『華麗なる一族』山崎豊子 著 感想

『華麗なる一族』山崎豊子 著 を読みました。以下、感想を書いていますが、ネタばれしていますので未読の方はご注意ください。

この小説は、タイトルが素晴らしいです。

本当に、この小説の中身を端的に表すとしたら、これ以外の言葉はないのではないだろうかと。

一族。それも、華麗なる、きらびやかな上流社会のお話。

いつか、聞いた言葉を思い出しました。「どこの家にも、表に出せない秘密がある。そーっとタンスの奥にしまわれているから、見えないだけだよ」と。

銀行の合併をめぐる、凄まじい駆け引きと頭脳戦。
その裏にある、万俵家の父、大介と、長男鉄平との、生生しい確執。

でも私にとっては、ひとつだけ解せない展開がありました。それは、鉄平の最後です。

鉄平がああした最期を遂げるなんて、違和感ありすぎで、納得いきませんでした。話の展開上、とどめとなったのは、彼が父の最終目的=大同、阪神銀行の合併を知ったこと、なのでしょうが、だからといってああいう最期を選ぶかな~と、その部分だけもやもやしたものを感じてしまいました。

鉄平が受けた痛手は、確かに相当のものだったとは思いますが。
同時に彼は、家族としてとうとう父から得られなかった愛情を、妻の早苗から受けていたからです。

子供を連れて実家に帰ってほしいと頼んだ鉄平に、早苗はこう答えていました。

早苗>あなたのご指示通り、この家を出ることは承知いたします。

早苗>ですが、あなたご自身はどうなさるのです?

鉄平>僕は役員寮に入って(中略

早苗>それはいやです、この家を出ることは明日からでも致しますが、あなたと私たちが別れて生活するのはいやです、どんな住まいでもいいから、ご一緒したいと思います

私は、この状況でこれ以上の対応なんて、あり得ただろうか、と感動してしまいました。
憎しみ合った実の親子。
それなのに。夫婦は他人なのに。なにもかもなくした鉄平を夫として尊敬し、ついていくという妻。

思えば、鉄平と早苗の結婚なんて、始まりは典型的な閨閥作りだったわけですよ。でも出会った二人は共に時を過ごし、かけがえのない子供が生まれ、心を通わせあった。そして、家族が生まれた。

小説の中で鉄平がああした結末を選んだのは、絶望だろう、と推測します。ならば、この早苗の言葉は、その絶望を救う、光になったはずだと、確信するのです。

本当に絶望させるのなら。こんな展開だったと思います。

万俵家の後ろ盾を失った鉄平に、冷たく離縁を言い放つ妻、だったり。
もしも妻の口から、「私はあなたに嫁いだのではない。万俵家の長男という立場に嫁いだのだから、当主に勘当されたあなたを、もはや夫とは認めない」などと、そんな言葉が漏れたなら。
鉄平のなかで、ぷつんと切れるものがあっても、おかしくはないのですが。

親に愛されたいというのは、子供なら誰もが持つ、原始的な欲求。
だけど、常に誰もがその欲求を満たされるわけではない。駄目ならばその代償を求めるし、それに代わるものが得られたなら、生きていける。

30をとっくに過ぎた男で、会社では専務まで務めて、子供も二人いて。

どうしても父に愛されない→救いのない絶望

単純に、そういう図式にはならないんじゃないかなあ。いやもう、私の願望かもしれないけど、そういう鉄平であってほしくないというか。

早苗の言葉は、家族としての愛、だと思いました。何があっても、私たちは家族ですよっていう。
鉄平にはきっと、これから大変なこと、たくさんあるだろうし。今までみたいな順調な人生では、ないだろうけど。

装飾やおまけを一切排除した、裸の鉄平を。
夫として尊敬し、ついていくという早苗の決意。これがわからないほど、鉄平は鈍感じゃないと思うんですよね。
そしたら、ああいう最期は選ばないはず。早苗と子供たちのために。

まあ、そもそも罪深いのは大介ですけどね。憎み、対決するのは、息子じゃなく父親であるべきだったのに。なんで怒りの矛先を、なんの罪もない子供に向けちゃってるんですかーという。大人げなさ(^^;

母の寧子も、ひどいなあと思っていました。おひいさまだから仕方ないのかもしれませんが。自分の本当の父親は誰なのか教えてほしいと、真剣に乞う息子に対して

>許して、許しておくれ!

そんなこと、言っちゃいけなかった。言ってる場合じゃないのに。どんなに自分がつらくても苦しくても、母親なら、真正面から鉄平を見据えて、言ってやらなくちゃいけない言葉が、他にあった。嘘だろうが真実だろうが、そんなことはどっちでも関係なく。
とにかくあのときの鉄平にかける言葉は。母親なら、たった一つしか、なかったはずなのに。

言ってあげてほしかったなあ。
「あなたの父親は、万俵大介です」と。

この小説を原作としたドラマが、2007年に放映されましたね。鉄平役の木村拓哉さんと、大介役の北大路欣也さんのキャスティングがよかったなあ。私が原作を読んだイメージ、ほぼそのままでした。

逆に、これはイメージだいぶ違うなあと思ったのが、相子役の鈴木京香さん。

美しすぎるし、気品があって貴族的で、「華麗なる一族」に対する卑屈さが皆無だから。

私が思う相子のイメージはもっと。やぼったい感じなんです。綺麗ではあっても、どこかに垢抜けない素朴な部分が残っていて。どこまでいっても、「華麗なる一族」に染まりきれないことへの、コンプレックスみたいなものを、抱えている女性。

また、意外なハマリ役だと思ったのは、万樹子役の山田優さん。演技というよりも、存在そのものが万樹子の雰囲気にぴったりでした。大事に育てられたお嬢様としての素直さと、自然な我儘さと。気の強さと、そして華やかさと。

ドラマと小説を比べた時には、ドラマは甘口、小説は辛口だと感じました。ドラマはよりわかりやすく、説明的に作られていたように思います。

実際には、大介や鉄平は、あそこまで饒舌じゃなく、思いをぐっと、胸の中に飲み込むタイプだと思いますし、そういうバージョンのドラマも、見てみたかった気がしました。

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