うちの近所に、とある廃屋があった。10年以上、誰も住まないまま朽ち果てた。樹木は生い茂り、雑草は繁茂し、隣地まで越境してそれはそれは、凄まじい廃墟だった。
元歯医者さんで、家の中には当時の道具がたくさん置いてあるらしかった。歯医者さんの娘(おばあさん)が老人施設に入った後、どんどん朽ち果ててそのままになっていった。しばらくして、おばあさんは施設で亡くなったとのことだが、家はそのまま、見捨てられていた。
屋根の上のアンテナが倒れたりして、見るからに危険だったその廃屋が数年前、解体された。屋内からはおびただしい量の歯医者時代の薬や機材が運び出された。
たぶん、放置されていたのはこれも原因だったと思う。薬とか機材などの危険物は、まとめて処分できずにある程度人の目で分別する必要があり、莫大な処分量がかかるから。土地は100坪あるし人気区域ですぐ売れるのに、10年以上廃屋だったのは、たぶんこの処分費が原因だったんじゃないかと思う。それこそ、解体の費用は1000万円越えになったのでは?その後、土地が売れて相続人が等分したにしても、だれかがこの費用は前もって払う必要があるし、あまりにも高額で、誰かが仮に払うにしては負担が大きすぎる。
最後まで住んでいたおばあさんは独身で、子供がいない。廃屋の土地はおそらく兄弟、もしくは甥姪が相続するんだろうけれど、お金をもらうならともかく、払う話は揉めても不思議がない。
ボサボサのジャングルだった土地が、綺麗に整地されたとき、私は北西に、竹の筒のようなものが刺さっているのをみつけた。井戸である。
古い家だから、井戸があってもおかしくない。おそらく北西のあの位置に台所があったんだろう。
土地を買ったのは業者らしく、その業者は、すぐさま3軒もの家を建て始めたのでびっくりした。この田舎で、100坪に3軒は狭すぎる。どんなに狭くても、この辺だと1軒の土地は50坪だ。都会じゃないんだから。
しかし、あっという間に3軒は完成した。それも、不思議なことに敷地の北側を大きくあけて。
普通は南側をあけて庭にするので、近所の人たちはみんな訝しんでいた。なぜあの家は、敷地の南側をあけずに、北側をあけるのか。
100坪の土地に無理やり3軒、つめこんだ建売。ギリギリ南側に寄せたので、南側の家の二階の窓と、3軒の家の二階の窓は、どちらも至近距離になってしまい気まずい感じだ。業者なら、南側の家にもっと配慮すべきだろう。
しかし私は知っていた。そう。北西に刺さった竹の筒。あれは井戸の跡。3軒を敷地の北側に寄せて建てれば、まさに、建物が井戸の上に建つことになる。建築業者はそれを避けるために、3軒を南側に寄せて建てたのだ。隣地の、南側の建物と接近するのを承知の上で。
井戸のある場所は、3軒の駐車スペースとなった。1軒当たり2台分。これがまた、みるからに狭くて入れにくい。駐車スペースなら、井戸の上でもいいんだろうか、なんて興味深く見守っていたけれど。
この土地。やはり訳ありの流れとなってしまった。まず、3軒完成したものの、明らかに、素敵な感じではない。無理に、南側の隣家に寄せているので狭苦しいし日当たりはイマイチだし、駐車場も入れにくそう。
そんなわけで見た目が残念なので、誰が借りるんだろう?と思ったら誰も入居しない。
これ、まさか賃貸じゃなく分譲?いやいや、この近辺でいかにも建売という新築を100坪に3つ詰め込んだら、売れるものも売れやしないよ。一戸建て賃貸なら、物件が少ないから需要はあるかもしれないけど。近くに大きな工場があって、従業員の人でアパートが嫌と言う人もいるだろうから。一戸建て賃貸は貴重なんだよ。
でもね。結局だーれも入居しないまま一年。賃貸サイトにも載らない。3軒のうち、一番住みにくいであろう真ん中の家だけは、ときどき軽自動車がとまっているのでもしかしたら入ったのかも。でも両隣は、相変わらず人の気配なし。
1年経った頃、3軒の内、一番道路側の家が売りに出たんだけど、1年を過ぎてるから中古物件の扱いだった。未入居として売りに出されてた。でも変なんだよ。異常に高くて、5000万円。いくら高く見積もっても、相場より1500万円も高いなんて異常でしょう。近くでは、70坪前後で3800万円くらいで新築が売り出されてます。
わざわざ条件の悪いここを、5000万円で買う人なんているんだろうか?興味深く眺めてたら、そのうち売却情報は引っ込められていた。誰か買ったのかと思ったけど、人の気配は相変わらずなし。ただし、新築当初から1年半たった今、2軒の家にはプロパンガスが設置されている。道から一番奥の家は、もしかしたら、家の影でみえていないだけかと思う。
住んでる人がいないのに、プロパンガスだけが配置というのも、不思議な話だ。今日通りかかったら、この夏の日差しと高音で、3軒とも草がぼーぼー生えていた。真ん中の一軒も、車が駐車されず、静まり返っている。
住んでたら、玄関回りの草ぐらいはとるだろうし、入居していたらしき真ん中の家も、1年経たずに出て行っちゃった?
3軒もの建築費を早く回収しないと、資金繰りも苦しくなるだろうに、この3軒を建てた会社はいったいなにを考えているのだろう。なにか不測の事態でも起こったか?
やはり、井戸のある土地はなにかと、トラブルがあるんだろうか。井戸に加えて、10年もの(いや、廃屋になる前から生えてたから、30年ものでもおかしくない)の大木を、きちんと供養して撤去したのだろうか。
不穏な雰囲気の漂う3軒の家。今後の行方が気になる。井戸も、樹木も、きちんと供養した方がいいと思う。