても、「キスして」って言われたら、抱きしめることがあやを助けることになることはわかったはず。
そして瞭司自身も、罪の意識から人との接触を避けながら、本当はずっとぬくもりを欲していただろうから。両者の利益が一致する、なんていうと、身も蓋もない言い方かもしれませんが。
あやは、瞭司に一目ぼれしたのだと思います。顔が好みのどストライクだったのでしょう。理由も理屈もなく、初めて目を合わせた瞬間に、魅入られてたのが伝わってきました。
対する瞭司は。そこまであやに、運命を感じたとは思えなくて。
たぶんですけど、弁償の封筒持ってきたときは、別にあやのことをどうとは思っていなかったんじゃないかと。ただ、看板を壊した責任感で訪ねてきたわけです。それで、会ってみるとあやはいい人そうだし、美人だし。夜、仕事帰り、疲れてちょうどお腹もすいていたところに、カレー食べていきませんかと言われたらそりゃ食べるでしょう。
このお話は、あやがぐいぐい行かなかったら、成立しなかった。瞭司は引いてますからね。決して自分からあやのところへ、向かってはいかない。次の日にドライブインに食事に来たのも、通り道だったというのが大きかったと思う。わざわざ回り道はしてないはず。
本当なら、カレーを食べた夜で終わっていた。だけどあの日、家を飛び出したあやが泣いてて振り返ったとき、瞭司がいた。そこからの急展開は強引なんだけど自然で、お互いに相手が必要で、親しくなることで痛みが緩和されていく感じが伝わってきました。
このドラマ、盛り上がりという点では、1話が最高潮です。後は、そこからどう着地するか、ですね。
結局、別れを選んだ二人でしたが。私はそれがよかったと思います。瞭司が声を取り戻し、ひこうき雲のトラウマを乗り越えたのはあやのおかげですが、じゃああやと結婚して彼が幸せになれるかというと、それは違うような。瞭司は純粋な恋愛対象としてあやに愛情を感じていたのではなく、あやに助けられたというその事実が、感謝や思慕をごっちゃにして恋愛もどきの一時的な感情の昂りを生み出していたような。
声が出なくなり、袋小路にはまっていた瞭司ですから。どちらに歩いていけば出口があるのかわからず、暗闇でもがいていたのを導いてくれたのがあやで、でもそれは本当に恋愛なのか?っていう。
思うに。恋愛は条件ではなく。なぜだかわからず、だけどその人と一緒にいたい。ただそばにいるだけで幸せ、というものではないかと。理屈ではなく。
あやの姿には、それを感じました。瞭司に引き寄せられてる、見えない糸の磁力。
瞭司は、違っていたような気がします。桜の下であやを久しぶりに見たとき。綺麗だと思い、見とれはしたけれど、抑えきれないほどの「近付きたい」衝動はなく。涙を流したのも、静かな涙で。もし本当に心底好きになっていたら、あんなに静かに泣くのではなく、もっと激しく感情を爆発させていたと思うのです。
どうせ結果として二人は別れるのに、短い付き合いに何の意味があったのかと一瞬思ってしまったけれど。でもその短い付き合いが、あやをまた新しい人生に押し出す力となり、瞭司の声を取り戻す治療薬となったわけで。
ただ一つ、このドラマで残念だったのは、原田泰造さんが、瞭司のライバルである佐々岡滋役を演じたこと。佐々さんのイメージ、泰造さんだと何かが違うのです。しっくりこない。泰造さんだと、泰造さんにしか見えなかった…。
とにかく石田ゆり子さんと井浦新さんの組み合わせが抜群で、その他の気になる点を全部、見えなくするぐらいに輝いてました。この二人だから、魅力的でした。余韻を残す、ドラマです。