『ガラスの仮面』世界における速水さんとマヤを語る その1

『別冊花とゆめ』3月号を読んでから、私の中でガラスの仮面熱が高まっております(^^)

ということで、思いきって文庫本の1巻から23巻まで、読み直してみました。

以下、感想を書いておりますがネタバレも含んでおりますので、未読の方はご注意ください。

3月号の速水さんが素敵だったから、という理由で読み直したのですけれど。

新たな発見が2つありました。

1つは、「実はマヤが速水さんを好きな気持ちより、速水さんがマヤを愛する気持ちの方が大きいのではないか」ということ。2つ目は、「あれほど魂のかたわれを論じる月影先生だが、実は一蓮に対しては片思いなのでは?」という疑問です。今日は主に、1つ目の発見を中心に語ろうと思います。

最初の巻から読み直すと、結構早い段階で、速水さんはマヤに惚れちゃってるんですね。

まるで重力に引かれる物体みたいに自然な感じで。

この漫画の中で多用される言葉、「魂のかたわれ」がぴったりくる感じです。

もうどうしようもなく、マヤに惹きつけられ、紫のバラの人として陰になり日向になり、彼女を励まし支えていく。そのためなら、彼女に憎まれることも厭いません。

マヤが元気に、演劇の道を邁進していくこと。

それが速水さんの、一番の願い。

その願いの端っこの、ほんの少しの部分に「愛されたい」とか、「一緒にいたい」なんていう気持ちがあるような気がしました。

もちろん彼は、それを当然だなんて思っていないわけです。

自分には過ぎた願いだけれど、絶対無理だけど、でもでも。

もしもこの願いが叶えられたらいいなー、なんていう、儚い望み。

願うそばから、自分で「そりゃー無理だよね。ええ、ええ、わかっておりますとも」なんて、うんうんとうなずいているイメージがあります。

自分はマヤの横になど立てない。

母親の死のこと、紅天女の上演権のことなどで、マヤには忌み嫌われている。

一生好きなんて言ってもらえない。

紫のバラの人としての、正体を明かすこともできない。

憧れ続けた紫のバラの人が憎み続けた速水真澄だと知れば、紫のバラの人を心の支えにしていたマヤが傷つくから。

ずっとマヤを見守っていて。

マヤが成長するのを、まぶしくみつめていて。

そんな資格なんてないことを知りつつ、マヤに近付く桜小路君や里見茂に嫉妬して。

マヤが里見茂と初恋宣言したときだったかな?

速水さん、持ってたグラスを握りしめて割っちゃってたような。

嫉妬するにも程があります(^^;

里見茂は、マヤとお似合いだと思いました。

年も近いし、なによりマヤの心が動いてる。桜小路君に対しては友達以上の感情を持てないマヤが、ごく自然に恋した相手。それが里見茂。

もしも本当にマヤの運命の相手が速水さんなら、マヤはあんなふうに里見茂を好きになっただろうか?と疑問に思ってしまいました。

魂のかたわれって、もっと強力なものじゃないのかなあ。

相手の立場もなにもかも関係なく、ただその魂に恋焦がれるというのなら。

紫のバラの人が実は速水さんだった、という衝撃から、マヤの恋心は一気に描かれていますが。

(そりゃ多少は、それ以前にも、実はいい人なんじゃ?的な、好意を予感させる描写もありましたけど)

あくまで、マヤがはっきりと速水さんへの恋心を自覚したのは紫のバラの人の正体を知ったとき以降で。

バラうんぬん関係なく、よくわからないけど不可抗力な超ミラクルパワーで速水さんに惹かれていく、というのがなかったような気がするんですよね。

本当に運命の人なら、バラ関係なかったと思う。

マヤ自身が不思議になるくらい、「あんなゲジゲジの、冷血漢の、大っ嫌いな速水さんなのに、一緒にいると胸がザワザワ、どうしようもなく苦しくなる」っていう展開があったと思うんですよね。

