『モーニングムーン』CHAGE and ASKA

この歌を聴いていて思ったのだけど、この彼女は遠からずまた、出て行くんだろうなあ。泣きながら駆け込んできたことなど、すっかり忘れたように。

惚れた弱みの男性が、形容しがたい複雑な気持ちで、日の出後の白い空を見上げてる映像が浮かんでくる。自分でも、そこに彼女の愛情などないとわかっているから、哀しい曲調になっていて、それがまた歌詞とよく合ってる。

柿本人麻呂の短歌を思い出した。

>東の 野にかぎろひの 立つ見えて かえりみすれば 月傾きぬ

この歌の方が、暗い景色だけれど。まだ夜明けといっても、夜に近い感じ。冷えた空気感と、なんともいえない静寂が伝わってくる。七色の、微妙なグラデーションでゆっくりと、明るくなっていく空。地平線の向こう。果てしなく広がる野に、時折、風が吹いて雑草を揺らす。

『モーニング ムーン』の方は、この歌よりはもっと、明るい空だと思う。夜の名残をわずかに残すだけ。すっかり明るくなった空に、白い月が浮かんでいる。去っていった夜に忘れられた月。もう消えるしかないとわかっていて、所在なげに浮かんでいる。

『モーニング ムーン』を聴いていたら、次のような情景が浮かんだ。

好きだった女性がいて、しばらくは恋人だった期間があって。でも彼女はあっさり、目の前から消えた。

面影をまだ胸に抱いているとき、真夜中に突然、彼女は雨に濡れた姿で疲れ果てて帰ってきた。

受け入れて一晩過ごした後で、自己嫌悪と先行きの不透明感に、憂鬱に近い気持ちを抱えながら、ベランダで明るくなった空を見上げてる。

朝早いから、街にはいつものざわめきがなくて。窓の向こうの彼女は、きっと眠ったふりをしていて。彼女も目を合わせたところで、なにを話していいかわからないから。

二人の間にある奇妙な緊張感は、今さらやり直すわけでもないのに、なんでまた恋人みたいに一緒にいるんだろうみたいな自虐で。

ブラウスは、彼女を突き放せない弱さの象徴。

雨に濡れたから。

それが乾くまで、彼女は帰らない。部屋を出て行かない。

でもいったん乾けば、また平気な顔をして出て行くだろう。別れのつらさなんか、微塵も感じさせずに。取り残された側の痛みなんか、まるで気付きもしないで。

曲の最後部分が好きなのだ。これがなかったら、二人ともご勝手に・・・と思ってしまうのだけど。これがあるから、急にこの情景が、清いものに見えてしまう。

愛と表現できるほど、立派なものじゃなくて。恋してるなんて決めれば、弱さを正当化するようで。だけど大事に思うことだけは、他のことなんてよくわからないけど、難しく考えればきりがないけど、その気持ちだけは真実だと確信している、みたいな。

うん、信じるよ。と思ってしまった。本当にそうなんだろうし。大事に思うからこそ、疲れて胸に飛びこんできた人を、拒絶できなかったんだろうなあって。歌詞と曲の絶妙のコンビネーションが、いい感じです。

途方にくれた虚ろな目で、朝の街並を見下ろしている図が、なんともシュールです。

感想は人それぞれでしょうが、私はこんなことを思いました。名曲ですね。

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