「だい」をつけない紫織さんらしさ

 別冊花とゆめ2011年10月号『ガラスの仮面』美内すずえ 著の感想を書いています。以下、ネタばれ含んでおりますので、未読の方はご注意ください。☆印は、私が勝手に想像したものです。紫織さんに対して辛口のレビューになっております。

 

 ん?と思う台詞がありました。
 それが、これ。

>真澄さまはわたくしがきらい・・・
>わたくしは紫のバラの花が大きらい・・・

 私はこれを読んだとき、胸の中に生じた違和感を、なかなか消すことができなかったです。
 この言葉、すっごくひっかかる。
 口に出したら可哀想かも。でもやっぱり思ってしまう。

 紫織さん・・・

 あくまでも、嫌い度数は

 わたくしが紫のバラ(北島マヤ)を憎む気持ち>>>真澄さまがわたくしを遠ざける気持ち(若干謙遜入)

 なのですね(^^;

 どうあっても、「わたくし、真澄さまにものっすごく嫌われてるかも」という思考には達しないんだなあと。あくまで、「きらわれてる・・・ようにみえるかもしれないわね」くらいのレベルで。

 しかもその気持ちには、紫織さんなりの謙譲の美徳みたいなものが、混ざってると思います。
 自ら、真澄さまに愛されてる事実を表現するなんてはしたない、みたいな。
 本当は真澄さまには誰よりも愛されてるけど、それを今大声で言うのははしたないから、一応ここは「きらわれてるの、オヨヨ」みたいに言っておこうか、的な策略を感じてしまった。
 誰かが否定し、慰めてくれるのを見越す、あざとさ、みたいなもの。

 そして、どう謙譲してみせても、「真澄さまはわたくしが“だい”きらい」とは呟かないのですね。

 以下、私が想像する紫織さんの本音。

☆真澄さま、わたくしを遠ざけようとするなんてひどすぎますわ
☆でも、紫織にはわかってます。あなたは本当はわたくしを愛してるんですものね。
☆さあ、いつでも準備はオッケーですのよ。婚約解消は撤回し、わたくしを抱きしめて。
☆傷付いたわたくしを見て悔恨の涙を流し、今こそ永遠の愛を誓うのよ。ホーホホホホホ。

 可哀想なわたくし、を演出すれば。
 周りが右往左往し、ご機嫌をとってくれるのが紫織さんのこれまでの人生だったのかなあと思います。
 自分の、ほんのわずかな言動に周囲があーでもないこーでもないと気を回すのが、紫織さんにとっての日常だったわけですよね。
 以下、ベッド上の紫織さんの心中を、想像してみました。、

☆あら。変ね。わたくしがここまですることなんて今までなかったのに、真澄さまったら反応が薄いわ。
☆わたくしに近寄ってもくださらないなんて。このわたくしに対して申し訳なさすぎて、恐れ多いのかしら。
☆もちろん、この償いはたっぷりしていただきますわよ。わたくしが元気になるまで、大好きな蘭の花束を抱えて日参してくださるかしら。
☆仕事だ仕事だって、わたくしとのデートがキャンセル続きだったのも、これからはそうはいきませんから。たっぷりつきあっていただきますわよ、フフフ。
☆手始めに、この部屋のバラを、わたくしの目の前で踏みつける、なんてことをしてくださっても、わたくしちっとも構いませんのよ。(紫織の妄想が広がる・・・)

☆紫織さんっ!! ぼくは間違っていました。(がばっと膝をつく真澄)
☆ぼくは、ぼくは大馬鹿ものだ。殴ってくださいぼくを。
☆こんな紫のバラなんて・・・(近くにある紫のバラを、乱暴につかむ)
☆こんなもの、こんなもの、こうしてやるー。(手で引きちぎったあげく、足で何度も憎々しげに踏みつける。
☆ぼくが本当に好きなのは蘭なんです。あなたのような。ああ、でもこんなぼくが今さらあなたに許しを請うても、もう遅い。
☆紫織さん、あなたの心のほんの片隅でいい。覚えていてください。あなたを心底愛しながら、去って行った愚かな男がいたことを。せめて、遠くであなたを想うことだけは、許して下さい。

シ☆もうやめて。もう顔をお上げになって。
マ☆できない。今のぼくにはあなたをみつめる資格などないんだ!
シ☆いいの。紫織にはわかっていましたもの。
マ☆紫織さん! あなたはなんと気高くお優しい。こんな僕を、許してくれるというのですか。
シ☆真澄さま
マ☆紫織さん。(見つめ合う二人。熱い抱擁。ハッピーエンド)

 あー、書いてたらなんだかコメディちっくになりました。
 紫織さん、こんなことを考えてたりして(笑)

 私は、紫織さんが計算の上で、傷付いた姿を演出していると考えているのですが。そう思う理由の一つが、この台詞。

>真澄さまはわたくしがきらい・・・

 この台詞を、淡々と繰り返し呟く姿に、疑問を感じました。

 想像してください。あなたに大好きな人がいたとします。その人は、あなたのことを好きではありませんでした。あなたは失恋しました。

 ○○さんはわたくしがきらい。

 1度呟けば、心がズキっと痛みますね。そりゃー、好かれてないのはわかってるけどさ、みたいな。

 ○○さんはわたくしがきらい。

 2度目に呟けば、自分の言葉ながら、その威力に唖然としませんか。何言ってるんだろう、自分、みたいな。

 ○○さんはわたくしがきらい。

 3度目に呟けば、確実に泣けます。ホントに好きなら、絶対泣くと思いますよ。そしてこれ以上、こんな言葉を口にすることはできない。むしろ、逃避しようとするんじゃないでしょうかね。愛されていない現実から。