いや、実際ちょっとはそういう場面もあったと思うけど、もっともっと強烈に、どうしようもなく感情が突っ走るような究極の暴走場面、あったと思うんですよね、それが魂の半身なら。

ハッ!! これはもしかして自分、速水さんを好きになっちゃったんじゃなかろうか、とマヤが気付かずにはおられないような、決定的な感情の動き。

自分の置かれた立場とか状況とか、普通に見れば好きになることなどない相手なのに。

感情が意志とは関係なく動きだして、「好きだ、好きだ」って叫び始めてしまうという、そんな心が引き裂かれるような痛みの場面、紫のバラの人の正体がばれる前には、なかったような。

マヤにとって、紫のバラの人ってものすごく大きかったわけですよね。

一番最初についたファンで、困ったときにはいつも助けてくれて。

マヤの演劇に、お世辞でない興味を抱き、毎回かかさず見てくれる。感想をくれる。

マヤが抱いた紫のバラの人に対する期待、憧れ。そういうものが全部、速水真澄という人物にスライドした。

だからこそ、正体バレの後、マヤちゃんは「速水さんが大好き」状態になっているわけです。

じゃあ逆に紫のバラの人がいなかったら、マヤちゃんはそこまで、速水さんを好きにはなっていなかっただろうと、そういうことにもなりますね。

読み返してみて、すごく感じたのです。温度差。

速水さんが、マヤに出会ってどんどん惹かれていく過程。

すごくリアルで、共感できた。

ああ、私が速水さんだったら、やっぱりマヤを好きになっていただろうなあっていう。

速水さんにとってマヤは、救いの女神だったと思うんです。

冷血漢、と人からは呼ばれ。心のすべてを凍りつかせたような人でしたが。

その状況がつらくなかったといえば、それは違うだろうなあって。

つらさは絶対、あったと思うなあ。

苦しいんだけど、でも出口は見えない。

なにをすれば救われるのか、わからない。

彼が唯一、救われると信じていたものは「紅天女の上演権」。

それを手に入れ、自分の力で、自分の思い通りに紅天女を上演すること。

義父の目前でそれをやり遂げること。

そしたらこの苦しさから逃れられる、と彼は思っていた。

自分が諦めたいろんなものも、そのときならば、復活するのでは? なんてね。

でも、実際に速水さんが紅天女を手に入れても、きっと彼が思っていたようには、事態は変わらなかったと思う。

そのときこそ、彼はどうしようもない絶望にとらわれたのではないかと。

もう他に、打つ手がないから。

きっと、マヤは速水さんがいなくても生きていけると思う。

誰かと普通に恋をして、結婚して。

里見茂と、いい関係を築けたように。他の誰かとだって、縁があれば心を通わすことができる。

そして、大好きな演劇を続けていれば、それで幸せ。

もし速水さんと添い遂げられなくても、それはそれで、いつか懐かしい思い出になるような。

でも速水さんは。

マヤと一緒になれなかったら、その後の人生は、生きながら死ぬようなものではないかと思いました。

マヤと出会うまで、誰にも心を動かされなかった人ですからね・・・。

マヤでなければダメなんです。

マヤでなくていいのなら、とっくに他の誰かと、それなりに楽しい時間を過ごしていたと思います。

出会ったときから、右肩上がりで着実にマヤを好きになっていった速水さんですが。

昔は、ためらうマヤを平気で、お姫様だっこしてボートに乗せちゃうような余裕もあったんですねえ。

なのに、社務所で一夜を明かす頃にはマヤが大事過ぎて、抱きしめることしかできない。

それ以上には、踏み込めないってことで。

社務所といえば、速水さんの理性はすごいです。

大好きなマヤを、一晩じゅう抱きしめていたあの体勢。

眠れなかったでしょう(^^;

