別冊花とゆめ3月号『ガラスの仮面』美内すずえ著を読みました。以下感想を書いていますが、ネタバレしていますので未読の方はご注意ください。
感想、一言で表せば、うわーーーー!!! ですよ。
心の中で、キャーキャー言いながら読み終えました。
なぜなら、なぜなら、速水さんが可愛いすぎるから(笑)
少年の日の、無防備な素顔をさらした速水さんがこんなにも可愛いなんて、読みながら自分の顔が赤くなるのを感じました。
いいなあ、速水さん。ほんと、可愛い。
30過ぎの、芸能プロの敏腕社長とは思えない不器用さ。だけどそれが、決して不快ではないのです。
最近、ヒキタクニオ著 『ベリィ・タルト』や、新堂冬樹 著『女優仕掛人』を読んだばかりなので、よけいに・・・。
特に『女優仕掛人』の方は、最初から描写がエグくて、読み終えると気分がどんより、でした。
芸能界って、照明がキラキラ当たってとても華やかに見えるけれど、その分、光がもたらす影も深いというか。
きれいに見える仕事ほど、裏にまわれば汚いものなんですよね。
白鳥が、水面下で必死に足をバタバタさせているように。
本は、誇張された部分ももちろんあるとは思うけど、それでもそこには淡々と描かれた真実があるんだろうなあと、そう感じさせるものでした。
そんな芸能界で生きてきた芸能プロの社長なら、感情におぼれることなどないし、人の気持ちを斟酌などしないのでしょうが。速水さん。
どうしてマヤの前では、ただの少年になってしまうんでしょう・・・って、それが恋なんでしょうね。
冷徹で、血の通わない人物だったはずなのに、温かな血が通い始めたのはすべて、マヤに出会ったから?
今月号、ほぼ、速水さんの心情だけで描かれてます。
速水さん目線での、展開です。
だからこそ、胸が苦しくなるような場面がいっぱい。
暴漢に襲われた夜。朦朧とした意識の中で、速水さんは阿古夜のセリフに乗せた、マヤの愛の告白を聞きました。それが自分の夢だったのか確かめようと、船上でマヤに阿古夜を演じさせます。あの夜、自分が聞いたのと同じセリフを言わせるのですが、それをなんと2回も繰り返させます。
ていうか、速水さん、そんなに自信がないのかと。笑ってしまうのと同時に、せつないなあって。
マヤに憎まれてると思ってるからね。
自分がマヤに嫌われている、という思いこみ。その呪縛は、そこまで重いものなのだなあと感じずにはいられません。
何度確認したところで、百パーセントの確信など得られないわけです。
自分を卑下している。
そして、それだけ、マヤへの気持ちは真剣なんだと。
結果、耳にした声の調子や抑揚から、あのときのことは夢ではないと知るのです。
>マヤがおれを・・・!?
>このおれを・・・!?
賭けてもいいですが、このセリフの続きを言葉にするならば、「嫌ってはいなかったのか」、もしくは「看病してくれたのか」であり、決して「愛しているのか」にはならないでしょう。
そこまで、ふみこんで考えてはいないと思います。
マヤの愛情に対する確信は、この時点ではない。
それ以降の対応を見てもわかるんですが、恐る恐る、マヤの様子を探っていますから。もう、痛々しいくらいに。
愛されているという確信があれば、もっと堂々と話せていると思うので。
演技の途中。
マヤは速水さんがさっきまで着ていた背広の上着を、一真に見立てて抱きしめます。それを見ている、速水さんの心の声はこうです。
>おれは・・・
>そのとき どうしようもないくらい無防備な
>表情(かお)をしていたと思う・・・
乙女な速水さん、ラブリーです(^^)
同時に、速水さんがこんなにも子供に戻れたのは、無防備になれたのは、お母さんを亡くした少年時代から今に至るまで、この瞬間にしかなかったのだとそう思いました。
そこに立っていたのは、速水真澄になる前の、藤村真澄。まあくんです。
だって、誰も彼を守ってくれる人が、いなかったから。早く大人になるしか、なかった。体は子供でも、心は大人になるしかなかった。誰にも傷つけられないように、頑丈な鎧をつけて。力を身に付けるしかなかった。そうすることでしか、自分を守れなかった。
でも好きな人ができて、その人の前では。鋼鉄の鎧もいつの間にか、消え失せてしまったのですね。愛しい気持ちが、鎧を跡形もなく溶かしてしまった。だから、呆然とマヤを見ていた。体裁を繕うこともできずに。
そしてマヤの手が、頬に触れたとき。
これ以上自分の気持ちを抑えることができず、マヤを抱きしめてしまいます。
>もういい・・・
>もう演らなくていい
>わかったから・・・
>もうわかったから・・・!
一体何をだよ? と、読者なら誰もが想像をふくらませたと思いますが、私はこの続きのセリフがあるとしたら、「俺はどうしようもなく君が好きになってしまった・・・」だと思いますね。
あの夜の真実がわかった、というよりも、自分の気持ちの深さに、自分が気付いてしまった、というか。
コントロールできない感情があることを。感情が理性に負ける瞬間を。速水さんは知ったんだと思います。
そして、もう全身全霊で認めざるを得ない。マヤが好きだし、その事実から目をそらすことはもう、できないんだって。
そうでなければ、演技を中断させてマヤを抱きしめるなどという暴挙(^^;に出られるはずがありません。
言い訳しようがない状態です。
でも、ここで面白いのがマヤとの気持ちの対比。
この号で、マヤは終始、きょとんとしている状況です。
速水さんが自分に優しくしてくれる、抱きしめてくれる、それは嬉しいし照れるしドキドキしているのでしょうけれど、速水さんが抱いた恋愛感情には、ほぼ、無頓着というか気付いてないと思われます。
マヤ的には、速水さん、私の演技に感動してくれたんだ。嬉しい。
心中を察すれば、こんなところだと思います。
よくやった!という賞賛のハグです。
速水さんに褒められたんだ、という嬉しさはあっても、まさか彼がマヤへの激情に震えていることなど、知る由もないでしょう。
この、すれ違う二人の心。描写がすごく面白いです。
マヤは抱きしめられたものの、船上に朝日を見にきた人たちがいたため、人目を気にしてとっさに離れようとします。でも、速水さんは一層強い力でマヤを抱きしめ、こう言います。
>きみはイヤか?
>おれと噂になるのは・・・
>いいえ・・・!
>いいえ 速水さん・・・
私、このとき二人は案外、互いの心境をわかっていないのではないかと思うのです。
マヤにしてみれば、速水さんはただ単に紅天女の演技に感動して、自分を抱きしめているわけです。彼は自分自身の感情に酔っているのだろうと、そう思っています。我が道を行く、冷血鬼社長ですから(その奥底にある優しさもわかってはいますが)、人目を気にしない堂々としたところがあるんだと、そうとらえているのではないでしょうか。
対して速水さんは、マヤの答えを。
意地っ張りな彼女らしいと、思っているのではないかなあ。
私、チビちゃんじゃありませんから。
別に、速水さんと噂になったって、そんなことで動揺なんて、しませんから。
もう大人なんですから。
強気なマヤが、そんな気持ちで平静を装ったと、考えていたかもしれません。
長文になりましたので、続きはまた後日・・・。