 どうしても未練が残る自分をふっ切りたいから、という理由ならまだ、わかるんですけども。自分に言い聞かせる意味で、とかならば。

 でも紫織さんの場合、そういうふうには見えなくて。

>真澄さまはわたくしがきらい・・・

 この言葉を何度も、平気で口にできる時点で、「本当に速水さんを好きなの?」と疑問に思ってしまいました。好きっていうのじゃなくて、なにかもっと、違う感情のような気がする。そして好きじゃないからこそ、自分が愛されてると思ってるからこそ、言えるんだろうなあって。

 本人なり、周りに否定してほしいんだろうなあ。そんなわけないじゃないですかって。自己表現が下手なだけで、あの人は紫織さんを心から愛していますよって。

 私、10月号を読んで速水さんの優しさを再確認しました。
 こうなってしまった紫織さんの壮絶な姿を目の当たりにして、嫌悪感より先に同情がきているのは、生来の気質だと思います。

 私だったら・・・ぞっとしてしまい、嫌悪感がぬぐえなかったかも。その姿を哀れだとは思う気持ちの一方で、そこまでするのか、そこまでアピールするのか、と。
 もう周りに向けて、「可哀想なこのわたくしを見てーーー!」と、全力で叫んでる感じがしますからね。

 誰にも会いたくない・・・とかではなく。

 むしろ、傷付いたわたくしを、最大アピール。

 そして、そのアピールのときでさえ、「だい」きらい、とは言わないところが、いかにも紫織さんらしいなあと思いました。

別冊花とゆめ2011年10月号『ガラスの仮面』美内すずえ 著 感想

 別冊花とゆめ2011年10月号『ガラスの仮面』を読みました。以下、感想を書いていますが、ネタばれしていますので未読の方はご注意ください。
 なお、☆印で示した記述は、私が勝手に想像した真澄さまの心の声です。

 今月は、ちゃんと速水さんが出てくるということを、ネット上で確認してから買いました。9月号は本当に、「買うんじゃなかった・・・」の号だったので。

 今月号は、いい意味で、予想を裏切る展開にドキドキしましたよ~。
 買ってよかったと思います(^^)

 まず、今回は紫織さんの黒さが半端ないです。嫌な人間を、これでもかとばかりに演じてくれてます。(そうです。私は本当に彼女が狂ったとは思ってません)すがすがしいほどの悪役っぷり。

 速水さんから婚約解消を申し出られ、自殺未遂をしたショックで精神に変調をきたした、という設定なのですが、部屋中に置かれた紫のバラだけでも異様な光景だというのに、ベッドの上の紫織さんの憔悴しきった姿!

>真澄さまは わたくしがきらい・・・
>わたくしは紫のバラの花が大きらい・・・

 その言葉を繰り返しつつ、ひたすら薔薇の花びらをちぎっているというホラーな絵柄。それを目の当たりにした速水さんの衝撃が、こちらにも伝わってくるような恐ろしいコマでした。

 そして、婚約者の変わり果てた姿を見た速水さん、その衝撃もさめぬうちにまさかの鷹宮翁、膝をついて屈辱の懇願です。

>このとおりだ 真澄くん 紫織と結婚してやってくれ

 私はこれを読んで、「そうきたかーーー!!!」と、圧倒されておりました。

 鷹宮翁はマヤ絡みで圧力かけてくるだろうと思ってたんですけど。たしかに、最初は速水さんのことを自殺未遂の件で厳しく責めてたんですけど。

 紫織さんの哀れな姿を見せた後で、まさかの懇願。これは重いですよ。その願いを容易く撥ね付けられるほど、速水さんは冷たい人間じゃない。

 そうきたかーーー!!と。
 二重三重に、速水さんは縛り付けられるわけです。婚約解消するについては、鷹宮翁の怒りをかうことは承知していたでしょう。そして、鷹宮側の怒りの矛先が自分個人ではなく大都芸能全体、そしてマヤへ向かうことも予想はしていたでしょう。
 そのことに対しての覚悟はあったかもしれない。

 ただ、紫織さん自体があそこまで崩れてしまって、そこまで追い詰めたのは自分だと罪悪感に苦しめられることだとか、立場も年もずっと上の鷹宮翁が膝をついてまで若輩者の自分にすがることだとかは、全く予想外だったのではないでしょうか。

 うーむ。これはハードル高いですよ。と思ったら、案の定。

 速水邸に戻った後、自室で酒の入ったグラスを手にする真澄さま。
 飲んでこのがんじがらめの現実から、しばし逃避しようと思ったのでしょうか。胸を刺す痛みから楽になろうとしたのでしょうか。

 床に叩きつけられ、粉々になったグラス。
 テーブルに手をつき、うなだれる背中が語ってました。私には速水さんの心中の声が、聞こえるような気がしましたよ。

☆マヤ・・・すまない・・・約束は守れそうにない
☆おれは・・・紫織さんと結婚する・・・

 あ、もちろん、そんなセリフは、実際には本誌には載ってないですけど。
 でも、私はあの絵を見て、上記の台詞を想像してしまいました。もう背中が語ってますもん。敗北を認めちゃってる寂しい背中でした。

 そりゃそうですよね。私が速水さんの立場でも、やっぱりそれしかないという結論にたどりつくと思う。

 鷹宮が100%戦闘態勢で突っかかってくるというなら、まだ、おう、上等だ。やってやろうじゃないか、的な戦意もわいたかもしれません。でも、ああいう哀れな姿を見せられ、情に訴えかけられたら。速水さんの心にある優しい部分は、それを無視することなんてできないでしょう。