マヤは、いくら疲れているとしてもあっさり寝ちゃってました。

うーん。そこで寝るかなあ。

大好きな人と、ハプニングで抱き合って眠ることになったら、ドキドキしすぎて眠るどころじゃないと思うんですが。

やっぱり互いを思う気持ちの強さは、速水>マヤ なのかなあと、あらためて実感するシーンでした。

>おれはきみを嫌いだと思ったことは一度もない

ああ、このセリフって。

速水さんにしてみたら、精一杯の告白だったんだなあと。

好きだなんて言えない。

じゃあ、こう言うしかないじゃないですか。「嫌いじゃない」って。

嫌いじゃない=大好きだー!! ですよね、この場合。

どんな気持ちで、マヤに告げたのかと思うと、せつないものがあります。

いつもどんなときだって、速水さんはマヤを見ていた。ずっと愛情を注いでた。

でも本当のことなんて言えないから。

言えばマヤを戸惑わせるだけ。傷つけるだけ。

お互いに言い訳できる状況で、身を寄せ合って一晩を過ごしたことは。

言い訳ができるだけに、互いの愛情を確かめる証にはなりませんでしたね。

寒くて凍えていたから、寄り添っただけ、という・・・。

そう言い訳できることを嬉しく思いながら、でもその言い訳に呪縛された二人であったと、思います。

相手の好意を確信できる、そういう事実にはならなかったから。

朝日の中で。

マヤの寝顔はどんなに眩しく、速水さんの目に映ったことでしょう。

長くなったので、続きはまた後日。

速水さんについて、思うこと

 ガラスの仮面、別冊花とゆめの3月号を読んでから、しばらく熱にうかされたように、いろいろな二次創作物パロディを読み漁っていました。

 二次創作の数、すごいですねえ。

 あらゆるところで、本編に刺激されたパラレルワールドが展開している。

 中でも、私が特に気に入った一作がありまして。

 不思議なんだけど、その作者さんの他の作品にはそれほど、心ひかれず。いや、正直に言えばたしかに、他の作者さんに比べれば、私好みの作品をたくさん書いていらっしゃるのですが。

 それでもその、私の心をとらえた一作だけは、本当に傑出してました。

 大好きです、この話。

 著作権があるので、載せられないのが残念。

 自分だったらこういうパロディ作品を書きたいなあと、ぼんやりしたイメージがあったところに、まさにそのまんまを描かれていたので驚愕しました。自分のイメージでは描ききれなかった細部まで、丁寧に。しかも予想外のサプライズも有り、盛りだくさんでつくられている。素敵な作品でした。

 その作品の中で速水さんは、やはりマヤの前では臆病で。

 でも追いつめられた状況の中でようやく、動きます。

 そして、もう全力で、これ以上できないってところまで力をふりしぼって、マヤの行く末のために尽力するのです。

 速水さんはやはり。

 優柔不断とそしられるほどに慎重で、怖がりで、でもそれって無理はないなあと、あらためて思いました。

 そりゃ私も、今まで速水さんの奥手っぷりにはこのブログで苦言を呈したりしてきましたけども。

 じゃああなた。あなたがもし速水さんだったら、どうよ。 

 ちゃんとマヤちゃんに告白できますか?と問われたら、自信を持って「NO」と言えますね。

 言えるはずもない。

 絶対気持ちは封印します。

 どんなに気持ちが昂ぶっても、全力を挙げてそれを阻止します。

 

 なぜって、うまくいかなかったときに受ける打撃が、大きすぎるから。

 まず、精神的な打撃ね。

 これは、マヤちゃんが好きな気持ちが大きいほど、その本人から拒絶されたらもう、これは決定的に傷つく。ボロボロになると思う。

 誰になにを言われようと速水さんは平気な人だと思うけど、マヤだけは特別。なんというか、心を開いてる感じがするのね。

 それで、その開いた口からナイフを突っ込まれたら、そりゃもう、大怪我しますよね。内面は、とてもやわらかいと思う。だからマヤに対しては他の人以上に、虚勢をはらなければいけないし、防御する必要がある。

