『遠いうねり』栗本薫 著を読みました。以下、感想を書いていますが、ネタばれしています。未読の方はご注意ください。
グインサーガの127巻です。
一時期精神的に追いつめられてたイシュトバーンが、昔のように陽気で単純(シンプルというべきか?)な個性を取り戻していて、よかったなあと。以前は、疑心暗鬼で周りがみんな敵、という被害妄想まで出現していたから。
元妻、アムネリスに対する思いを語る場面では、うん、うん、と読みながらうなずいてしまいました。かなり冷静で常識的な見方ができているなあって。
そう。本当にイシュトの言うとおりで。恨むならイシュトや、見抜けなかった自分自身を恨めばいい。少なくとも、生まれた子供には何の罪もないのに。「悪魔の子」ドリアンと名付けて、自分だけはさっさと逃げてしまったわけで。これは本当にひどすぎるかと。
アムネリスには、いい印象がないです。
ドリアンやアムネリスについての気持ちを語るイシュトバーンは、ついでのように、自らの生い立ちに対する思いも正直に吐露していて。これは意外でした。そういうことを、全部受けとめて、ことさら気にもとめていないイシュトだと思っていたのに。
ちょっとホロリとさせる語りでしたが、でもイシュトバーンの激情っぷりを考えると、そばにいる人は大変だろうなあ・・・。いつ殴りかかられるか、それこそ殺されてしまうかわからない。実はけっこう繊細な神経の持ち主で、だから人の感情の、微妙な動きも敏感に察知するし。思い通りにいかなかったときの爆発の仕方は、なまじ権力を持ってしまったばかりに、常人以上の被害をもたらすわけで。
権力をもたなければ。一介の流れ者のままだったなら。まだ、純粋に、陽気な若者のままでいられたのかなあ、と考えてしまいました。リンダに軽口を叩き、夢を語り、一緒に旅をしていたときのイシュトバーンには怖さを感じなかったけれど、いろいろあった今。
穏やかに話していても、どこかゾクっとするんですよね。次の瞬間、何かのきっかけで豹変する描写があるんじゃないか、なんて想像してしまったり。
一方、ヨナ博士と、アルゴスの黒太子スカールの二人旅は、スカールのこの台詞にドキっとしました。
>大丈夫だ、お前のことは、俺の一命にかえてもちゃんとパロまで連れ帰ってやる。
スカール、かっこよすぎるんですけど(^^;
すっごくサラっと言ったんだろうなあとは思いますが、でも目の前で聞いたら感動するでしょう。やるっていったらやる人ですから。
私はスカールというと、読むときにクラーク・ゲーブルを思い浮かべているのです。『風と共に去りぬ』でレット・バトラーを演じていたときの。
レットもかなり頼りになる人でしたが、スカールも有言実行の人だろうなあと想像してます。一緒に旅をしていてスカールにこんな台詞をさらっと言われたら・・・・いかん、惚れてしまいますな。そして、どんなに安心感を感じるだろうと思うのです。
そして二人が招待された、イオの館。「この部屋だけは近づいてはいけないよ」って、いわゆる恐怖物の定番の設定が示され、緊張感が高まります。幽霊だの殺人鬼だのという恐怖よりも、こういう心理的に追いつめられるようなものが、ぞっとしますね。
やっぱり人間の、好奇心なんでしょうか。
隠されれば見たくなるし、いけないと言われれば、その理由を知りたくなる。
けれど禁忌を破れば、もう元の世界には戻れないというおぼろげな予感・・・。なぜイオはわざわざ、そんなことを注意したんだろう?という疑問もあります。
広いお屋敷なのだし、いちいちそんなこと言わなくても、入ってほしくない部屋には鍵をかけておけばいいだけなのに。
罠?だとしたらよけいに不気味です。
イオが完璧に「いい人」として行動しているだけに、その仮面の向こうには何があるのだろうと。
そしてこの本の最後の一行を読み終え、頭の中に流れてきた曲は、イーグルスでした。そう。『ホテル・カルフォルニア』です。
この曲、初めて聴いたときから、そのメロディがとても印象的でした。美しいのですが、とても哀しくて、寂しさを思わせるような。
それから歌詞を知って、妖しい魅力にとりつかれてしまいました。幾通りにも解釈できる意味深な言葉。果たして現実なのか、それとも夢なのか。
読後しばらく、この曲が頭の中をぐるぐるしてました。次巻が楽しみです。
ところで最近、グインサーガが過去に、舞台化されていたことを知りました。あの世界がミュージカルになっていたんだ! 興味津々ですが、気になるのはその配役です。
なんと、岡幸二郎さんがイシュトバーンで、駒田一さんがヴァレリウス!
駒田さんは納得ですが、岡さんのイシュトバーンは想像つきません。グインの世界だったら、岡さんは明らかにナリスなのでは??と思ってしまいました。配役したの、誰なんだろう。
うーん。岡さんの中に、イシュトバーンぽさは感じないなあ。怒っても、表に出さなそう。そういうところは、ナリスっぽいと思うのですが。ストレートの黒髪も似合いそう。
それにしても、あの世界をミュージカルにするというのは、すごいですね。見たかったです。