 悲恋決定、の伏線を張った回だと思いました。

 負けを認めた速水さんの背中。次頁には、そんな展開も知らずに、紅天女の台詞を我がことのように口にするマヤの姿が描かれています。

>ただ そばにいるだけでよい・・・
>ただ生きていさえすればよい・・・

 無邪気なマヤの言葉は、まさに未来を暗示するものではないでしょうか。

 速水さんとマヤは、結婚はしないけど、結魂するのです、たぶん。
 魂のかたわれだからね。この世で結婚という形はとれなくてもね、アストリア号で融合したのがクライマックスということで。

 肉体的な結びつきがなくても、人はどこまで相手を愛せるか、信じ続けられるのか、という話になるのではないでしょうか。
 伊豆には・・・行けないだろうな。こんな状態で。

 速水さんは、この状況をどこまでマヤに伝えるのか、というのが、次の焦点になってきますね。
 全部正直に話して、マヤに理解してもらうっていうのは・・・・ないだろうな・・・・。

 なんでかというと、速水さんはマヤのこと、ちっちゃな女の子だと思ってるからです。11も年が離れてたら、そりゃ当然のことでしょうけど、「おれが守ってやらんでどうする。おれは男だ」的な感覚でいると思うんですね。

 そしたら、余計なこと言って、マヤを必要以上に悲しませたり動揺させるのは避けるはずなんですよね。自分が悪者になることで、悲しみを怒りに変えられたなら・・・その方がマヤが苦しくないと思うのなら、彼は喜んで悪者を演じるでしょう。

 もしマヤに正直に事情を話せば、マヤは紫織さんへの罪悪感に苦しみ、大都が窮地に追い込まれることを恐れ、悩むだろうから。速水さんは愛する人に、余計な苦しみは与えたくないでしょう。

 そして、なにより根底に。速水さんは「自分じゃなくても、マヤにはもっと幸せな道がある」という、密かな思いがあるんじゃないのかなあ。自己評価、低い人だし。
 マヤを愛する他の人、といえば、桜小路君もいます。
 年も近く、職業も同じで、お似合いの二人。余計な苦労やバッシングなどなく、幸せになれる相手。

 だったら、周りを無理にかき乱し、マヤを騒乱の渦に巻きこむようなことはせず、静かに身をひく道を、速水さんは選択するのではないでしょうか。自分さえ、気持ちを押し殺せばすべては丸くおさまるのだから、と。遠くから、マヤの幸せを願いつつ。

 その場合、マヤには嘘つくでしょうね。

 私が以前、勝手に書いた妄想文のように。

☆きみとのことは、気まぐれだった。本気じゃなかった。つい思わせぶりなことをしてしまったが、それもきみの紅天女があまりにも真にせまっていたからだ。
(プレイボーイを演じて、マヤをわざと挑発し、自分を憎ませる)
☆まさかきみも、本気だったわけじゃないだろう?チビちゃん。

 

 そういうこと言われて、顔を真っ赤にしてぶるぶる震えるマヤの姿が目に浮かびます。

 悲しみよりは憎しみのほうがマシだというのが、速水さんの信条だろうから。嘘ついて、マヤには自分を憎ませ、結婚に向かうのだろうなあ。その道が、地獄に続くと知りながら。

 今月号で、心を打たれたシーンがもう一つあります。
 それは、真澄さまが、英介の「わしの命令だ」という言葉に、過敏に反応する場面なのです。

 せつない・・・。胸が痛みました。

 紫織さんの痛みがへっぽこに見えるほど、真澄さまの子供時代は過酷だったと思います。

 親の愛を求めない子供はいません。
 血はつながらなくても、真澄さまはどんなにか、英介に愛されることを望んでいただろう、と思うんですよね。
 反抗しながら、復讐を胸に誓いながら、それでも英介の希望に応えることで、いつか英介から愛してもらえるのではないか、と、心の奥底ではずっと、愛される自分を夢見ていたのではないですかね。

 英介に認められること。後継者にふさわしいと褒めてもらえる日を。

 「わしの命令だ」と言われれば、真澄さまはいつだって、それに従ってきた。それに答えることで、親子になれるという気持ちが、どこかにあったのではないかと。

 だから、「わしの命令だ」って言葉は、魔法の呪文のようなもので。
 どんな困難があっても、そう言われればあらゆる手で、不可能を可能にしてきた。
 「わしの命令だ」という言葉の影に、「真澄よ、お前ならばわしの望みを叶えられるだろう」という甘い、蜜のようなものを、真澄は感じていたのではないかと。

 だからね。いつの日か、英介を超える日が来たとしたら。その日こそ、「わしの命令だ」に逆らう日となるわけです。それには物凄いエネルギーが要りますよ。親を超えるだけの、エネルギーがね。

 真澄にとって、「わしの命令だ」に逆らうことの意味を。その重さを考えれば考えるほど、気の毒になってしまう。

 まだ、機は熟してないと思う。
 それなのに、婚約解消を強行しようとすれば、その日を無理やり、前倒しにすることになる。
 英介を乗り越えるだけの心の準備が、真澄にはあるのかどうか。

 腫れものに触るような扱いで、どんなときも周りの庇護を受けてきた紫織さんには、速水さんの葛藤など、知るよしもないでしょう。

 今月号を読んで思ったんですけど、紫織さんは人格障害ではないかと。

 自分を可哀想な被害者にすることで、周囲の関心を集め、己の欲求を通そうとしています。これ、真澄さまとのことがなくても、今までにも上手くいかないことはすべて、同じようなパターンで、己の意志を通してきたのではないでしょうか。
 我がままを許してきた、鷹宮家にも問題はあると思いました。

 主治医も、振り回されてしまってますね。
 部屋中に薔薇を置くこと。ベッド上で花びらをむしらせること。それが、病状の回復に役立つとは、とても思えません。むしろ、狂気を増大させることになるのではないでしょうか。