 ナイフでなくても、それが爪でも。先のとがってない棒であっても。

 たぶん、速水さんの心にはなにも、緩衝材なんてなく、まっさらな状態だと思うから。臆病になるのも仕方ない。

 それと、社会的な打撃。

 まあ、いちおうそれなりの企業の社長なので(^^;

 女優に真剣に恋をしてあげく振られたとなると、体面が悪いかなと。

 ああ、でもこれは、精神的なものと比べれば、軽い要素かもしれませんが。

 ただ、速水さんも自分の立場にはそれなりの責任を負っていると思うので、その意味では。マヤに対して慎重になる、自分の立場を慮って、というのはあると思います。マヤのいる世界とまったく関係のない学生とか、会社員だったら持つ必要のない一線を、速水さんは社長ゆえに、もっているのでしょう。

 それでもって、冷静に状況を分析してみたら、普通に考えたらマヤに嫌われてると考えても無理はないというか。それは妥当な判断ですよねーっていう。

 マヤの母親の死。

 私は速水さんにそれほど責任があることとは思っていませんが、それでもまったく責任がないかといえばそんなことはないわけで。

 マヤが母親の死を悲しむあまり、誰かを憎むことで楽になろうと望むなら、その相手は速水さんしかいない。

 そして実際マヤは速水さんをなじり、怒り、罵ってきた。これは現実にあったことです。

 そんな相手に、誰が正気で愛の告白などできるでしょうか。

 しかも、マヤが速水さんに惚れる要素って、あんまり見当たらない・・・。

 容姿端麗っていうのは、人それぞれの好みですしね。

 たしかに速水さんはかっこいい設定。

 でももし速水さんが、マヤが一目ぼれしてしまうほど好みにピッタリだったら、出会ってすぐに惹かれていたでしょうが。最初の頃はマヤが興味を示すような様子などなかったし。

 いくらかっこいい、と世間的に言われる容姿であっても、マヤの好みじゃなかったら、意味ありませんしね。

 そして社長であるという立場とか、経済力。

 マヤには、まーったく興味のない分野でしょうね。よってパス。

 頭脳明晰。

 これは・・・マヤは尊敬はするでしょうけど、だからって恋愛には結びつかなそう。

 結論。

 マヤは、速水さんには惚れないでしょう、第三者的立場から、冷静に観察すれば。

 ただ唯一、これは好きになってしまう要素かも、というのがあります。

 それは、速水さんが紫のバラの人だった、という事実です。

 マヤが、「速水さん=紫のバラの人=大好きな人」として告白をしたら。

 あーこれは。

 この要素だけは、速水さんも納得する部分かもしれませんが。

 「あの子がオレを好きかもしれない」っていう確信を持つための、唯一、本物っぽい理由かもしれませんが。でもこの要素は、あまりにも脆い。

 憧れ、ですもん。

 憧れなんて、あまりにも脆くて、それに頼るのは危険すぎる。

 十代の女子、それもあまり恵まれず、様々な困難の中、天涯孤独のようにして生きてきたその、心の支えだった存在。

 そりゃあね、あしながおじさんを好きになるのも無理はない。

 淡い恋愛感情のようなものが、生まれるでしょう。

 でも果たしてそれって、長く続くのか?と問われれば、私は続かないと思う。

 憧れは、夢みたいなもの。いつか、覚める。

 いつか身近に、マヤと同年代の、マヤにお似合いの男性が現れたら。

 遠くから間接的にマヤを支える紫のバラの人としての存在でなく、実際にマヤの横に立ち、その手をとり、同じ時間を共有するリアルな人間が現れたら、その人の方がずっと強い。

 もしも自分が紫のバラの人として愛されたなら、その愛ははかないもの。いつか、砂でつくったお城のように、時が来ればさらさらと崩れ落ちてしまう。

 そのことを、考えない速水さんではないと、私は思うのです。

 私がもし速水さんだったら。

 もしマヤが紫のバラの人の正体を知り、目の前で告白してくれても、それを心底は喜べないかもしれない。紫のバラの人を通しての愛情だと、そう思うから。

 速水真澄個人への愛情ではないと、それを冷静に分析しちゃうからなあ。

 

