静まり返った夜の街の夢

 さっき見た夢。

 広い道路を擁する、真夜中のビル街。ビジネス街だから、夜はひっそり静まり返ってなんの物音もしない・・・って、これやっぱり夢だ。
 現実なら、そうはいってもそこそこ灯りはあるし、人気も絶えることないもんね、都会なら。

 なんとなく、東京にいるような気分になってた。

 私が見たその世界では、音がしなかった。そして暗かった。

 すれ違う人がいれば、至近距離まで行ってようやく、気が付く程度。

 場所は・・・ここどこだっけ? 夢の中で頭をひねってたけど、答えはでなかった。初めて見るような、アウェイ感があった。

 それで、私はあせってる。こんな夜間に一人で歩いてちゃ駄目だろと。早く帰らなきゃって思うんだけど、はてさて、帰る場所ってどこよ?

 また考えこむんだけど、わからない。どうしても思い出せない。なにか、この近くのホテルに泊まっていたような気もするし、どこかに部屋を借りて住んでいたような気もするし。

 でも、なんとなく覚えてるのは、それがここから近いってこと。

 おぼろげな記憶をたどり、歩き出すと、1階が店舗になった建物の影に、案外人がいて驚く。

 人といっても、みんな黙りこくって、闇に身をひそめるようにして、縁台みたいなところに寝っ転がってたり。涼をとってるのかな、と思う。寝苦しくて、夜風に当たってるのか。

 そうはいいつつ、無風なんだけど(^^;

 歩けば歩くほど、ときどき、そんなふうに黙りこんだまま寝入っている人たちや、ぼーっと立ちすくむ人影とニアミス。

 そのたびに、ドキっと心臓が跳ね上がる。
 変な人がいるのも恐いけど、「こんな夜中に一人でなにしてんだ」って思われるのも嫌で。

 ああ、帰らなきゃ、早く。
 そして、なんとなく帰り道を思い出したような気がして、地下道にもぐり、再び地上に出ると、歩道の真ん中に建つ小さな建物が目にとまる。
 そうそう、これだった。ここに地図が書いてある。

 古びた扉をあけて中に入ると、誰もいない。蛍光灯は寂しげに、煌々と光を放ってる。

 ここって24時間電気ついてるのかな。誰も来なくても、一晩中ずっとこうなのかな、なんて考える。

 右手に分厚い電話帳が何冊か置いてあって。地図帳のようなものもあって。手にとってめくるんだけど、文字も図も、ぼやけている。いくら目を凝らしても、そこから意味のあるものは読みとれない。
 諦めて、もう一度じっくり考える。
 どこだっけ。どこへ帰ればいいんだっけ。

 不思議なもので、一生懸命考えてるとなんとなく答えめいたものが、頭に浮かぶ。たぶんこの先。遠くないところ。一度また地下にもぐり、また地上に出れば、あとは少し歩くだけでいい。

 建物を出ようとしたとき、電話ボックスに目がとまる。ガラスが割れてるし、かろうじて残った部分も白く曇ってる。いかにも手入れされてないって感じで、古いチラシが貼ってある。でもそのチラシ、不快じゃない。

 レトロで、懐かしい。
 使えるのかな、これ。そう思ったけど、手は出さなかった。

 建物を出ると、正装したおばさま二人に遭遇。今まで出会った人たちとは違い、この人達には生気がある。向こうもこちらを認識したようで、私をじっと見た。この世界で初めて、自分以外の存在に認識されて、緊張する。

 こんな夜中に、あの人たちはどこへ行くんだろう。自分のことはさておき、その人たちの事情が気になる。

 また地下道にもぐる。そして、地上に出る。さーっと、すぐ横に停車した車がある。クラシックカー。内装にはかなり手が加えられているようで、素敵な模様が外からでもはっきりと見える。

 目を奪われていると、再びさきほどのおばさま二人連れが登場。彼女らも、また再会した私に不審の目を向けながら、その車に乗り込んでいく。

 あの人たちの迎えの車かあ。
 ああいう車、他ではあんまり見ないなあ。

 内張り、天井とかが、ウィリアム・モリス調。あの柄を内装に使うと、ごちゃごちゃするんじゃないかと思いきや、ものすごく馴染んでた。ちっとも主張してなくて。

 おばさまの一人は、立派な帽子をかぶっていた。その人は横目で私をじっと見ている。車のドアが閉まるのと同時に、私は走り抜ける。さあ、急がなくちゃ。

 もうすぐそこに、帰る場所があるような気がしていた。そんな夢だった。

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