 異常な状況に置かれれば、正常な人だって心を病みますよ。部屋中に紫のバラの花だなんて、とてもじゃないけど、健康的とは言えない。そんな部屋にいれば、ますます神経は昂るでしょう。
 紫織さんがどうしても紫のバラを部屋中に置きたい、そうでなければまた死んでやる~などと暴れるのならば、薬を処方して落ち着かせるのが医者なのではないかと。

 病人に振り回されてはいけません。
 こういう人格障害の人は、周りを利用するのが上手です。人の優しさや、思いやりにつけこんで、罪悪感を刺激します。

 わたくしがこうなったのはすべて、あなたのせい。
 だから、あなたはわたくしに贖う義務がある。

 こんな思考回路なんですよね。
 ここで安易に、同調して助ける人物が登場すれば、状況はますます悪化します。

 振り回されてはいけない・・・のですが、実際、鷹宮翁が甘やかしてきた長い歴史がありますし、ぴしゃりと冷静な対応のとれる人は、いないでしょうね。

 ただ、速水さんはずっと、いろいろ耐えてきた人なので見ていて気の毒です。紫織さんが人格障害だとかそういうことは思いもせずに、自分だけを責めてしまうのではないかと。

 本当の問題は、紫織さん自身の心の中にあるのだと思います。
 速水さんが自分の気持ちを押し殺して結婚することで、紫織さんを救えるかというと、それは無理。

 むしろ、エスカレートするでしょうね。
 また上手くいった・・・と。

 紫織さんにしてみれば、可哀想な被害者になることで、またしても問題は全て解決し、自分の欲望を無事、押し通すことができたわけです。そんな彼女。次になにか困難が訪れたとき、どうするでしょうね。

 賭けてもいいけど、また周りを振り回し、可哀想なターゲットをどん底に突き落とすと思います。加害者の烙印を押して。

 常に、わたくしは可哀想な被害者。
 わたくしを傷つけた加害者は、なにもかも投げ出してわたくしの前に跪きなさい、そんな自己愛オンリーの思考なのだと思います。

 最後に、今月号でちょっと気になったのは、マヤを影からみつめる黒沼先生。マヤの恋心に気付いたのかな。思わせぶりな終わり方でした。

『ガラスの仮面』英介の思いを想像してみる

 別冊花とゆめ2011年10月号の発売を前に、「婚約続行を英介に説得される真澄」を書きたくなって、つい書き上げてしまいました。原作とはまったく関係ないです。勝手に私がいろいろ想像しちゃったんですけど(^^;

 以下、二次創作文になります。
 状況としては、真澄が英介に「紫織さんとは婚約破棄をする」と宣言した場、を想定してます。英介の部屋でですね。最初は敵愾心を燃やして英介に対峙する真澄さまですが・・・。

 パロディを、軽く読み流せる方だけ読み進めてください。

 ではどうぞ~。

 


 「何もかも捨てて、あの娘を選ぶというのか? それができるとでも思っているのか? あの娘を助けたくば、お前が取る道は一つしかないことが、まだわからんのか」

 英介の目が、真澄をじっと見据えた。その目にはもはや怒りはなく。むしろ慈愛に近いものがあったようにみえたのは、真澄の気のせいかもしれない。

「お義父さん、以前にも言ったように、マヤにもしものことがあれば・・・」

「お前の目は節穴か。わしのことなんぞ、問題ではないわ。鷹宮がこのまま引き下がるはずはないと、そんな単純なことがお前にはまだ見えておらんのか」

「・・・・」

 無論、そのことを考えなかったわけではない。どんな手を使ってくるのか、可能性は無限にあるだけに恐ろしくもあったが。マヤを守り抜くとそれだけは固く心に決めていた。何を犠牲にしてもいい、悲壮な決意がそこにはあった。どんな困難があろうと、マヤと一緒になろうとする自分の意志は変わらない。

「大都の看板を失ったお前に、どれだけのことができる? 思いあがりも甚だしいわ。時間がたてばそれなりの力もつこうが、鷹宮はそれを待ってはくれんぞ。北島マヤにとっては今が一番大事なとき。これを逃せば、紅天女は姫川亜弓の不戦勝となる。その後でどれだけの実力をつけようが評判になろうが、紅天女のチャンスは今このときにしかないことがどうしてわからぬ?」

 英介の言葉は、熱くなった真澄の心にぴしゃりと冷水を浴びせ、いつもの冷静さを引き出した。
 返す言葉もない。己のことならいかようにも対処する覚悟はあったものの、マヤを人質にとられては動けない。英介の指摘は正論だ。英介が動かなくても、鷹宮翁が動かないわけはないのだ。そのとき、大都の代表ではなくなった自分に、いったいどれだけのことができるだろうか。
 マヤが試演に参加できないようなことになる事態だけは、どうしても避けなければならない。

 だが、どうやって。
 巨大な鷹通を敵にまわして、どこまでやれるのだろうか。
 ただ一度の失敗が、致命傷になる。
 鷹通の攻撃すべてを完全に防御できると、そう言い切ることはできなかった。言えば、嘘になる。

「真澄よ。お前が一番大切なものはなんなのだ。それを考えれば答えは出ているのではないか」

 そのとき、英介に対して正直に心中を吐露することを、躊躇う気持ちは不思議と失せていた。目の前に対峙する男を、信用することなど今までなかったのだが。義父の声の中に、真澄は頼れるものを感じていた。それは言葉ではなく、直観だ。ここ一番という勝負時、理屈ではないそんな直感が、物事の成否を分けることがある。これまでの仕事でも、真澄は最後には自分の直感というものを信じて、危ない橋を無事に渡り続けてきたのだ。