 なんか、どっちにしろ救いのない話ですね。

 マヤに好きだと言われなければ、一生片思いで。

 たとえ好きだと言われても、「それって紫のバラの人が好きなだけだし・・・いつか君も、現実の、君にふさわしい人を好きになってしまう・・・」って思うわけで。

 どっちにしろ幸せな気分にはなれないっていう(^^;

 あ。ちなみに3月号では、マヤははっきりとした告白はしていませんよね。

 あれってあくまでも演技だと、速水さんは解釈してると思います。

 紅天女を演じて、その姿に速水さんは魅了されて、自分の想いを抑えられなくなってしまったけれど。

 あれは、マヤに告白されたとは思っていないと思います。

 「少なくとも、前のように毛嫌いされてはいないようだ」という思いはあるようですが。だからこそ勇気をふりしぼって、別荘へ誘ったわけです。

>「今度遊びにくるか?」

 渾身の力を振り絞って口にした一言。

 この後の、「うわー、オレついに言っちゃった・・・」の照れ顔がツボでした(^^)

 それと、3月号の時点では。

 マヤに紫のバラの人の正体がばれていると、速水さんは気付いていません。

 そして、以前からマヤが紫のバラの人に憧れを抱いているのは知っているので、たぶんあの、背広を抱きしめた演技も、心のどこかでは「紫のバラの人を思って抱きしめた?」と思っているんではないでしょうか。

 もし紫のバラの人が速水さんでなかったら、嫉妬の炎がメラメラ燃え上がってたと思いますが、紫のバラの人=自分、なので、速水さん、軽い陶酔感があったんじゃないかと。

 あの子が心をこめて演じているその先に居る幻影は、たとえ幻影であっても紫のバラの人=自分、なのだと。

 船上で、速水さんは「阿古夜を演ってくれないか?」としか言っていない。マヤが一真を誰に重ねて演じているのかは、速水さんの立場からしたら、謎ですからね。(読者には丸わかりですが)

 恋愛って、不思議なものだと思います。

 条件じゃないから。

 好きになる要素がなくても、なぜか心が動いてしまう、惹かれてしまう、自由意志を越えた部分で。

 マヤは速水さんを好きになり、速水さんはマヤを好きになった。

 だからこそお互いの思いを信じられない。

 あの子が、(あの人が)、オレ(私を)好きになるはずなどないと。

 その人のなにが、そこまで自分の心を震わせるのか。

 どうして他の人では、駄目なのか。

 なぜ好きになったの?と問われても、明確な答えなんて出ないでしょう。

 速水さんもマヤも、同じ言葉しか言えないと思います。

 「なぜかはわからない。でも、マヤ(速水さん)でなくては駄目なのです」と。

 よーく考えると。

 速水さんに、もっと勇気を出してドーンと告白しろ、マヤをリードしろって言うの、酷な気がしてきました。

 自分だったら、とても言えない。失うものが多すぎる。 

 マヤに拒絶されたら、どうしたらいいかわからない。

 いろんなものが音をたてて崩れ落ちて、そのことに耐えられる自信がない。

 むしろ、マヤこそ、積極的になるべきなのかも。

 身軽ですもん。

 なんにも背負ってないというのは、言い過ぎかな。

 たとえば。速水さんが本当はすっごく傲慢な人で。マヤのことなんてちっとも思ってない、それこそ、ただのチビちゃん、商品としての女優を慈しんでいる人だとしたら。

 マヤの一世一代の告白を、かるーく笑い飛ばす可能性もあるわけですよ。

 「なんだチビちゃん、どういう風のふきまわしだ。

 オレに婚約者がいるのを知っての戯れか。これは大スキャンダルだな。

 まあいい。生憎きみの気持ちには答えられないが、きみがオレを憎んでいないと知ってうれしいよ」

 たとえばですね。上記のようなことを言われて、マヤがこっぴどくフラれたとしても。間違っても速水さんは、このことを周囲に口外はしないと思うんですよね。そこはやはり、芸能事務所の社長。女優のイメージを損なうかもしれないような暴露話は、慎むでしょう。

