『星へ行く船』新井素子 著 感想

『星へ行く船』新井素子 著 を読みました。以下、感想を書いていますがネタばれしていますので、未読の方はご注意ください。

星へ行く船シリーズの中では『通りすがりのレイディ』が一番好きなのですが、記念すべき第一作『星へ行く船』もかなりの名作だと思います。
あらためて読むと、完成度が高い作品だなあと。

シリーズ物ですが、二作目以降はなくても、これだけでも単独の作品として本当に素敵に仕上がっていると思います。
あゆみちゃん×太一郎さんカップルの過去や、日常なんかがまだあまり描かれていない分、想像も膨らんで楽しいです。

シリーズ物って。
いろいろなことが具体的にわかっていくのは嬉しいのですが、その分、想像の余地がなくなってしまうという悲しさもあり。

この第一作『星へ行く船』はその点、主人公や太一郎さんの周辺がまだ曖昧さを保っているからこその、不思議な魅力があるような気がします。

なにより、まだ太一郎さんは、あゆみちゃんのことを「保護すべきお嬢ちゃん」としか思っていません。その距離感がいいのです。

そもそも、太一郎さんはあゆみちゃんは基本的にタイプじゃないだろうなあと。やっぱりレイディだろうと。そう思うのです。
感情同調能力を最大限発揮して、あゆみちゃんはそんな太一郎さんを捻じ曲げたんだな、きっと。

シノークという星で。
大沢さん、太一郎さん、あゆみちゃんが向き合う場面が好きです。事情を知り尽くし、暗黙の了解で通じ合う男二人と、お嬢ちゃん一名。この落差が、たまりません。

大沢さんが愛おしくみつめる視線。
裏切りにショックを受けるあゆみちゃん。
しょーがねーな、お嬢ちゃんを慰めつつ、大沢の芝居に乗っかってさっさとこの一件終わらせちまおう、という太一郎さんの平静さ。

このシーン見てると、太一郎さんがあゆみちゃんに惚れる要素がまったくみつかりません(^^;
ちょうどいい、からかいの相手というか。あくまでも保護すべき対象って感じで。あゆみちゃんのことは好ましく思ってるだろうけど、根本的な部分で、徹底的にそれは、いわゆる愛情には転化しないだろうなあっていうのが想像できてしまう。

砂漠のような不毛の地を、ひたすら二人きりで歩いていく。疲れた頃にどてっと砂の上にねっころがって、上をみると満点の星。このシチュエーションには憧れました。

いいなあ。遮るもののない場所でみる、満点の星。どんなに綺麗だろう。いつか、私も砂漠に行ってみたいなあ、なんてちょっと、思ったりして。

読み進めて思ったのですが、この小説の中で使われる「莫迦」って言葉の柔らかいこと! 本来の意味を忘れてしまうくらいに、優しいニュアンスで発音されているように思います。
そうそう、この小説読んで、バカには「馬鹿」以外の漢字がある、と私は初めて知ったのでした。そういえば、当時これ知ったとき、何度もノートに書いたな。この漢字。使ってみたくなって何度も。

もし、この作品に続きがなかったら。
それはそれで、もっともっと、読者の想像は広がっていたかな。

少なくとも私は、『通りすがりのレイディ』で早くもあゆみちゃんにゾッコンになってる太一郎さんは、想像していませんでした。

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