「守りたいのは、北島マヤだけです。マヤを守れるなら、どんなことでもする覚悟はできています」

 絞りだした自分の声は、苦渋に満ちていた。おれは追いつめられているのだろうか? 自分の声でありながら、他人の告白を聞いているようにも思えた。

「フン。色恋に迷いおって」

 憎まれ口を叩きながら、英介は奇妙に、どこか喜んでいるようにも見えた。

「ならば、紫織さんと結婚することだ」

「お義父さん!!」

「いいから最後まで聞け」

 英介は大きなため息をひとつ、ついてみせた。やれやれ、とでもいうように、ゆっくりと言葉を続ける。

「北島マヤの身の安全と、紅天女試演への無事な参加を望むなら、そうするしかあるまい。お前が婚約を破棄するのは、お前自身の欲望にすぎん。本当にあの娘のことを考えるなら、鷹通を敵にまわすことだけはやめておけ」

 英介の目は、遠くを見ている。

「北島マヤと一緒になりたいというのは、お前の愚かな欲望にすぎん。お前が藤村真澄となり、鷹宮との縁談を解消すれば、真っ先に狙われるのはお前ではない。マヤではないか。無論、あの子はそれでも構わないとお前に言うだろう。だが、鷹宮は甘くはないぞ。試演のチャンスをつぶすのは勿論のこと。あの子の身にも危害を加えるであろうな。それも、紫織さん以上のダメージをな」

「お義父さん、ぼくは・・・」

 どうしたらいいのですか?と最後までは言えなかった。
 答えはもう、示されているからだ。
 英介が、会社のために今、話しているのだとは思えなかった。英介は真剣に、自分のために話してくれているのだ。真澄はそれを確信していた。だからこそ、その言葉は重い。

「このまま結婚しろ。それしか北島マヤを救う手だてはない。お前が紫織さんと結婚すれば、鷹宮側もあの子に手は出せなくなる。あの子になにかあれば、お前は即座に動くだろうからな。向こうもそれは承知の上よ。結婚が、お前の唯一の武器、切り札だ。お前が紫織さんと結婚する以上、あの子の身の安全は保証される」

「約束を・・・約束をしました。マヤに、待っていてくれと。それでも・・・」

「なにを守るか、だ。お前のくだらん執着と、北島マヤの幸せと、どちらを守りたいか、だ。違うか? それに、生きてさえいればいつかは、時間が解決してくれるかもしれん。紫織さんの気持ちが、変わる日が来ないとも限らん。いつになるか、それはわからんが・・・。一生添い遂げねばならんと決まっているわけではない。いつか紫織さんが望めば、離婚という道もある。そのときこそ、お前の好きにすればよかろう」

 真澄は目を閉じた。英介の言葉が胸に刺さる。なにを守るか・・・迷う余地はない。だがそのために、マヤの心を傷つけることがひどく、怖かった。あの子は何を思うだろうか。おれの心変わりをなじるだろうか。怒ってくれるならまだいい。恨んでくれるなら救われる。あの子が悲しむ顔だけは、見たくなかった。それは自分の身になにかされること以上に、心を引き裂くから。

 だが、どうしても守りたいものは。なにより優先したいのはやはり、マヤしかいない。そのためなら、どんなことにも耐えられる、と、真澄は改めてその事実を反芻する。

「お義父さん、ありがとうございました」

 真澄は、深々と頭を下げた。英介でなければ、今の自分は説得されなかっただろうと思う。婚約を継続する以外に道はないことを、わかっていながらあがき続けただろう。それ以外の幻の道を、未練がましく探し続けただろう。そうすることで無駄に時間を費やし、心ならずもマヤを、危険に陥れることになっていたかもしれない。

 自分に必要なのは、背中を押してくれる手、だった。
 答えは、本当は最初から、一つしかなかった。

「わかればいい。わしの失敗を、お前にも繰り返させたくはなかった」

 え?と。顔を上げた真澄が聞き返そうとしたときにはすでに、英介は素早く車椅子を回転させていた。その背中が、初めて小さく見えた。

 「もう行け」

 背中越しに、英介が素っ気なく告げた。

 真澄はもう一度頭を下げ、そして部屋を出た。真っ直ぐに鷹宮家へ向かう。事前のアポイントはないが、紫織さんには会えるだろう。おれは、おれのなすべきことをするだけだ。それだけ。

 歩き始めた真澄の足取りに、もう迷いはなかった。


 

 以上、勝手な想像文でした。

 私、英介は結局は真澄さまの味方になってくれるのではないかと期待してます。長く一緒に暮らせば、情がわかないはずないし。真澄さま自体、本来はとても心優しく、人に愛される性格だと思ってるから。
 会社を継がせようとしている英介は、それゆえに厳しく育てた部分はあると思うけど、真澄さまの人柄に触れるたびに癒されたり魅了されたりはしてたんじゃないかな~。態度には出さなくても。実の子供に近い感情を抱いていても、不思議ではないかと思います。
 真澄さまは努力もしたし、会社では英介の理想通りの結果を残したでしょうからね。自慢の息子ですよね。

 だから、紫織さんとの問題に関しても、真澄さまの一番の味方になるのはこの人ではないか!と思っているのです。というか、鷹宮を敵にまわしたとき戦力になりそうな味方はこの人しかいないんじゃないかと(^^;

 なんだかんだ言っても、鷹宮翁は孫娘が可愛いだろうし、真澄の気持ちなんて斟酌はしてくれないでしょう。真澄がどんなに不幸であろうと、紫織が幸福ならそれでいいと、考えるのだろうし。

 結局、鷹宮翁が真澄の味方となり、紫織さんを説得してくれるとは考えにくいわけで。

 そこで英介の登場です。
 英介が真澄を守ってやりたいと考えるとき、なにをアドバイスするのかな~と思ったら、上記のような場面が浮かんできました。

 

