ダンス・オブ・ヴァンパイア観劇記 その18

 8月4日マチネ。帝国劇場で『ダンス・オブ・ヴァンパイア』を観劇してきました。以下、ネタバレを含む感想ですので、舞台を未見の方はご注意ください。

 本日、伯爵絶好調でした。「抑えがたい欲望」の表現力には、参りました。どんなに抵抗しようとしても、気がつくと伯爵の作り出す世界に引きこまれてしまう。今日はいつもより冷静に見ようと考えていたのに、音楽が流れ始めて墓場に大きな影が見えると、それだけで胸の奥が痛くなるのです。

 手を伸ばして、それを掴んで、自分のものにしたと思ったのにそれは粉々に砕けて。呆然として、もはや元の形を持たないそれを、伯爵はどんな思いで眺めたんだろうと想像してしまうのです。伯爵がどうしても欲しいものは、いつも消えてしまう。その原因がどこにあるのかわからない。自分のせい?

 運命を呪ったところで、答えはみつからない。神はいないと断言するまでに、なにがあったのか。この歌を聴くたびに、いつもいつも、それを考えてしまいます。

 「虚しく果てしない欲望の闇」の最後の「み」が哀しいくらいに高い音で、それがすーっと心にしみますね。目の前に真っ暗な海が広がるイメージです。伯爵が見ているその海はきっと、果てがないほどに広くて暗いのでしょう。どこに終わりがあるのか、どこが出口なのか。自分という存在そのものが飲み込まれてしまうような感覚。その海を前に、伯爵はたった一人立ちすくんでいる。

 「神は死んだ」の中で「私は祈り堕落をもたらす」と歌い始めるシーンなのですが、伯爵が無垢な存在に感じられました。優しくて、弱くて。これは今日だけの感想かもしれません。

 ヘルベルトも教授も、そしてクコールも他の登場人物も、毎日少しずつ変化していきます。「お客様に伝えたい」という熱意を感じました。墓場のシーンから、客席に降りて退出していく吸血鬼たち。通りすがりに客席を脅す姿には、熱いものがありました。私のそばにいた初観劇らしきおばさまは、吸血鬼に構われて本当に大喜びしていました。カーテンコールの盛り上がりを見ると、出演者全員のパワーが、観客を動かしているのだと痛感します。

 どんどん良くなっていく舞台。いいものをみせてもらいました。ありがとうございます。

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