『ガラスの仮面』の、指輪事件について語ります。ネタバレ含んでおりますので、漫画を未読の方はご注意ください。
指輪事件。
私が何を一番、アリエナイと思ったかというと、マヤが速水さんの目の前で否定したのにも関わらず、速水さんがマヤを疑った、というところです。
これだけは有り得ない。速水さんが魂のかたわれであるなら、この展開だけはありえませんでした。
じゃあどういう展開だったらよかったのかなあと考えたのですが。
紫織さんがマヤのいないところで、あることないこと速水さんに吹き込む、的な設定だったら、速水さんのキャラも崩壊しなかったと思うんです。速水さんがあの、ウェディングドレスの試着室に現れず、マヤのバッグから指輪が飛び出すのを自ら目撃しなければ。たとえば、下記のような感じで。
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(鷹宮邸。紫織が体調を崩したとの連絡を受け、真澄が見舞いに訪れる。真澄は紫織とマヤにトラブルがあったとは聞いているが、現場にはおらず、詳細を知らない。)
紫織:指輪を盗ったのは、やはりマヤさんでした。マヤさんがバッグを落として・・・そこから指輪が出てきたんです。その瞬間、マヤさんがグラスも落としてわたくしのウェディングドレスは滅茶苦茶に・・・。あの子は、真澄さまの何なんですの?わたくしにはわかりません。
速水:申し訳ないことをしました。僕がその場にいればよかったのですが、まさかそんなことがあったとは・・・
(白目になり、考えこむ)
(あの子がそんなことをするとは信じられん。だが、もしそんなことがあったとしたらその理由は一つだ。
マヤ、おれがそれほど憎かったのか。おれではなく紫織さんを標的にするほど、おれが憎いか?
許されようなどと、思ってはいない。だが君の心に憎しみ以外のものを感じたのは、おれの勘違いだったのだろうか)
紫織:(真澄さま、あの子を信じるおつもり?そうはさせないわ)
わたくし、マヤさんが怖い・・・。あの子の目には憎しみがありました。真澄さまとあの子の間には、なにがあったんですの?
速水:・・・・・・
(一瞬でも、夢をみたおれが馬鹿だったのだ。あの子がおれを、憎んでいないはずがない)
(いつかのマヤの言葉が蘇る)
「さぞ満足でしょう・・・これでいつか 鷹通のすべてを手に入れるチャンスをつかんだってわけですね・・・!」
「あなたみたいなひとに『紅天女』は渡さない・・・!ぜったいに・・・!」
(そうだ・・・あの子が変わったんじゃない。馬鹿な夢をみたのはおれの方で・・・ずっと憎まれていたのに。人に嫌がらせをするなんて、したこともないようなあの子が・・・罪を犯してまで紫織さんを・・・。おれが鷹通と縁組すれば、力を得た大都が紅天女を奪い取るとでも思いつめたのだろうか。馬鹿な。今マヤが下手なことをすれば、試演に出るチャンスさえ失うというのに。自分の立ち位置すら見失って、それほどまでに、おれを恨んでいるのか)
速水:紫織さん。すべて僕の責任です。
紫織:真澄さま、この先もあの子は・・・・
速水:(フッと自虐の笑みを浮かべる)
いいえ。あなたが心配するようなことはなにもありません。それより、結婚の時期を早めませんか。僕は早く、あなたと一緒になりたいのです。
(マヤに馬鹿な真似をさせるわけにはいかない。おれへの憎しみが、あの子の未来を傷つけるようなことなど、あってはならない。マヤ、おれのために自分を貶めるなんて・・・。一刻も早く紫織さんと結婚しよう。そうなればあの子も、それ以上の行動には出ない。)
紫織:(顔を赤らめる)
紫織は・・・真澄さまがいてくだされば怖くありません。
(やったわ。あの子が指輪を盗み、わたくしのドレスを汚す嫌がらせをしたと信じて、愛想を尽かしたのね。思った以上にうまくいったわ。結婚を早めるとまで言って下さった。これで真澄さまはもう、わたくしだけのもの・・・フフフ)
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上記のような感じだったら、指輪事件も、物語を盛り上げる重要なエピソードになったと思うのですが。
要は、速水さんの罪悪感があまりにも深すぎて、そのフィルターを通して物事を考えるものだから、あっさり紫織さんの姦計に陥っちゃうんですよね。「おれは憎まれてる」という固定観念から、自由になれない・・・。
☆で囲まれた文章は、私が勝手に想像した二次創作ですが、
>「さぞ満足でしょう・・・これでいつか 鷹通のすべてを手に入れるチャンスをつかんだってわけですね・・・!」
>「あなたみたいなひとに『紅天女』は渡さない・・・!ぜったいに・・・!」
この辺の台詞は、実際にマヤが速水さんに言い放ってます。コミックスの45巻です。
マヤ、結構キツいこと言ってるなあ(^^;
あの指輪事件。マヤがいない席で紫織さんからあれこれ訴えられたら、きっと速水さんも紫織さんの言うことを信じてしまうだろうなあって思ったんですよね。
なにしろ、「憎まれてる」と思いこんでますから。
マヤがそんなにもひどいことをした→全部おれのせい、みたいな。
マヤが目の前で否定したのに、それを信じない速水さんは非道(というか絶対に魂のかたわれではない)ですが、マヤ本人から否定の言葉を聞いていない状態で、その悪行を信じてしまうというのは、なんとも切ないエピソードになると思うのです。
噛み合わない歯車。
一瞬心が通じたように見えても。
二人の間にある、深い谷間。
おれなんかを好きになってくれるわけがない。
あたしなんかを好きになってくれるわけがない。
延々続くループ。それを象徴するエピソードに、なり得たのではないでしょうか、指輪事件。
でも・・・重ねて言いますが、マヤ本人が目の前で否定しているのに、それを信じない速水さんは・・・どうかと思います。