『若菜集』島崎藤村 著 より、「おくめ」を読んでの勘違い

まずは、昨日のブログ記事に追記です。

昨日の記事では、宇多田ヒカルさんの『Prisoner Of Love』の歌詞で

>人知れず辛い道を選ぶ
>私を応援してくれる
>あなただけを友と呼ぶ。

人知れず辛い道を選ぶ人=あなた、そのあなたが私を応援してくれる、と私は解釈していたのですが。
だからこそ、その状況は速水さんに重なると思っていたのですが、これよくよく読み返してみると、私の勘違いですね(^^;

もし私の解釈通りなら、きっと

>人知れず辛い道を選「び」
>私を応援してくれる

となったでしょう。「ぶ」でなく「び」、ですね。

でも、実際の歌詞は、「ぶ」だった。

ということは、辛い道を選んだのは、私、と理解するのが自然なのでしょう。今さらですが、それに気付きました。
私がひそかに辛い道を選んだことを、あなただけがわかってくれた、そんな喜びが、にじみ出ている歌詞なのですね。最近ガラスの仮面のことを考えすぎているから、私はつい、変に歌詞をねじまげて解釈してしまったのかもしれません(^^;

後から自分の記事を読んで、その不自然さに気付きました。なので訂正です。

そしてこの解釈のねじれ、というので思い出したのですが。
そういえば昔、高校の国語の授業でも、私は恥ずかしい大勘違いをやらかしてしまったことがあるのです。
後から考えると、どうしてそんな風に解釈してしまったのか、自分でも「そりゃないだろ」と突っ込みたくなるような間違いでした。

島崎藤村の『若菜集』の中にある「おくめ」という詩です。ご存じの方も多いかもしれません。恋した女性の情熱を生き生きと表現した詩なんですけど、その詩を一節ずつ、意訳するのが宿題になりました。私に充てられたのはこの部分でした。

>しりたまはずやわがこひは
>雄々しき君の手に触れて
>嗚呼(ああ)口紅をその口に
>君にうつさでやむべきや

まあタイトルが「おくめ」であることからして、普通に考えればせつせつと恋を語るこの詩の主人公は、女性である、おくめ、なんでしょうけども。
私はなぜか、この詩のこの一節を読んだ瞬間、この描写は男性がおくめに抱いた恋情だと思っちゃったんです。

つまり、一人の男性が、おくめという女性に恋して捧げた詩、だと思いこんでしまったんですね。読んだ瞬間に浮かんできたのが、おくめではなく、おくめに恋する男性の姿でして。

私は、「雄雄しき君」を、男勝りのおくめだと、想定してしまったのでした。
当時の私の解釈はこうです。

>おくめ、君は知らないのだろうか。私の恋を
>強情な君の、その手に触れてみたい
>嗚呼、女らしい装いを嫌う君が、普段は決してつけない口紅を
>私の唇を通してつけずにはいられない(つまり接吻したい)

かなり、原作の意図からかけ離れちゃってますね・・・・。実際に書かれていない状況まで、勝手に補完しちゃってるしなあ(^^; 女らしさを厭う、男のような君って、いつの間にそんな設定ができたのかと。尊敬の補助動詞「たまふ」も無視しちゃって、ずいぶん上から目線の口調になっている点も、突っ込みどころですね。

ともかくこのとき、私の頭の中ではこんなシチュエーションが想像されていたのです。

主人公はおくめの幼馴染。密かにおくめに恋していますが、照れくさくてとても告白などできません。二人はお互い、憎からず思いながら成長していきます。おくめは女性らしくない、じゃじゃ馬で。普段からおしゃれなどには見向きもせず、ぱっと見は男(笑)な自然児ではありますが、年頃を迎えて。
なにかの瞬間に、はっと心が震えるような美しさを醸し出すことがあり。そのたびにひどく、男は心を動かされるのです。このまま黙って、君が誰か別のひとのものになるのを、見ているしかないのだろうか、と。

おくめのイメージは、『はいからさんが通る』の花村紅緒です。男のイメージは、中性的な蘭丸ではなく、もっとごつい感じかな。

それで男は、無理やりにでも、おくめに接吻したいと夢想しているのかなあ、なんて想像してしまったわけです。
なんて官能的なシチュエーションだろう・・・と、当時の私はドキドキしたものでした。
男が、まず自分の唇に口紅を塗って、キスするのかと思ったので。キスで口紅をうつすという。ちょっと退廃的で、官能的な場面なのかと勝手に妄想しておりました。今考えると、その発想がぶっ飛んでますね(^^;

こんな詩を授業でやるなんて、いいのかなあと赤面しつつ。でも、なんだかちょっと色っぽくもあり、綺麗な詩だなあと。意訳しながらワクワクしたし、授業で発表するのが楽しみでした。

そして翌日。
それぞれの生徒が、前日に宿題として充てられた担当部分を、順番に発表していきました。それを聞いているうちに、私は自分が、致命的な間違いを犯していることに気付いたのです。
私の担当部分は詩の中ほどのところだったので、他の人の意訳を聞けたのは幸いでした。

あ・・・・これって・・・・おくめさんの心情を歌った詩だったのね。おくめさんを恋した人が歌ったんじゃなくて・・・・
じゃあ、全然違うじゃん。
男が口紅塗ってキスするんじゃなくて、おくめさんがキスして、自然に口紅がついちゃうって話なのか。ああーなるほどー。それなら普通だよね。ていうか、私の発想ヤバかった。
よかった。今気付いて。

冷や汗をかきつつしどろもどろになりながら、私はその場で意訳をやり直し、事なきを得たのでした。
今でもそのときの、血の気が引く感じを覚えています。

言葉って難しい。直観的に、コレだ~と思ったことでも、後から読み返すと「なんで自分はあんなふうに解釈したんだろう」と不思議になることもあるし。

でも、一つの言葉から膨らんでいく想像が、人によってずいぶん違うというのは面白いことでもありますね。うわー、そういう解釈もあったのかーっていう、新鮮な驚きがあったり。

久しぶりに、「おくめ」を読み返した日曜日でした。

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