『ガラスの仮面』桜小路君が速水さんの立場だったら

『ガラスの仮面』指輪事件で、これがもし桜小路君だったらどうしただろうかと考えてみました。以下、ネタバレも含んで語っておりますので、漫画を未読の方はご注意ください。

速水さんがマヤ本人の訴えを信じなかった・・・という、ちょっと信じられないこの事件ですが。もしこれ、速水さんでなく桜小路君だったら、どう対応しただろうかと考えてみました。

例えばですが、紫織さんが偶々、桜小路君の舞台を見て彼を気に入り、強引に婚約へ持ち込んだとしたら、です。最初は相手にしなかったであろう桜小路君ですが、鷹宮のバックアップがあれば今後の演劇人生に必ずやプラスとなると踏んだ家族の猛プッシュ(もちろん、紫織さんの家族懐柔策もあり)と、どの道この先マヤちゃんとは結ばれないという悲観が、桜小路君をして、紫織さんとの婚約受け入れ→結婚に突き進むという行動に走らせたら。

桜小路君の弱みは、いまだマヤちゃんへの消えない思い。決して嫌いになったわけでなく、どれほどアタックしても答えてはもらえない、マヤちゃんの胸を占める紫のバラの人への敗北感・・・です。

婚約者となり有頂天の紫織さんが、もしも桜小路君の携帯待ち受けに、マヤの画像を発見したら。大切にしまわれた、イルカネックレスの秘密に気付いたら。桜小路君の心を自分だけのものにしようと、あのドレス&指輪事件をおこしたら、彼はどんな反応を示したでしょうか。

ちょっと考えただけで、すぐに答えが想像できました。
たぶん、こんな風になったんじゃないかと思います。ドレスの試着室から聞こえてきた、紫織さんの悲鳴。慌てて飛び込んだ桜小路君の目に映る、マヤを疑っても仕方のない情景。
以下、桜小路君が速水さんの立場だったら、を予想して書いてみた文章です。

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桜小路:どうしたの・・・マヤちゃん。こんなところで一体なにを?

紫織:(白いドレスがブルーベリージュースで染まり、無残な有様。両手で顔を覆い嗚咽をもらすばかり)

桜小路:(紫織ではなく、まっすぐにマヤをみつめている)
言ってよ。紫織さんになにを・・・したの・・・?

マヤ:(真っ青な顔で唇を震わせている。力の抜けた手からバッグが滑り落ち、中身がこぼれる。床に転がる大きな指輪を見て、試着室にいたスタッフたちがどよめく。)

桜小路:これは・・・僕が紫織さんに贈った婚約指輪。どうしてこんなところに? マヤちゃん、これはいったいどういうことなんだ・・?

マヤ:知らない! あたしだって・・・! いつのまにか あたしのバッグの中にはいっていたの! だからそれを返そうと思ってきょうここへ・・・!

桜小路:(なにも言わず、マヤをみつめている)

マヤ:(泣きそうになりながら、桜小路をまっすぐに見ている)

桜小路:君を・・・信じるよ。後は僕にまかせて。もう、行ったほうがいい。

マヤ:桜小路君、でも・・・。
(青ざめて、立ち尽くすマヤ)

桜小路:(マヤに近寄り、優しく肩を押す)
大丈夫だから。心配しなくていいから。
(安心させるように、笑顔をみせる)

マヤ:(ふらふらと、おぼつかない足取りで部屋を出ていく)

桜小路:(なにがあったのかはわからないけど・・・。ともかく、マヤちゃんは紫織さんに意地悪をするような子じゃない。きっとなにか、誤解があったんだろう。マヤちゃん真っ青だったな・・・。送っていってやりたいけど、こんな状態の紫織さんを置き去りにするわけにはいかない。)

紫織:(桜小路にすがりついて泣き出す)
やっぱり盗んだのはマヤさんだったんだわ。なくしたはずのあの指輪・・・。わたくしのドレスに、ジュースをかけたのもあの子・・・どうしましょう、こんなに汚れてしまって・・・。

桜小路:なにか誤解があったんですよ。マヤちゃんにはあらためて、事情を聞いておきますから。でも、信じてほしいんです。マヤちゃんはなにがあっても、紫織さんにひどいことをするような子じゃないんです。

紫織:ひどい・・・マヤさんをかばうのですか?