 そしてマヤも。失恋の傷はすぐに癒えると思うし、きっといつかまた、別の人を好きになれると思うのです。

 対して。もしマヤが速水さんにこれっぽっちも気持ちがない状況で愛を告げられたら。 告白されても迷惑で。それどころか、もし憎んでいる相手にそれを言われたら、周りにそれを言ってしまうかもしれない。

 若い女性の立場としたらね。あまり深く考えずに、気楽な気持ちで友達に話してしまう危険性があるわけで。

 「ごめんなさい。今までよくしていただいたことには感謝してますが、私には全くそんな気持ちはありません。私が阿古夜を演じたから、ですか? あれは全部、演技です。あなたが見たいといったから、お稽古を再現しただけなのに」

 「速水さん、私に告白してきたんだよ、びっくりしちゃった・・・」

 うわー。これは、速水さんうっかり動けないですね。

 マヤちゃんにこんなこと言われたあげく、周囲に噂が広まってしまったら。

 まずい、まずすぎます。個人的にも、社会的にも、厳しい。

 よっぽど、愛されているという自信がなければ。

 速水さんから告白、というのは無理ですね。伊豆の別荘で、マヤの魅力に負けて、理性が崩壊しちゃったら別ですけど。そうしたら、勢いでなんとかなるかもしれないけど。

 速水さんが動けないでいることを責めるのは、酷な気がするこの頃です。

別冊花とゆめ3月号『ガラスの仮面』美内すずえ 著 感想その2

 前回の続きです。

 別冊花とゆめ3月号『ガラスの仮面』美内すずえ 著の感想を書いています。ネタバレしていますので、未読の方はご注意ください。

 それにしても、豪華客船の甲板で見る朝日って、乗客ならみんな楽しみにしてると思うんですが。

 そんな中、抱き合ってるカップルって、迷惑すぎる(^^;

 マヤと真澄のカップルなので(しかも漫画だし)許せますけど、これ現実にあったら嫌だろうなあ。

>もうしばらく

>このままでいさせてくれ・・・

>たのむ・・・!

 このシーン、ちょっとホロリとしました。

 速水さん、今までこんなに真摯に、人に頼みごととかしたことあったのかなあ。

 あ、もちろん、秘書の水城さんにコーヒー頼んだりとかは別として(^^;

 本当にこれが欲しい、こうしたいって思って、それを頼んだこと、なかったんじゃないかなあと思うのです。それは子供の頃に、かなわないことを知ってしまったから。

 願って、がっかりすることを恐れるあまりに。

 誰かに何かを頼むことを、しないまま年を重ねたような。

 でもマヤと出会って、感情があふれだして。抱きしめたまま、初めて無防備に「このままでいさせてくれ」と弱さを見せた。マヤが拒まなくてよかったー。拒絶されたら、相当な傷になったと思います。

 そして、この号のクライマックス。

 それは、速水さんが伊豆の別荘にマヤを誘う場面です。

 誰の心にもある、特別な場所。

 そこへ行けば素直になれる、大切な場所。

 自分と昔からの部下(おそらく聖さん)以外は、誰も足を踏み入れたことのない秘密の場所。

 そんなところに「今度遊びにくるか?」だなんて、大胆な誘いですね。それだけマヤは、速水さんにとって大切な人なんだなあ。

 そして、言っちゃった後で冷や汗かいてる速水さんの表情が、なんともいえません。

 

 でも、本当に面白いというか興味深いのは、前回も書いたのですが、速水さんとマヤの心のすれ違いなんです。二人ともすごく可愛らしい。

>いいのか? おれひとりだぞ

>あたしもひとりで行きます

>いいのか・・・? 本当に・・・?

