『ふたり』唐沢寿明 著を読みました。以下、感想を書いていますがネタばれしていますので未読の方はご注意ください。
発売当時、かなり話題になった本。だけどその時点では、あまり読む気はなかった。
唐沢さんといえばトレンディ俳優で、本の中身もきっとそういう感じなんだろうなあと、勝手に想像していたから。綺麗ではあるけど、薄い感じの本なのだと思ってました。
当時の書評として、この本はわりと衝撃的というか赤裸々に描かれていてびっくりする、なんてのをちらっと耳にしたような気もしたけど、しょせん「トレンディ俳優が少し別の側面を見せてファン層の拡大を狙いました」ということなのだろうと誤解してました。
実際には、予想を裏切る内容で、面白かったです。
あの爽やか好青年キャラがつくられたものである、と知って驚きました。そういう意味では、本当に役者なんでしょう。演者として、完璧に仮面をかぶっていたのだなあと感心させられました。
最近はバラエティ番組でおみかけすることもあるし、面白い人柄は端正な二枚目顔とのギャップもあって印象的だったけれど、そもそもご本人は、見かけのイメージである「お坊っちゃま」ではないということに衝撃を受けました。
そうだったのか~!!と。今さらですが。
若い頃にオーデションに落ち続けたり、という苦労の歴史や、路線に迷って煩悶していた時代があったこと、まったく知りませんでした。
役者という職業を真面目に志していたこと、その熱意など、ページをめくるたびに新たな発見があり、一気に最後まで読み通しました。
>おれの場合はポロシャツ一枚で自分を変えたと言ったらオーバーだろうか。
そんな一文がありましたが、これはまさに、唐沢さんが芸能界で売れるための必須条件だったと思います。
だって、Tシャツに革ジャンは全く「唐沢さんのイメージではない」から。
もし意固地になって、服装なんて役者には関係ないからと、自分が選んだ服を着続けていたら、今の唐沢寿明はないんだろうなあと。
この本で読んであらためて考えてみたんですけど、服装という些細なことではありますが、唐沢寿明が売れるためには、それはなくてはならないイメージだったと。
ポロシャツやVネックのセーターは、唐沢さんの魅力を最大限にアピールするアイテムだから。逆に、あの頃、Tシャツに汚いジーンズでテレビ画面に登場していたら、あれだけのインパクトを視聴者に残せたのかどうか疑問です。
笑顔の素敵な、爽やか好青年。それこそが、唐沢さんの人気の原点であったと思います。そこでブレイクしなかったら、その後の芸能界の活躍はなかったわけで。
その後、自分の好きな役柄に挑戦するにしても、まずは売れることが大切なわけで。
ポロシャツ。そしてVネック。チノパン。苦労知らずの鷹揚さ。
実際にはないはずのそうしたものが、唐沢さんを最高に輝かせたというのは、皮肉な話ですね。
でも、本当にそれがなかったら、唐沢さんは今、芸能界で役者をやっていないだろうなあと思いました。
売れる売れないの境目は、不思議なもので。
もしも唐沢さんが野望を抱えたままの飢えた目でテレビ画面に現れたら。そのときだけで終わってしまっただろうなあ。
他人の目から見たときのアドバイスが、有効なときもあるのですね。
映画『メイン・テーマ』の主役オーデションに落ちたときの話も、興味深かったです。どんな奴が受かったんだと、唐沢さんが東映本社前でひたすら待った気持ち、ひしひしと伝わってきました。
あの映画、確かに唐沢さんより野村宏伸さんの方が合ってたかも、と私もそう思います。
役柄には、その人がいい悪いでなく、合う合わないって、あるんですよね。でもオーデションに落ちるということは、たび重なれば「自分自身の否定」のように感じちゃったりもするんだろうな。
唐沢さんが当時、ひりひり焼けつくような思いでみつめたその人、野村さんにもまた、その後の役者人生では、唐沢さんの知らない苦労があったわけで。
もし『メイン・テーマ』に唐沢さんが受かっていたら。そのときは嬉しかったかもしれないけど、キャラがいまいちイメージじゃなくて、逆に唐沢さんの評価を下げることになってしまっていたかもしれない。合わない映画に出て、不当な評価を受けるよりは。自分に合った鮮烈なデビュー、というのが幸運なのだと思います。
ちなみに、私にとっての唐沢さん最高傑作は、化粧品『ルシェリ』CMです。
あのCMのインパクトは、今も心に強く残っています。絵に描いたような幸福そうなカップル。漫画から抜け出たような完璧な好青年。
いやー、あのCM製作者のキャスティング能力は秀逸でしたね。水野美紀さんが相手役で、まさにベストカップル。
水野さんが一生懸命、「慣れた」感じを醸し出そうとしているのを、唐沢さんが余裕ある感じで見守っていて。
キスシーンが話題になりましたけど、あれ、二度目のがいいんですよね。本当に自然で。あんまりにも可愛くて思わず、みたいな雰囲気がよかったなあ。
本の中には、山口智子さんの話も出てきましたが、二人が結婚したのは運命だったのね~と思いました。暴漢に襲われたとき、たまたま唐沢さんが在宅していて、しかも二人とも無傷で撃退できたって凄すぎる偶然です。ていうか、もうこれはあれです。結婚しろっていう、運命の声だったんですよ、たぶん。
ただ、この本のタイトルは『ふたり』でしたが、唐沢さんは実は『ひとり』の人だろうなあって、読後、そう思いました。山口さんとの仲がどうこうというのではなく、基本的にすごく孤独な人なんだろうし、ひとりでも大丈夫なひとなんだろうなあって。
結婚直後に出版された本、ということで。販売戦略的に『ふたり』というタイトルがついたんだろうなあという、大人の事情を思ってしまいました。
『ふたり』というのは、唐沢潔と唐沢寿明のことではないでしょうか。
なるほど~。その可能性は全く思ってもみませんでした。
でも、そう考えると、タイトルもしっくりきますね。
どう考えても、山口智子さんとの『ふたり』ではないような気がしたので。