桜小路:僕が一番・・・よく知っているんです。マヤちゃんとは長いつきあいだから。そんな子じゃないんです、本当に。演劇以外のことじゃまるで不器用だけど・・・でも。

(そうさ、マヤちゃんのことなら、僕が一番よくわかってる。紫のバラの人には勝てないと悟って、紫織さんとの婚約に踏み切ったものの・・・。ああやっぱり君を見ると胸が痛いよ。どんな状況であれ、君に会えたことを喜んでいる。僕は・・・本当に君が好きだから。他の女性と婚約すれば、忘れられるとおもったのに・・・。紫織さんは、僕には申し訳ないほどの素晴らしい女性だ。なのにどうして・・・僕は・・・)

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>マヤ:知らない! あたしだって・・・! いつのまにか あたしのバッグの中にはいっていたの! だからそれを返そうと思ってきょうここへ・・・!

注) この部分については、コミックスの台詞を桜小路君用に、改変して使いました。コミックスだと速水さん相手なので、敬語使ってますね。

もし桜小路君があの場所にいて速水さんの立場だったら・・ということで、上記を想像してみました。全くの想像ですが・・・桜小路君はマヤのこと、きっと信じるだろうなと。

紫織さんにどうこう言われようと、周囲の状況がどんなに疑わしいものであろうと、マヤ本人の口から「違う」と聞けば、それを信じて受けとめるのが桜小路君だろうなあと思いました。

紫織さんが罠を仕掛けても、無駄でしょうね。
心の底から、マヤという人間を信頼していると思うから。そしてその信頼は、たとえマヤへの気持ちが所詮報われない一方的な思いであっても、変わらないと思うんですよね。振れ幅がないというか。
誰かがマヤの悪口を言ったとしても、桜小路君は動じないと思う。自分の目で見た、自分が好きになった人物を信じるから。

じゃあどうして速水さんは、マヤを疑ったのか。
うーん、それは、つきつめて考えていくと、彼は自分自身を、心の奥底では卑下している部分があるんじゃないのか?なんて思います。どんなに他人が評価してくれても、自分が自分のことを信じていないような。だからその気持ちが、不安感になるんじゃないかな。

あの子がおれを好きになるはずはない。
おれはあの子に憎まれて当然だ。

こういう自己否定の結論にたどり着くのは。自分自身が、自分を価値のない人間だと思いこんでいるからかもしれません。

子供の頃の誘拐事件。英介に見捨てられたときの絶望が、「自分は愛されない人間だ」という、強いマイナスイメージを、潜在意識に刷りこんだ。

唯一、自分を無条件に愛してくれたであろう母親に対しても。その死因が紅天女(燃え盛る屋敷に飛びこんで行ったときに負った怪我が遠因)であることに対しては、わだかまりがあったと思うのです。

母さんは、僕よりも紅天女が大事なの?と。
母さんになにかあれば、僕はあの屋敷で血のつながらない義父と二人きりになるのに。
それでもあの英介の、ご機嫌をとりたかったの?と。

そして、そんな母親を救えなかった、無力な自分への怒り。
自分さえしっかりしていたら、母親を支えることができたら、母はあの英介に媚びる必要もなく、二人の生活は英介のお情けにすがることもなかったのに・・・。

復讐心を生きる糧として成長した速水さんですが、自己否定の気持ちは、相当強かったのではないかと。

英介にも愛されなかった。母も、英介の紅天女に媚びて死んだ。自分を心から思ってくれる人など誰もいない。
いや、母は英介に媚びたのではなく、英介の機嫌を損ねなければ、速水家での真澄の立場が保障されると信じての行動だったかもしれないけれど・・・。そうだとしたら、母親をそんな行動に走らせたのは、自分がふがいないからで。そして、死んだ母に対し、やりきれない思いを抱いてしまう自分が、そんな自分こそが許せなくて。

心の奥底に、強い自己否定の気持ちがあるからこそ、指輪事件でマヤを疑ってしまったのが速水さんなのかもしれませんね。こんな自分など、憎まれて当然なのだと。

桜小路君は対照的です。暖かい家庭に育ち、きっとあふれるほどの愛情を受けて育った。演劇の世界でも、それほどの挫折を味わうことなく順調にやってきたはず。自分を否定する要素などなにもない。

だからこそ、自分の愛した人を、マヤちゃんを素直に信じられるのかもしれません。自分という人間を、信じているから。

速水さんはきっと、自分自身を信じていないのでしょう。そう思いました。

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