『ガラスの仮面』紫のバラ投げつけ事件

 『ガラスの仮面』の、紫のバラ投げつけ事件について語ります。ネタバレ含んでおりますので、未読の方はご注意ください。

 今日は、以前に雑誌掲載された「紫のバラ投げつけ事件」について、語ろうと思います。この事件、ひどい~という反響もあったようですが、私には納得というか、理解できる行動でした。

 最初に流し読みしたときには、確かに私も「非道い」と思ったんですけどね(^^;

 ただ、よくよく読みこんで速水さんの気持ちになってみれば、わかるなあ、と感じたのです。
 きっと、速水さんは紫のバラに、それほどの価値を感じていないから。

 これ、紫のバラを贈っていたのが全くの別人なら、こういう行動はしていなかったでしょう。マヤがその人に寄せる思慕の念を尊重して、また、その人のこれまでの尽力に感謝をして(どれだけマヤの心を救ったかわかりませんからね)、あんな、紫のバラの歴史を踏みにじるような行為には及ばなかったと思うんです。
 マヤを奮起させるなら、もっと別の方法をとったでしょう。

 なぜ彼が、紫のバラをマヤに投げつけたか・・・・。それは、自分が紫のバラの人だったから。自分のやってきたことなど、なんの価値もないと、本気でそう思っているからではないでしょうか。
 だから、いくら貶めるような行為をしても、なんの問題もないわけです。貶められるのは、自分自身。

 そして、そんな紫のバラを贈り続けた幻の人物=愚かな自分自身を、まるで聖人のように崇め、一途に想い続けるマヤへの、愛の鞭ではなかったでしょうか。

 紫のバラなんて、どうしようもない。マヤが想いを寄せる幻は、偶像は、彼女が描いたような聖人君子じゃないわけです。それは、速水さん自身がよく、わかってる。
 マヤが紫のバラを敬愛し、恋愛のような感情を抱けば抱くほど、速水さんは苦しくなったんではないでしょうか。

 本当のことを知れば、君だってがっかりするだろう、と。
 今まで期待が大きかった分、一層怒り、失望するかもしれない。だからこのさい、君が後生大事に抱え込んだ、その空虚な憧れを踏みにじってあげるよ、と。
 もちろん、その場では痛みを覚えるだろうけれど、その痛みが、前進するパワーに変わること、速水さんは信じていたんだと思います。

 今さら憎まれることに、躊躇はなかったでしょうね、たぶん。

 マヤの中で、神聖な位置を占める紫のバラを敢えて汚すことで、速水さんは自分自身をも、斬り捨てていたのかなあと思います。

 紫のバラが、なんぼのもんじゃいと(^^;
 マヤがその人を神聖視すればするほど、苛立ち、大声でそれを否定したくなる衝動をこらえてきた、その鬱憤が、一気に爆発した瞬間であったのかもしれません。
 あの花束を投げつけて、ショックに震えるマヤを見たときに、どこかで溜飲が下がる思いをしていたのではないか、とさえ邪推するのです。

 絶対に正体を明かせない、もう一人の自分。
 マヤがその人を好きになればなるほど、苦しくなったでしょう。だって名乗りをあげることなどできないし、マヤが恋しているのは自分ではない、幻のあしながおじさんなのだし。その人が、マヤの思うような純粋無垢な人物ではないこと、自分が一番よく知っているわけで。

 紫のバラは、しょせん自分が作り上げた架空の人物。ならば、その存在を利用し、マヤを傷つけることで、彼女を一段と奮起させようと決意したのは、自然の流れだったような気がします。
 マヤが思うほど、紫のバラというアイテムは、速水さんの中で重要ではないと思うから。

 自分が作り出した、彼女との細いつながり。
 嫌味を交えずに素直に、彼女への賞賛の言葉を口にできる、速水さんの仮面。
 自分で創りだしたものだからこそ、汚すのにもためらいはなかったと思います。そうしたところで、傷ついた名誉は自分自身のものなのですから。

 思えば、紫のバラは寂しい色ですね。
 最初に花を贈るとき、なぜこの色にしたんでしょう。直感で選んだのでしょうが、ファンとして贈るには少し、控えめすぎる色のような気がします。

 それだけ素直な気持ちで、そのとき、マヤに花を贈りたいと思ったのでしょうか。心を偽らずに、自分の率直な気持ちをそのまま贈りたいと願ったのかもしれません。

 このバラ投げつけエピソード、今後、コミックスになるかどうかはわかりませんが、どうなんでしょうね・・・。最新の『別冊花とゆめ』で、ようやく進展したようにみえる二人の距離を考えると、このエピソードがこのまま採用されるかどうかは微妙なところですが。

 でも私はこの先、マヤと速水さんは、一般的なハッピーエンドという結末は迎えないだろうと思っているので。二人を引き離すその大きな運命の力を悟ったとき、速水さんは荒療治で、マヤを突き放すんじゃないかと思っているのです。
 へたな優しさはむしろ、マヤを一層傷つけるだろうから。

 バラ投げでなくとも、それと同等のひどいやり方(マヤから見たときに)で、自分をもマヤをも、斬ってしまうような気がしてなりません。 

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