ドラマ「アシガールSP」の感想を書いていますが、ネタバレ含んでおりますので、未見の方はご注意ください。
いやー、一言でいって、「よかった」です(^^) 続編とかスペシャルと銘打つものが、本編と同じクオリティを持つことは稀だと思うんですが、よくぞ90分であれだけの世界を描いたなあと。
本編のダイジェスト版を見た後だけに、90分がどれほど短いものか、よーくわかってます。だからこそ、スペシャルが本当に丁寧に、視聴者の期待に応えるべく、考えられて作られたことがわかります。
ドタバタラブコメではあるんだけど、深いのです。途中、真剣に考えちゃったもんね。若君様の選択肢に何があるんだろう。どうすることが幸せなんだろうかと。
一度和議を結んだのに高山の裏切り、みたいに唯は思っちゃってるみたいですが、織田信長が登場した時点で、もう高山には選択の余地なんてない。従うか、抗うかのみ。そこに高山の意志など存在しないでしょう。
それと、羽木家も腹をくくらねばならない時が、来たんですよね。皆が一時的に城を逃れて、近隣に逃げたところで信長が見逃すわけないじゃ~ん、ていう。全国統一目指してるんだから、そこはきっちりと、つぶしていくと思う。じゃあどうすればいいのか。圧倒的な兵力の違い。戦えば滅亡。ならば、降伏して信長に仕えるか、戦って死ぬかの二択になってしまう。逃げても、結局は殿と若君の首だけは取られることになるだろうし。
とりあえず、小垣城へ向かう若君。時間稼ぎにしかならないことを知っていても、まあ、それくらいしかできることはないよね。唯に知らせなかったのは当然。着いていくと駄々こねられても困る。しかしまさか夜着で追いかけていくとは、唯は、本当に目の前の自分たちのことしか考えていないのだなあとしみじみ。
ドラマの中で、唯の考えが浅いところが時々気になりました。若君は一族全体の行く末を考えて行動しているんだけど、唯はあくまで自分と若君の未来に焦点を絞る。平成生まれの女子高生で、若君より2歳下だと仕方ないことなのか。でも、あれだけ若君と一緒に行動してお城での生活もあったんだから、もうちょっと心が成長してもよくないか?
一番「ええー!!」と思ってしまったのが、明日降伏する(切腹する)と決めている若君に、結婚をせまるところでした。ここは唯に対してイラっとしてしまった。いや、それどころじゃなくない? 祝言とか挙げてる場合じゃなくない? それは唯にしてみたら一番の願いかもしれないけど、若君の立場や気持ちを思いやったら、今それ言う?
私の中で、唯の評価がダダ下がりです(^^;
まあ確かに、唯のおかげで今、若君が生きているというありがたさはあるけども。でも唯だって、若君がいなかったら何度も死んでるよね。毒キノコやら戦闘やら。若君は命の恩人じゃん。そして若君の立場を思うなら、あの場で祝言の話とかするかなあ。
そして、「待てぬ」の若君がツボでした。そりゃあの状況で「待って」とか、唯が間違ってる(^^;でも結局待ってあげる若君は優しすぎて、どんだけ完璧な人なのかと。
あと、現代に帰ろうとする唯に、背中を向けるところもよかったです。そりゃあ、見てられないよね。胸が張り裂けるよ。それ以前に、唯がいなかったら…みたいなことを言う若君にも、キュンキュン(死語)させられました。
若君の孤独、について考えてしまった。領民、家臣、大勢の命を預かる責任の重さ、己ひとりの幸福を追求するわけにはいかないよ。そこが、どこまでも能天気な唯との違いなのです。でもその唯しか、いないのです。普通の姫相手だったら、表面上の勇ましさだけを取り繕わなければならないから。いろいろ本音で話せる相手は貴重です。その人が妻になってくれるなら、どんなに心強いか。でも、その人を危険にさらすわけにはいかない。逃がす手段があるなら、逃がさねばならない。二度と会えない場所であっても。