 だって、無理だし。婚約破棄した真澄さまがマヤを守り抜くってこと。理想論ではあっても、現実には絶対、鷹宮側の嫌がらせというか報復って、あると思うんですよね。
 たとえ真澄さまが鷹通と大都の提携解消の責任をとって降格したり、会社を辞めたとしても、それで相手が納得してくれるとは思えなくて。

 むしろ、大都という後ろ盾をなくしたら、真澄さまピンチじゃないですか。
 一個人になって、どこまでできるだろうって思います。一人で立ち向かうには、鷹通はあまりにも巨大すぎる。

 英介の気持ちになってみると、真澄の行動が危なっかしくて見てられないと思いますよ。マヤへの想いが、日頃の冷静な判断を狂わせて、真澄は愛する女性ともども、地獄へまっしぐらという感じで。

 英介は一度、大失敗してますからね。元祖紅天女の月影先生に対する我執が何をもたらしたのか。失敗を経験したからこそ、真澄へのアドバイスが重みを増すのではないかと想像します。

 きっと、真澄さまの試練はこれだけじゃないでしょうけどね。
 伊豆への道は遥かに遠いのではないかと、そんなことを思いました。

愛の形と攻撃性についての一考察

 愛した人が、自分でない他の誰かに夢中。

 こういう状況下で、もし怒りがわき出でたなら、その矛先はどこに向かうのが普通なんでしょう?

 男の場合は、彼女自身を恨む、と聞いたことがあります。
 女の場合は、相手の女性を悪者にするとか。

 前回のブログでは、ちらっとALW『オペラ座の怪人』について触れましたけども。
 私はファントムの、純粋すぎるほどのクリスティーヌへの憧憬を可愛いと思ってしまいますね。

>Why should I make her pay for the sins which are yours?

 直訳したなら、(お前の罪を、なぜ彼女に償わさせねばならぬ?)でしょうか。

 

 ファントムがラウルに向かって叫ぶこの台詞、好きなんです。

 子供っぽいというか、ファントムがむきになっている様子がリアルに伝わってきます。

 クリスティーヌとラウルのラブラブっぷりはファントムもよくわかっているのでしょうに、心の底ではそれを理解しているのに、自分自身をも偽って絶対にそれを認めないという意地。

 ファントムの中では、あくまで悪者はラウル。
 クリスティーヌはラウルに騙された無垢なお姫様なんですよね。

 クリスティーヌが自分の意志でラウルを選んでいる、という事実を、認めたくないのです。認めたらそこで、終わりだから。
 クリスティーヌに愛されることで築けた幻の城。
 お姫様がいなければ、廃墟にしかならない。

 これは、私の中のイメージのファントムですが。
 もしもクリスティーヌのキスがなくても、ファントムはクリスティーヌに傷ひとつ、つけることはできなかったんじゃないかなあ。
 甘い幻想かもしれませんが。

 なんというか、口ではどんなに脅すようなことを言っても、ファントムはクリスティーヌに勝てないというか、クリスティーヌが傷付くことに耐えられない、人のような気がするのです。
  だからもし、クリスティーヌがラウルを選び、死の覚悟をしたとしても。

 その首にロープをかけたところで、ファントムはそれ以上はできなかったのではないのかと。
 震える手。激しく葛藤する心。

 もっと自分勝手な人だったら、クリスティーヌに拒絶された時点で怒髪天を衝き、自分の人生もこれで終わりだと無理心中を図ったかもしれませんが。

 なんだろうなあ。私のイメージするファントムは、そういうことできなさそう。
 口汚くクリスティーヌの選択を罵り、ラウルに憎しみをぶつけ、それでも最後には彼女を許してしまうのではないかと。

 クリスティーヌがファントムに複雑な思いのこもったキスをしたのは、ファントムにとって暗闇に射す一条の光であったと思いますが。だからこそ観客も悲劇的な結末の中にわずかな救いを見出し、慰められるのですけれども。でもでも、それは物語の中の彩りにすぎず、それがあったからこそクリスティーヌとラウルの無傷の解放は実現したのだ、とまでは思えないんですよね。キスなしでも、結果は同じだったのではないかと。

 最初から勝負は決まっていたのかもしれない。(ファントムが完敗という意味で)
 だって、ファントムはクリスティーヌが大好きだったから。
 クリスティーヌが他の人を選んだところで、心の奥底ではそれを許容してしまったのではないかと。

 己の醜さを知らないわけではないから。むしろ人一倍敏感に、好きな人の心を察する繊細さを持っているだろうから。

 というか。むしろわかってたんだろうなあ。クリスティーヌがキラキラした白馬の王子様に惹かれている気持ちも。痛いほどに。

 彼女がもし

☆私はラウルと共に生きます。
☆あなたに何をされてもその決意は変わらない

 なんて、きっぱり言い切っていたら。
 ファントムの絶望は、キスという救いもなしに、ただただもう、大きな影となって彼を覆い尽くしていただろうけど。

 それでも彼はきっと、クリスティーヌが好きで、だからこそ傷つけられなかったはず、と思います。
 そして、身を裂かれるような思いで、結局のところ、やはり二人をそのまま地上に送り返したのではないかと。

 まあ、このへんは私の勝手な解釈ですが。そういうファントムだからこそ感情移入してしまうし、憎めないんですよね・・・。
 これ、ファントムが激怒してクリスティーヌをラウルもろとも惨殺するようなキャラだったら、『オペラ座の怪人』はこんなにも人気の舞台にはなっていなかったんじゃないかと。

 全てを許し、包み込む愛。無条件の愛、ですよね。

 見返りを求めない。愛されなくても構わない。ただただ、あなたが好きです。あなたの幸せを祈りますっていう。

 嫉妬の炎で愛する人をメラメラ焼き尽くす『ガラスの仮面』の紫織さんには、ぜひ見ていただきたい演目です(笑)

