映画「闇の歯車」 感想

映画「闇の歯車」を見ました。以下、感想を書いていますが、ネタバレ含んでおりますので、未見の方はご注意下さい。

いや~この映画、瑛太に始まり、瑛太に終わった作品でした。今まで瑛太をイケメンと思ったことは一度もないのですが、佐之助を演じた瑛太の暗い色気が半端ないです。これ、瑛太が佐之助を演ってなかったら、もっと凡庸な作品になっていたんではないでしょうか。

この作品に出ている瑛太は間違いなく、「色男」でした。現代劇より、時代劇の方が合ってるんじゃないかなあ。今まで瑛太がどんなドラマに出ていても、ふ~ん、と流していた私の目が、予告の時点で釘づけになりましたもん。誰、この人?って。

それも、正統派の正義の味方、じゃないところが合っているんですよね。背負う闇が、透けて見えて。やさぐれた影の部分に、思わず目を奪われるのです。

伊兵衛を演じた橋爪功さんも、裏で糸引く感じがなんともいえないドス黒さで、最初の柔和な商人顔からどんどん変わっていく姿に引き込まれました。佐之助とはいいコンビ。

伊兵衛は人の弱さにつけこむんだけど、決してごり押しをしないのね。時間をかけて、相手が自分から「やる」と決意するのを待つ。見事に絡み取られた佐之助。押し込みという悪事を働くのに、どうして素人複数を巻きこむのか。それは、迷った人を流れに乗せるっていうシステムでもあるんじゃないでしょうか。

自分だけじゃない。他にも仲間がいるっていう。そうでないと、少なくとも若旦那の仙太郎さんがなぜ一味に加わってるのか、その意味がわからないもの。腕っぷし弱そうだし、弥十の開錠技術みたいな特技もないし。

弥十を演じた大地康雄さんも凄みがありました。うらぶれてるんだけど、なにか裏がありそうな佇まいだったり。ただの酔っ払いが管を巻いてるのとは、ちょっと違う感じ。

伊黒清十郎を演じた緒方直人さんは、実直な感じが役にぴったりでした。最後、あれはわざと討たせたんですね。それもあっさりではあまりにも相手に無礼だから、それなりに討ちあった後で、というところに繊細な心遣いを感じます。まじめに優しく生きてきただろうに、どうして?という人生になってしまいましたが、あれはやはり、女性に弱かったということなんだろうなあ。すがりつく人を拒めなかった。

映画の中で、私が最後になってやっと気付いた点があるんですが、押し込み後、なぜかきえさんをそっとつけまわす佐之助の真意は、きえさんを守ることにあったんですね。なんだ~勘違いしてた。てっきり未練で追いかけ回してるのかと思っていたよ。おくみさんに逃げられたもんだから、再会したきえさんに執着してるのかと。この佐之助という人も、女性には弱いのですなあ。

それと、伊兵衛が捕まったとき、佐之助を知らないと言い放った場面。私は「あれ、伊兵衛は意外にいい人なんだなあ。佐之助がきえさんを守ろうとする気持ちに感動して、佐之助を助けてあげたのかしら」なんて思ったのですが。

牢屋での賄賂シーンを見てわかりました。いや、これ伊兵衛は生き残る気まんまんなのですね。これで最後なんて思ってない。誰かの気持ちにほだされるほど、やわな神経はしていない。佐之助を知らないと言いきったのは、保身以外のなにものでもない。あそこで佐之助もろとも破滅するのではなく、生き残る可能性に賭けた、ということなのだと。

登場人物のほとんどが破滅する中、真のボスは居酒屋のおっちゃんというところも、意外な感じがしてよかったです。案外、ああいう凡庸な日常の中にとんでもない真実が隠されていたりするんだなあ。

だけどツッコミどころがひとつ。佐之助は元々殺しにだけは手を染めてなくて、それが最後の自分の中での矜持みたいになっていたけど(押し込みも殺しはなしで、という前提だったし)、あれだけためらいもなく人を刺せる人が、殺しにだけは過剰反応するっていうのが解せませんでした。いやいや、人を刺してる時点で殺人と変わらないでしょう。たまたま助かってるだけで、亡くなってもおかしくない。

それと、あれだけの大金、預かってたお金を奪われた商家のその後は、たとえ命を奪われなくても死んだも同然で。自死に追い込まれることがわかりきっていながら、「押し込みでも殺さないからOK」みたいなところが、偽善に思えてなりませんでした。直接手を汚さないから何なの?っていう。結局、やってることは殺人だと思うのです。

映画全体、決して明るくはなくて、みんな幸せにはなれないし、でも引き込まれる作品でした。役柄によって、ものすごく輝く役者さんがいる、ということも知りました。時代劇の瑛太は、一味違います。

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