そんな若君の苦悩が、胸に響くシーンでした。唯とはどんどん親しくなっているだけに、本編の第8回以上の苦しさがあったのではないでしょうか。
死なない約束をしたから、屈辱に耐えても、切腹ではなく生きる選択をした若君。当時の状況を聞いて、すすり泣く臣下の者たち。唯の甘さを叱責するおふくろ様。おふくろ様もすごくいいセリフだったと思います。
しかしやはり、唯は唯でした。変わってない。わかってない。
だって、若君様が相賀の娘と結婚するのを、ぶち壊しにいくんだもの。いや、私は相賀の娘との婚儀の書状を、成之さまが持ちだしたとき、「その手があったか」と一瞬喜んだのですよ。だって、それこそ婿になることで、若君の命は救われるし、落ちのびていく羽木家の皆を、陰でこっそりサポートできるじゃないですか。婿としての発言力がどれほどのものかはわからないけど、少なくとも現状の、敗残の将としての生殺し状態からは逃れられる。そして、若君が皆を助けられる、唯一の道。
落ちのびたとして、城を失った羽木家の暮らしが、いいものであるはずもなく。親戚とはいえ、世は戦国。もし信長に「差し出せ」と命じられれば、そこに羽木家の居場所などない。
相賀の家の、戦の使い捨て駒なら、遠からず若君様には死、あるのみ。己の命を長らえ、羽木家を救うには、相賀の娘との婚儀は願ってもないチャンスのはず。
皆に賛同され、婚礼をぶち壊すべく意気揚々と走っていく唯の姿を見て、私は複雑な気持ちになりました。だって、悲しいかもしれないけど、この時点で唯が現代に戻れば、すべては上手くいくのでは? と思ったから。唯にだって、帰りを待つ親がいる。なにより、今唯が身を引けば、一番丸く収まるのに。婚礼ぶち壊して、その後、二人で現代に行くことが、若君の幸せなの? 残された一族のこと、若君が憂えないはずないのに。
月の人を演じる唯と共に、逃げ出す若君の殺陣は、ひたすら美しかったです。恋人を守る男性の図って、本当にかっこいい(^^) 唯の手を引きながら、無敵の強さで道を切り開く姿にほれぼれしました。眼福、眼福。あの後、じいが責めを負わされたであろうことには、心が痛みますが、じいを連れて逃げられないしなあ。
現代パートでは、若君が違和感満載でした。カツラが合ってないのかな。なんともいえない、「コレジャナイ」感。やはり若君には戦国が合う。現代のイケメンではない。それに、ちっとも幸せそうじゃない。もしも現代で二人がずっと暮らしたら…若君は唯に決して愚痴をこぼさないだろうけど、半分死んだような生活になると思いました。魂はずっと、戦国に残したままで。
たぶん、楽しいふりしてたんだろうなあとは思います。唯のために。唯が望むことを叶えてあげて、唯の恩に報いて。でも一瞬だって、若君は一族が暮らす戦国の世を、忘れた瞬間はないと思う。
若君役の伊藤健太郎さん、ぴったり役にハマっていました。佇まいが武士なのです。強く、優しく、思慮深く。
ドラマを見終わって、これはもちろんフィクションなんだけど、似たようなことは戦国時代、全国で起きていたんだろうなあと、そんなことを思いました。小国が、吸収、合併、滅びていく例は、無数にあったでしょう。だけど統一する強大な権力がなければ、それはそれで、地方での小競り合いは続いたでしょうし。
戦国どころじゃない。つい最近だって。明治維新もまた、多くの悲しみがあったはず、と、そんなことを思いました。今まで武士だった家が、武士でなくなる。そのことの重みです。もう社会構造が、根底からひっくり返ったのですから、衝撃はどれほどのものだったのかと。表に出てこないどれだけの人生が、激変したのかなあと。
ドラマ「アシガール」、好きです。しばらくは思い出して、いろいろ考えると思います。