 あ、紫織さんには『ガラスの仮面』内なら聖さんの生きざまを学んでもらうってことでもいいかもしれない。

 彼ほど禁欲的に献身愛を捧げてる人はいないんじゃないかと。

 聖さんは速水さんのこと好きだと思うんですが、もうこれは一方的に与えるのみ、の愛ですね。なにか受け取っても、即座に倍返ししちゃうんじゃないかっていうくらいの深い愛。謙虚にもほどがあるだろうっていうくらいに、相手を縛らない愛情。

 一応お仕事で仕えてるってことになってますけど、その形態は聖さんにとってとても都合のいい、居心地のいいものだろうなあと思います。「仕事ですから」の一言で、自分の愛情が顕になることを避けられる。涼しい顔で堂々と、惜しみない愛を注ぐことができる。

 聖さんはマヤにも好意を抱いているようですが、それは「速水さんが愛した少女だから」というのが根底にあるのではないでしょうか。

 あなたが好きな人だから。
 私もその人が好きなのです、っていう。

 嫉妬という感情を飛び越えて。
 速水さんの愛するものを皆、聖さんは愛してしまうんじゃないかと、思ってしまう。

 速水さんが聖さんの愛情に気付く日は来ないだろうけど、聖さんはそれでもちっとも構わないんだろうなあ。

 以上、愛の形についてあれこれと考え、書いてみました。

『ガラスの仮面』婚約破棄問題を語る

 『ガラスの仮面』美内すずえ 著の、速水さんと紫織さん婚約破棄問題について語りたいと思います。

 私はこの件について、速水さんを悪いとは思っていないんです。
 むしろ、責める意見が多いことに対して、対して、えええ??と驚いてしまう。(これは、以前にもブログに書きました)
 そういうのを見ると、自分の考え方が、一般的には少数派なのかな~と思いますが、でもどう考えても、どの方向から眺めても、私には速水さんが「悪い」とは思えないんです。

 当然ですが、もし私が紫織さんの立場であったとしたら、婚約破棄の申し出は受け入れますよ。そして、自分も謝ると思います。

 いくら速水さんを好きなあまり・・・とはいえ、マヤを泥棒に仕立て上げたり、人の大事な宝物を勝手に壊したことは、「ごめんね。へへへ」と、舌を出して許されることとは思いませんし。

 むしろ、冷静になって考えてみれば、紫織さんの行為のほうがよほど、ひどいものだと思うのです。
 普通しますか? 自分の想いを通すために、人を陥れるような真似なんて?
 百歩譲って、もう好きすぎて頭が混乱してしまってついやってしまったことだったとしても、時間を置いて冷静になったとき。そして、その行為が愛する人にすべてばれたとき、それでも、ヤダヤダだなんて、駄々っ子が道の真ん中で大暴れするようなこと、普通の神経を持った人ならできないような気がするんですが・・・。

 そもそも、愛情がないとはっきり確信できた相手と、結婚しようとするのは不幸です。それだけは言えます。
 他に大好きな人がいるのに、心を押し殺して紫織さんと結婚すれば、速水さんも不幸ですが、紫織さんだって不幸です。誰一人、幸せな人なんていません。

 私が紫織さんを理解できないのは、速水さんに対する執着心ですね~。愛されてないとわかっているのに、どうしてそこまで好きになれるんだろう。

 ものすごく大好きになった人がいて、朝も夜もその人のことばかり考えていて、という気持ちは私も経験ありますけど、それは結局その人が、「私を好きになってくれるかもしれない」という可能性があるから、なんですよね。
 もしはっきりと、「君のことは好きではない」だとか、「他に好きな人がいる」とわかったら、その途端、気持ちは冷めてしまうだろうなあ。
 あれ・・・思ってた人とは違うかもしれない・・・って。
 なぜなら、運命の恋人同士なら、必ず惹かれあうものだからです(笑)
 お互いに惹かれあわないのなら、一方的でしかないのなら、そこにはなにか勘違いがある、と思います。
 勝手な思い込みや理想化、そうしたもので作りあげた虚像相手に恋をしていた・・・ということですね。

 作中で使われる魂のかたわれ、という言葉は陳腐かもしれないですが。でも、そういう関係は、両思いであるはずなんですよね。その人を好きではないとか、その人を受けとめられない、というのなら。それは魂のかたわれ的な関係ではないわけで。
 勘違い、ですよ。

 そして、相手が嫌がってるのに「好きになれ」と無理強いする行為は本当に醜いもので、最低だと思います。

 紫織さんだって、気持ちが全く動かない相手と強制的に結婚せざるをえないことになれば、不快でしょうに。そういうこと、少し想像してみただけでわからないのかなあ。

 気持ちは、自由なものだと思います。
 誰を好きになろうと、それを強制されるいわれはないわけです。
 そして、気持ちは動いていくものだとも思います。
 つきあったからとか、婚約したから、結婚したからというだけで一生を縛るようなものではなく。

 一緒になった上で噛み合わないことが多すぎるのなら、無理に添い遂げるのではなく、別れるのだって道の一つ。誰に恥じることもない、選択の一つだと思うんですよね。

 もちろん、責任においては、恋人関係<婚約者<夫婦 の順で、重くなっていくとは思いますけれども。そして、子供がいるのならなおさら、修復の道を探る努力はして当然だと、思いますけれども。

 ああ、話が広がりすぎた。
 速水さんはまだ、結婚していない(^^;
 まだ婚約の段階です。それで、婚約破棄というのは確かに、特に女性側にダメージが大きいというのはわかりますが。そのまま結婚すればもっと大きな不幸を招く、と思うのです。

