エリザベート 観劇記 3回目

 昨日の続きです。ネタバレしてますので、未見の方はご注意ください。

 山口祐一郎さんトートは、柔らかくて艶のある美声でした。よく、ビロードのようなと形容する人がいるけれど、本当にその通りだと思います。この声を聞くために、いつも帝劇に出かけているのです。

 トートの場合、囁くような歌い方にうっとり。朗々と歌い上げる、爆発するというよりも、しっとり静かな感じの曲が耳に残ります。登場シーンの「天使の歌は喜び・・・・」に含まれる、憂いがいいのです。

 気まぐれな死神。冷たくて、残酷で、人間を見下ろしながら唇の端にわずかに笑みを浮かべているようなイメージ。山口さんには、こういう皮肉な役がよく似合います。

 初日のせいなのか、それともこのあと舞台のスケジュールがびっしり詰まっているからなのか、歌い方はとても丁寧だったように思いました。いつも以上に神経を張りめぐらせて、間違いのないように確認しながら歌う感じ。

 山口さんの舞台を何度も見ていると、稀に「うわー!」と思う日があります。共演者と客席と、たぶんご本人の体調と、すべての条件が揃った奇跡のような日。そのときの弾けるようなパワーの歌声を聴いてしまうと、無意識にその再演を求めてしまいます。しかしそれは、めったにないからこそ奇跡なわけで。

 私が今までに感じた奇跡の日は、1度だけ。その日のことは、鮮明に覚えています。

 つい、その日と比べてしまい、少し物足りなく感じてしまいました。

 

 慎重な歌い方。それが初日の山口トートに感じたことです。

 ゆっくりと探るように、1つ1つ確かめながら歩いていく感じ。プロだなあと思いました。いつも必ず、きっちり仕事をこなすから。波があるのは人間だから当たり前なんだけど、その波の底辺が水準以上だから、すごいなあと思う。その波の頂点にたまたま観劇日が重なった日には、ああ舞台の神様って本当にいるのかもしれないという気持ちになります。

 今回のトートは、後姿が素敵でした。銀髪のゆるいウェーブに目が釘付けです。前から見るより、横から見るより、後姿がよかった。ライトに照らされると、微妙に青味がかって、とてもきれいだった。

 ただ、このミュージカルの中のトートの描かれ方は、私、あまり好きではないのです。エリザベートが甘えん坊に見えるから、そんなエリザベートを好きになるトートも、なんだかなあという感じで。

 どういう人を好きになるかで、その人の人格がわかります。トートが死の帝王にも関わらず人間に恋したのなら、その人は魅力にあふれた人であってほしい。誰もが納得するくらいの、美しい人であってほしいのです。

 もう少し、エリザベートの苦悩を自己中心的なものでなく、誰もが共感できるようなものとして描いたなら、トートももっと大きな存在になれるのかなと思ったりします。

 帝国劇場はクラシカルで大好きな劇場なのですが、1階S席は、前に座る人の座高によって、視界がかなり左右されます。今回、私の前には運悪く、背の高い女性が座りました。肝心な場所で、舞台が見えない。これはかなり悲しかったです。

 前の人の座高が、あと10センチ低かったらなあ、と思いました。見えないからといって私が体を横にずらせば、今度は私の後ろの人が迷惑するから、動くに動けず。場面によっては、全然トートの姿が見えなかったりして残念でした。席の改善は、ぜひしてほしいです。

 そして最後にもう1つ。2004年に見たとき、安っぽくて失笑してしまったシシィの落下シーン。前回よりは持ち直してました。2004年のときの、ありえないような安っぽさが消えていて、ほっとしました。他の場面はそうでもないのですが、そこだけものすごく浮いていて、当時はびっくりしたものです。やはり、評判がよくなかったから変えたんでしょうか。

 エリザベート。楽曲が好きでないというのもあるかもしれませんが、私は今ひとつ作品の世界に酔えませんでした。出番は少ないけど、モーツァルトのコロレド大司教の方が好きです。

 ただ、あのトート閣下の鬘はいい。後姿に惚れました。

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