昨日のブログの続きです。舞台『レベッカ』の感想を書いていますが、完全にネタバレしていますので、未見の方はご注意ください。
仮装舞踏会での失敗を謝る「わたし」に対し、「許す? なにを許すんだ?」というマキシムの声がよかったです。
うちのめされて、なにもかも失ったマキシムから、身を守る壁が消えた瞬間。穏やかで凪いだ海ではなく、深く、暗い絶望の海。限りなく平穏な、マキシムの声。絶望がゆえに、優しく聞こえてしまう不思議。まるで、すべての悩みから解放されたようにも聞こえるような。
このときの言い方、すごく心に残りました。深くて。
世界が終わったと感じた瞬間の人間は、こういう声で話すんだろうかと。
山口マキシムが「わたし」に聞かせた、レベッカの真の姿。このときの声が不思議でした。目の前に、たやすくレベッカの姿が浮かぶんですよね。
観客はまるで、おばあちゃんにおとぎ話をせがむ子供みたいに、声からありありと、レベッカの姿を想像している。
ところで、原作ではマキシムが銃を使うのですが、舞台だと、打ち所が悪くて?みたいなことを言っていたような気がします。
ちょっとうろ覚えなんですけど。なにしろ一幕の『神よ なぜ』聴いた後では、どうしてもその余韻を引きずって、ぼーっとしてしまって。舞台に集中するというより、頭のどこかで、そのことを何度も繰り返してしまうのです。
ともかく、この設定に激しく違和感を覚えました。銃だからこその、罪悪感なのだと思うのですが。打ち所が悪いという状況だと、だいぶ、罪悪感が割り引かれてしまうような気がしました。
自分がこの手でっていう衝撃こそ、マキシムにつきまとって離れない最大の影だと思うから。忘れようにも忘れられない、その手に感じた振動。きっとそれは、レベッカの生きた証。鼓動そのもので。その手に残る、生々しい感覚があるからこそ、マキシムは苦悩し続けたはず。消えない硝煙の匂い。いくら自分を、正当化しようとしても。
マキシムが電話を受けた後、「自殺だったんですね」と聞かれ、「そうだ」というときの声が印象に残ってます。落ち着いた、低い声。なんだかよくわからないけど、妙に印象的でした。心に残ってます。
マンダレイ炎上では、マキシムの「ああ消えるならば すべて消えてしまえ」という絶叫がよかったです。これも、気持ちがわかるような気がする。
マンダレイはとても大切だから。マキシムの宝物。だからこそマンダレイが、マキシムの心を傷つけ、苛む。痛めつける。マンダレイがあるからこそ喜び、マンダレイがあるからこそ苦しむ。その狭間で、マキシムの心が爆発したのでしょう。ならばすべてなくなってしまえという激しい憤り。いっそ、全部なくしてしまえば楽になれると。
最後にちらっとライトに照らされるダンヴァース夫人が、その登場具合が絶妙でした。長すぎても冗長になってしまうし、姿を全く見せなければ、物足りない。
エピローグは綺麗でした。夢の中の景色のよう。緑?青?月明かりが、窓から差し込んでいて。その中で「わたし」が歌うのです。
最後の、「わたし」と「マキシム」のデュエットは、天上の音楽のようでした。完璧なハーモニー。マキシムは、心の平穏を手に入れたんでしょうか。
カーテンコールの音楽が、三拍子で奇妙な感じで、それがまたよかったです。私はとっさに、「チムチムチェリー」を連想していました。哀愁漂ってます。完璧な大団円とはいえない、なにか含みを持たせるような曲調でした。途中から、陽気な曲に変わりましたが。
以上で、観劇記は終わりです。一言でいうなら、『神よ なぜ』はすごかったと。それに尽きます。私はただ観劇しただけなのに、あまりに感情が揺れ過ぎて、体力を消耗してフラフラでした。これは続けて見るには、つらい演目かも。観終わった後の余韻も、また格別だと思います。
オーケストラの音や舞台セットは、迫力があって見劣りしません。ライトがすごく効果的に使われていたし。あれは、紗幕と言うんでしょうか? 門扉の絵もきれいだった。シアタークリエは『レベッカ』をやるには小さい劇場で、だからこそ制約も多かったと思いますが、関係者の方、さすがプロだと思いました。出演者の方のコーラスも、大迫力です。人数的には少ないけど、さすが実力者ぞろいだと感じました。手抜きなし、です。
演出の山田和也さんと、訳詞の竜真知子さんのセンスは、期待通りに素敵なものでした。竜真知子さんは、特に『永遠の瞬間』の歌詞がいいのです。パンフレットの歌詞を読んでいると、目の前に情景が浮かびます。まるで、リアルな夢のように。
ホワイエは狭い。トイレの行列だけでいっぱいいっぱい。売店で買い物しづらいのが悲しい。食べ物や飲み物は、自動販売機でいいのに。その分、パンフレット売場を広くとってほしい。パンフレットを買うのに、一苦労でした。人が多すぎて、にっちもさっちもいかない。
トイレは、最初から諦めてシアタークリエ以外のところへ行きました。なので、どんなトイレなのかは不明。帰りにチェックしようと思ったのですが、体力消耗してフラフラで、頭痛もあったのですぐに帰ってきました。すごい作品です。『レベッカ』。
次回観劇予定は未定ですが、また行くのは確実です。ただし、少し間隔を置こうと思ってます。かなり刺激を受けたので、それをもうちょっと自分の中で整理したいのと、後は、回数を重ねた後の舞台がどう変わるのか、それを見てみたいのです。
もちろん今でも十分見応えはありますが、同時に「もしかしたら、ここのこういうところはいずれ変わってくるかも」と思った箇所も、いくつかあって。『ダンス・オブ・ヴァンパイア』がそうだったように、きっとこの作品も変化していく舞台になると思いました。