 婚約破棄するのと、離婚するの。どちらが大変かといったら、それはもう断然、離婚する方だと思うから。

 ここまで来てしまった以上、引き返せないとか、そういう意地みたいなもので婚約を続行するのは、愚かなことですよね。
 恥をかく・・・とか、そういうのはあまり考えなくてもいいかと。
 速水さんと紫織さんが婚約破棄をすればマスコミは面白おかしく騒ぐかもしれませんけど、そこは速水さんが「全面的に自分の落ち度」ということで押し通してくれると思いますし。

 なんかね、もう紫織さんが婚約破棄を拒む理由が、私には本当に理解できないです。
 好き・・・っていうのが一番の理由なのかなあ。雑誌を読んでいる限りだと。

 でも、そういう相手の気持ちを踏みにじるような一方的な好意って、ある種の凶器ではありませんか。

 もうね、速水さん、首筋にナイフ突き付けられてるイメージありますもん(笑) あたしを選ばなきゃ、どうなるかわかってんだろーな的、脅迫の図。

 これどこかで見たことある図だわーと思ったら、あれですよ。『オペラ座の怪人』。
 ファントムが殺すと脅した相手は、愛しいクリスティーヌではなく恋敵ラウルでしたけどね。

 ああ、それ考えると、紫織さんよりファントムの方が純情なのかもしれない。あんな究極の場面でさえ、ファントムはクリスティーヌが好きすぎて、憎しみを直接クリスティーヌに向けること、できなかったから。悪いのは全部ラウルに違いない、的なファントムの妄想の中で、どこまでも穢れのないクリスティーヌ。

 そう考えると、紫織さんは速水さんが好きというより、速水さんを好きな自分が好き、なのかな。
 そうでなければ、あの場で(大騒ぎになることを当然承知の上での)自殺未遂はないな~と。あの自殺未遂で、誰が一番傷付くかといえば、一番ダメージの大きいのは、速水さんですから。
 そりゃーもう、四方八方から責められるのが目に見えてますよ。
 四面楚歌。
 紫織さんは完全な被害者で、速水真澄は完全な加害者。もう言い訳もできないくらい、追い込まれてしまうでしょう。
 被害者側家族が紫織さんの意志を尊重して婚約の続行を望めば、速水さんはそれを無下に拒めなくなる。
 被害者という、無敵の印籠を手に入れた鷹宮家の前に、速水さんは屈服するしかない。

 速水さん・・・紫織さんがあんなところで自殺するなんて、これっぽっちも考えていなかったと思うんです。
 なぜかというと、速水さんは自分が紫織さんの立場なら、そんなこと全く、考えもつかないだろうから。

 人間は、自分がそうするであろう可能性については考えが及びますけれども、まったく自分の行動範囲の中にない思考については、弱いんじゃないんですかね。

 それを考えると、私は紫織さんに腹立たしさを感じてしまう。甘えて育ってきたからこその、自殺未遂のような気がして。
 速水さんだったら。この程度のことで自殺してたら、今まで何百回死んでるんだ、という話ですよ。
 それはもう耐性など、人によって違うというのはわかりますけれども。それでも、紫織さんの想像をはるかに超える険しい道を歩んできた速水さんが、この紫織さんの突発的な自殺を予想できなかったということが、両者の決定的な違いをまさに、象徴する出来事だったような気がします。

 速水さんにしてみれば、「まさか」の「まさか」。
 だって、そんなこと自分の中ではありえない選択ですもん。
 そして、もしも北島マヤが紫織さんの立場であっても、自殺は絶対しなかっただろうなあ。

 それだけをとってみても、やはり紫織さんと速水さんは合わない(^^;

 紫織さんがどうすればよかったか・・・。
 うーん。どうしても精神が不安定なら、ばあやに連絡をとって病院に直行して薬の処方をしてもらうもよし、カウンセリングにかかるもよし。
 それから、南の島へ飛んでしばらくのんびりするとか。
 あるいは、好きな蘭の栽培を勉強しに、海外に留学するとか。

 人の噂も七十五日と申します。
 ほとぼりが冷めた頃日本に帰ってくれば、テレビや雑誌で、婚約破棄を取り上げる時期も終わっているだろうし、いいと思うんですけどね。

 それに速水さん有能ですから。
 自分を悪者にして、紫織さんを傷つけないようにマスコミを情報操作することは、かなり気を遣ってやってくれると思うんです。
 その後の紫織さんの経歴に、傷がつくようなことはないでしょう。

 だから、紫織さんは自分の気持ちに折り合いをつけることだけ、考えていればいいわけです。それだけに専念できるのになあ。どれだけ恵まれているんだ。これで贅沢言ったら罰が当たるわ、と思います。

 速水さんは、紫織さんを騙そうと思って、甘い言葉を囁いたわけじゃありません。本気で結婚しようと思ってた。よき夫になろうと努力した。でも駄目だった、ということですよね。
 そして、二人は深い関係になっていたわけでもないのだし、(仮にそういう関係があった上で婚約破棄なら、それはもう今以上に、紫織さんの心は傷付いただろうと想像しますが)後は粛々と、婚約破棄の手続きを進めればいいのに、と、読者としては思ってしまうわけです。

 ただ、この後の展開では、まだ一波乱、二波乱あるでしょうね。というか、私は速水さんとマヤ、結ばれないだろうなあと予測してます。いわゆる、結婚という形で結ばれることはないかと。

 そしてそのことが、マヤに「紅天女の恋」を体感させることになるのではないでしょうか。

>死ねば・・・恋が終わるとは思わぬ・・・

 結局のところ、現実世界でこの台詞を呟くことになるのは、果たして誰なのか。この後の展開が気になります。