中村うさぎ著 『イノセンス』

中村うさぎさんのエッセイはよく読む。完璧な買い物依存症で、金銭感覚が壊れてしまっている女性だ。そんなうさぎさんが一体どんな小説を書くのか? 興味本位で『イノセンス』という単行本を手にした。

表紙の絵が、印象的だった。どこをみているのかはっきりしない、まさに『イノセンス』な少女。ふわふわした巻き毛。

読みやすい本だったので、一気に最後まで読んだ。以下、ネタバレしてますので未読の方はご注意ください。

一人の少女について、いろんな人がインタビュー形式で語るという小説だった。同一人物でも、人によって見方はずいぶん違うんだなと思った。他人から見た像と、少女自身が日記で語る自画像のギャップが大きい。

最後、キリスト教の贖罪の話になったときにはびっくり。こういう深い話になるとは思わなかったのだ。ただ、今回の小説の中で一番の罪人ははっきりしている。それは、主人公の義父だ。

要するに、この人が発端になった悲劇の話ではないか。この人が、罪を償うべき相手を間違えたからいけないのだ。里子をもらい、育てられなかった実子の代わりに愛情を注いだというが、自分の子供をこそ、幸せにすべきだったと思う。教え子に対しても、ひどすぎる対応。

うさぎさんの心にも、「イノセンス」に憧れる気持ちがあるのかなあと思った。それが、買い物に走らせたり、美容整形に走らせたり、ホストに走らせたりしているんだろうか。

読み終えた後、荒井由実の「翳りゆく部屋」を繰り返し聞いたら、気分が沈んだ。これは名曲だけど、後味が悪すぎる。どんどん、果てしなく落ち込む感じ。メロディそのものは、そんなに悲しいものじゃないのに、圧倒的な絶望感。好きなんだけど、聞いていると悲しい気分になるので、気分転換に散歩に出かけた。

『孤島の鬼』江戸川 乱歩 著

土曜日は疲れきって一日中眠り、日曜日は読書と散歩、というのがデフォルトになりつつある私の週末。土曜日も精力的に活動したいけど、どうしても体が動かない。

江戸川乱歩の『孤島の鬼』を読了。まさに乱歩ワールド。夢中になって一気に読んだ。おどろおどろしくて、怖くて、でもその怖さの向こうに人の心を惹きつけてやまないなにかがある。江戸川乱歩というのは、本当に特別な作家だなあと思う。

語り口調が易しくて、読みやすいのがうれしい。子供でも読めそう。しかし内容は、まったく子供向けではない。

そのほか、同じく乱歩の『魔法人形』『恐怖王』などを立て続けに読んだ。これは、小学校のときに学校の図書館で借りて読んだ記憶がある。小学生の私を夢中にさせた本だったが、大人になって読んでもやっぱりおもしろい。

数年前に、ドラマ化された「明智小五郎対怪人二十面相」を思い出した。あのときは、明智小五郎が田村正和、怪人二十面相がビートたけしだったっけ。

でもあれは、キャスティングがダメすぎだった。田村正和は古畑任三郎にしか見えず、たけしは、たけちゃんマンそのもの。特にマントを翻して走るシーンなど、いつあみだババアが出てくるのかと・・・・。イメージが強烈についてしまっている役者を使うのは、よくよく考えた方がいいと思った。どうしても、そのイメージをひきずってしまうから。

言わせてもらえば、小林少年も、全然イメージ違ったよ。賢そうな、黒目がちの紅顔の美少年を想像していたので。無口で、ひたすら明智を慕っていて、明智が一言いっただけで、十を察して動ける少年・・・であってほしかったな。

有名な人でないと、視聴率を稼げないと思ったのかもしれないけど、江戸川乱歩の名前だけで一定の人数はついてくるんじゃないのかなあ。思いきって、オーデションで全くの新人を使ってみたらいいのに。その方が、視聴者も新鮮な気持ちで見られたと思う。

ちなみに、文代さん役の宮沢りえちゃんはよかった。黙ってそこに立ってるだけで、陰があるから。なんにも説明がなくても、「いろいろ背負ってそうな人だなあ」と感じさせる。きれいなんだけど、暗くて、乱歩ワールドには合ってると思った。

杉田

 杉田かおる著『杉田』を読んだ。以下、ネタバレありますのでご注意。

 杉田さんに関する見方が、変わった。苦労してきた人だったんだなあ。興味深く、一気に読んでしまった。セレブ婚が騒がれたけれど、杉田さんにとってはお金だの名誉だのは、あまり関係のない話だったようだ。お互いが、お互いを理解し合えるという相手にめぐりあえた幸運。それが大事で、他のことは後からついてきたのでしょう。

 本の中には、ある教団への信仰とそこからの脱会、父親との縁切りの話が綴られていた。ここまで赤裸々に書くのは、どんな気持ちだったんだろうと思う。結婚して、強くなったから書けたんだろうか。自分をしっかりと持っていなければ、こういう告白はできないと思う。自分をさらけだすことは、自分の弱さをみせることで、だから渦中にいる間は文字にできないのではないか。

 今この本を書いたということは、過去は杉田さんの中である程度消化できたということなんだろう。そのことに、救われる気持ちがした。

 宗教の恐さを感じた。宗教に救いを求める人は多いが、それで本当に皆が救われるとは限らない。むしろ、もっと深い闇に落ちていくこともある。心が弱くなっているときほど、注意が必要だ。

 父親のことを書いた記述は、痛々しかった。きっと書きながら、何度も嫌なことを思い出したんではないだろうか。そういう記憶を甦らせる作業は、杉田さんをどんなにか苦しめただろう。でもそれ以上に、書くことが杉田さんを救ったんだろうか。

 世の中はきれいごとだけでできているわけではない。だけど、譲れない一線がある。そういう信念を、杉田さんには感じた。その一線を守っている限り、人は何度でも立ち直れる。本当に怖いのは、自分の魂を誰かに譲り渡してしまうこと。

 杉田さんの父親もひどいが、母親にも怒りをおぼえた。どうして、杉田さんを守らなかったんだろう。母親だけでもしっかりしていたら、杉田さんがここまで苦労することはなかっただろう。母親なら、子供を守るためには鬼になって外敵に立ち向かわなければ。

 杉田さんは今、スタートラインに立っているんだと思う。これまでの過酷な経験が心に及ぼした影響は、そんなにすぐ消えるものではない。自分が相当本気にならなければ、自分は変えられない。酔って暴力をふるってしまうという自分を、治せるかどうかに結婚生活の将来がかかっているのではないだろうか。それを変えられなかったら、破綻は時間の問題だ。

 

 華やかにみえる女優さんも一人の人間で、いろんな葛藤と過去を抱えた存在なのだと、あらためて実感した。