帝国劇場で上演されていた『マリーアントワネット』観劇記です。ネタバレ含んでいますので、未見の方はご注意ください。
さて、今日は山口祐一郎さん演じる「カリオストロ伯」を中心に語ろうと思います。私は正直、MA(マリー・アントワネット)ってあんまり期待してなかったのですね。山口さんのファン仲間から聞こえてくる評判が、イマイチで。
いいよーって言ってる方もいたのですが、どちらかというと、悪い話の方が多くて。そうか、そんなによくないのか・・・と。千秋楽間近なら、最初の頃に比べたらカンパニーもまとまってるだろうし、きっと役者さんたちの「答え」みたいなものが出てるはず、と思い、いざ帝劇へ。
幕が上がって、ヒーリングミュージックのような不思議な音楽が流れる中、白いライトに照らされる影。おおー、山口さんではないですか!
マントの影、ライトの白、幻想的な空間が広がっていて、ワクワクしました。さあ、これからどんな魔法が見られるのだろうと。すべてはカリオストロの手中の出来事、というのを暗示するにふさわしい演出だったと思います。
それに比べて、終わり方(ニ幕の最後)は、よくなかったですね。それまで、要所要所に必ずカリオストロが登場して、パワーを誇示していたのに、なぜ一番最後がカリオストロで締め、とならなかったのでしょうか?
マリーの処刑というショッキングな空気を壊さないため、その衝撃を観客にじっくり味わってもらうため、だったのでしょうか? それにしても、筋が通っていないというか、ああいう終わり方だとカリオストロの存在意義が、薄くなってしまうと思います。最後こそ、カリオストロの登場で締めてほしかったなあと。
最後をカリオストロの登場シーンにすれば、その間に涼風さん演じるマリーは着替えて、カーテンコールでは華やかな衣装で登場することもできますよね。カーテンコールでは、きれいなマリーアントワネットが見たいです。華やかな衣装に身を包み、こぼれるような笑顔の幸せなマリーを。
それが、救いになると思います。集団で暴走することの怖さ、人間の狂気などを描いているこの作品。重くなるのも、暗くなるのも作品としてアリだとはおもうのですが、どこかに息抜きというか、救われる部分がないときついです。
友人から、「ボーマルシェとカリオストロ伯の存在が重なる。狂言まわしの役はボーマルシェだけでいいかも」なんてことを聞いたのですが、私はそうは思わないです。ボーマルシェのおしゃべりは面白いし、あれだけの説明をカリオストロ伯がやれば、存在の重厚さが失われてしまう。カリオストロは黙っていることで威厳を保つのです。
見どころは、山口さんのダンスシーン。ゆらゆら、ステップを踏んでいるシーンがあって、「おお、山口さんが踊ってる・・・」という新鮮な驚きがありました。劇中では、常にゆったりとした動きで、体全体が優雅に流れていくようで、美しかったです。
途中、2階のバルコニー?のようなところに立っているシーンは、うっとりでした。逆光の中、浮かび上がった姿、その動きの滑らかなこと。スモークをたいていたのでしょうか。それが光に映えて、本当にきれいでした。別世界に迷い込んだような不思議な感情に、胸を打たれました。
「幻の黄金を求めて」の歌、いいですね。第一声の「この手は鉄を金に変えうる」を聴きながら、やっぱり山口さんはいいなあとつくづく、その歌声に酔いしれたのでした。声そのものに力があるというか。
しばらく聴いていなかったその歌に触れて、大げさかもしれないのですが、体中の細胞が呼吸を始める感じです。
なんというタイトルの歌かわかりませんが(すみません、パンフレットは買いませんでした)「~風が叫ぶ、空が揺れる~」という歌詞の歌もありまして、そのときの、体全体を楽器にして絶唱している山口さんも素敵でした。客席に向かって胸を開くようにして、どうだとばかりに歌うのです。歌い上げるときにみせる、体を揺らす独特の動き。今回は、見事に曲とマッチしてました。その動きも、曲の一部です。ああいう体勢で歌う山口さんを見たのは、初めてのような気がします。
当たり前かもしれませんが、レ・ミゼラブルのバルジャンとも違うし、ダンス・オブ・ヴァンパイアのクロロック伯爵とも違う。そして誰もいなくなった、のロンバートでもなければ、エリザベートのトート、そしてモーツァルトのコロレドとも違う。
新鮮でした。
いきなり高い音から入るような歌もあったのですが、山口さんは相変わらず、なにごともなかったかのように、平然と歌っていまして感動でした。あれ、いざやってみろと言われたら、相当難しいと思うんですが。音程がぶれたりしないのはさすが、プロですね。
黄色い旗を振るシーンは、少し滑稽な気がしました。どうしても、交通指導的なものをイメージしてしまう。横断歩道、そして小学生。とっさに頭に浮かんでしまうのです。
一幕は大満足でしたが、ニ幕はカリオストロの存在が薄くなっているような気がして残念でした。もう少し、ニ幕における彼の存在を重くしたら、舞台全体が引き締まったのではないかと思います。
山口さんに関する感想は以上です。長くなりましたので、観劇記の続きはまた後日書きます。