ブルーベリーの季節です。食べていたら、ふと自分の中学時代を思い出しました。私が今まで食べた中で、一番おいしいブルーベリーケーキを作っていた、近所のケーキ屋さんのことを。
できたばかりの、オシャレな新築マンションの一階。まぶしい白の外壁は、ケーキ屋さんの雰囲気にとても合っていました。中学校に近い場所にできたので、生徒たちの間でも評判になっていました。
私が初めて買いにいったとき、最初ということで、まずはいろいろな種類を一つずつ買って試してみたのですが、一番おいしかったのがブルーベリーケーキ。とにかくブルーベリーがずっしり並べてあるのです。スポンジの間にもぎっしり。そして驚くべきはその重さ。ケーキを手に持つと、見た目との重量の違いに戸惑います。
それだけブルーベリーたっぷり使ってるんだなあ、と、私はすっかりそのケーキがお気に入りに。
(あ、でもブルーベリー自体はそんなに重いものではないし、もしかしたら他の材料の重さだったかもしれないです。ただ、当時はブルーベリーの重さがこれなんだと、思い込んでました)
当時はブルーベリーも、フルーツとしては珍しい部類で。そんなプレミアム感あるブルーベリーと、生クリームと、スポンジの相性が抜群!
ずっしりしっとりした重さも、好ましかったです。無意味に持ち上げてみては、「う~ん、やっぱり他と比べて重いなあ。さすがだなあ」と。
そして、楽しみに通うようになりました。お店はものすごくシンプルです。店内によけいな装飾はほとんどなくて、ガラスケースの前には年配の男性が一人。たいていケーキ屋さんというと女性の店員がほとんどなので、最初は違和感ありました。でもこの男性はとてもお話好きで、いつも誇らしそうにケーキの説明をしてくれました。
その男性によると、ケーキを作っているのは息子さんだそうです。その息子さんは、作る方に専念されていて、私が奥をのぞきこんでもチラっと背中しか見えませんでした。ショーケースの前に出てきて販売を担当することは、一度もなかった。
男性は、とてもうれしそうに息子さんの話をしてくれました。東京の有名なケーキ店で何年も修行して、このたび独立開店したんだと。この味が地方で食べられるのは絶対お得、と。
自慢の息子さんなんだろうなあ、と私はほほえましく見ていました。ちょっと親バカ入ってるところも、ご愛嬌です。
それに、そのブルーベリーケーキは本当に、よその店にはない味でした。他の店だと、ほんの少し、見栄えのために飾ってあるようなブルーベリーが、この店だと惜しげもなく使われているのです。それも大粒で、おいしいものばかり。材料を、相当厳選していたのだと思います。
おじさん息子さんのこと、誇らしいんだろうなあ。一生懸命だなあ。わかるよ。こんなおいしいブルーベリーケーキないもんね。
当時の私はそう思いつつ、いつもブルーベリーケーキを買いに行っていたのでした。
ところがそんな素敵なお店が、ある日突然閉店してしまい、私はびっくりしてしまいました。あんなにおいしいケーキを売る店がなぜ、と。
しかし、中学のクラスメートと話をしていて、その原因の一つを知ったのです。
友達Aの話
「あの店つぶれて当然だって。私1回だけ行ったことあるんだけど、嫌な思いしたから2度といかなかったもん。1種類のケーキを5個買ったら、説教されたんだよ。買い方がだめだってさ。こういうのは、違う種類を買って味の違いを見るんだってさ。そんなの客の自由なのに」
これは…(゚ー゚; たしかにお客さん怒らせちゃうだろうなあ…。
でもおじさんの気持ちもわかるのです。中学生の女の子が買いにきて、年齢的には自分の娘みたいなもので。ちょっと一言いいたくなったんでしょう。
うちの店は本当にどれを買ってもおいしいんだから、いろいろ味を試してみてねと。
きっと大人のお客さんだったら、思っていても言わなかっただろうけど、子供相手だからつい、お説教みたいな感じになっちゃったのかな。悪気は一切ないんだろう。ただ純粋に、おいしく食べてもらいたいという一心。
おじさんの態度も多分、まずかったんだろうな。
もともと、素人っぽかったんです。いや、悪気はないのはわかりますし、私自身は特にお説教ぽいことはなかったので、全然、腹が立ったこととかはないですけども。基本的に、態度が少し偉そうだったんですよね(^-^; いわゆる、サービス業慣れしていない感じ。
たとえば、会社の偉い人とかが、急に接客をやった場合。どうしても上から目線みたいになってしまう場合があるじゃないですか。客あしらいがうまくない。
おじさんの場合もそうだったのです。今考えると。
もしかしたら、息子が開業するから、ということで張り切って、会社を辞めて手伝っていたのかなあ。そして、もともと職業的に接客業とは違う会社だったり、それなりの地位の人だったら、どうしてもお客さんをうまくさばけない、というのも無理ない話で。
自分では普通に話しているつもりが、偉そうに映ってしまったり、相手に不快感を抱かせたり。
おじさんの空回りが閉店につながってしまったのは大きいかも、と、せつない気持ちになりました。どんなに息子が可愛くて自分が手伝いたくても、もしかしたら、販売に関してはバイトの若い女の子を置くべきだったのかな。
女性だと、お客さんもなんとなく安心感があったりして。
もう一つ、閉店の理由になったと思われるのは価格設定でした。田舎の街のケーキ屋さんとしては、高いほうだったから。もちろん、東京ではその値段が当たり前だったんだろうけど、でも田舎だとやっぱり、敷居が高くなってしまうこともある。おいしいし、いい材料使ってるからこの値段は妥当だと、そうわかってもらうまでにはまず食べてもらわないといけない。
そして食べる前の段階で悪感情抱かれてしまったら、これは厳しいかも。
息子さんが有名店で働いていたことは、お店の宣伝ポイントですが。もうちょっとうまく、他の方法でアピールできていたら、よかったのかもなあ、なんて、思います。たとえば、お店の前に、その有名店での修行のことを書いた、お知らせの看板置いたり。
開店したばかりのお店は、みんな興味津々ですから。通りがかりの人はまず、読むと思います。
そしてシンプルすぎる店内には、おすすめケーキのご案内のチラシを一枚だけ、貼ってみたらいいかも。目立って効果抜群ヽ(´▽`)/
新しいケーキ屋さんは、どれを買っていいか迷うことが多いから。お店のおすすめがわかれば、それを参考にする人は多いと思うのです。チラシに書いてあれば、売り子さんの接客の上手下手は関係なく、お店のイチオシをうまくアピールできるはず。
そのケーキ屋さんの閉店がもったいなくて、私は、どうしたらお店を存続させることができただろう、と今も思ってしまうのです。あれほどの味がありながら。悲しいです。一生懸命だった息子さんの後ろ姿も、おじさんの熱意も。
お店は本当にシンプルで。余計なところにコストをかけていなかった。ケーキの箱も袋も、真っ白なんです。それで、最後に箱に貼るシールだけは、お店のロゴが印刷してあって。これなら、オリジナルはシールだけだから、箱や袋は特注でなく、一般のものが使える。
たぶん、他の経費を全部削って、ケーキの材料を厳選していたんだろうなあと思います。だからこその強気の価格設定。絶対の自信を持ってお店の経営していただろうになあ。きっとお客さんには受け入れてもらえる、わかってもらえるって、信じてただろうになあ。
あの後、どうしたんだろうか。と今でも考えてしまうお店です。ブルーベリーを食べると、つい思い出してしまいます。