>はい・・・! 迷惑でなければ・・・

 マヤは、速水さんの気持ち、全然わかってないと思う。だからこそ、頬を染めながら慎重にお互いの真意を探りあう二人の初々しさが、強調されるのです。

 これ、たぶん速水さん的には、「パーティとかじゃないよ。ばあやがいて食事を用意してくれるとか、夏の林間学校とかでもないよ。そういう楽しいなにかを予想してるんだったらそれは違う。別荘には、君にとってなにか楽しい話題を提供してやれるわけでもない、つまらない俺がいるだけだよ。それでも君は、俺しかいないその別荘に来てくれるというの?」

 これくらいの気持ちだと思うんですよね。

 そしてもう一つ。

 マヤも二十歳を越えているので、大人な意味での覚悟はあるの?という気持ちも、少しあるのかなと。

 それに全く気付かない年齢というわけでもないので。

 

 だからこそ、本当に好きで、来てくれるの?という。

 そういう欲望さえ、「いいのか・・・?」という速水さんの表情をみると、そこにいるのは中学生くらいのまあくんにしか見えず。その欲望すら清いと感じてしまうんですよねえ。

 しかーし。

 マヤ、全くその意味に気付いてないと思う(^^;

 マヤは、単純に速水さんが別荘に招待してくれたのが、嬉しかったんじゃないでしょうかね。その別荘が、速水さんにとって大切なものだ、ということはわかってる。だからこそ、そんな特別の場所に招待してくれる気持ちは、間違いなく嬉しかったことでしょう。

 でも、それがイコール、速水さんの気持ちに気付いた、ということにはならないと思うんですよね。

 マヤの気持ちはこんな感じではないでしょうか。

 よかった、速水さん、私に心を開いてくれている。きっと、阿古夜の演技を喜んでくれたからだ。速水さんの大切な場所に、私も行ける。同じ景色を共有できる。

 どうしてだろう。今日の速水さんは不思議だ。とても脆くて、傷つきやすい目をしている。そしていつもよりずっと、本音で話してくれてる。

 私やっぱり速水さんが好き。たとえ速水さんが私を、商品である女優だから大事にしてくれるんだとしても、それでも構わない。私、速水さんが好き。

 たった一人で、速水さんしかいない別荘に行ってどうなるか。

 それが何を意味するのか。

 どうしてそこまで速水さんが葛藤しているのか。

 その辺、速水さんが思うほど、マヤはわかっていないと思います。

 それに気付かない速水さんが可愛い。

 そして、彼を一心に慕い続けるマヤが、可愛らしい。

 こうなると、波止場へ向かう桜小路君と紫織が、ただの邪魔者にしか見えませんね。

 桜小路君は、本来人気が出てもおかしくないキャラだと思うんですが、なんでこんなにうざったく感じてしまうのだろう(^^;

 いい人なんですけどね。

 普通に考えたら、マヤとお似合いなのは、大都芸能社長で11も年上の速水さんではなく。同年代で同じ職業の、桜小路君なわけで。

 マヤと速水さんの心のつながりなんて、目に見えるものではなくて。だから、それがわからない桜小路君が、マヤに近付くのは別に、二人に対して失礼でもなんでもない行為なんですけど。それでも。

 読者は感じてしまうのではないでしょうか。

 

 桜小路、空気読んでくれ、と。無理とは知りつつ。

 そして紫織さん。シオリー。

 あーもう、この人は逆に、絶対空気読んじゃうだろうね。

 下船のとき、誰より早く二人を見つけて、たとえ速水さんがどんな言葉を口にしたとしても。

 速水さんに浮かぶ表情、マヤが見せる表情。

 それこそ、勘がさえまくって、二人の心の交流を察知してしまうと思います。今以上に。嫉妬に狂ってしまうのでしょうか。

 欲しいものを、なんでも手に入れてきたであろう女王様。だからこそ、その初めての「宝物」に執着するのでしょう。

 自分は手に入れられない。でも、それを誰かが手にする、と思うから余計に。

 桜小路君は、すべてがわかれば身を引いてくれると思うのですが。シオリーはどこまでもかたくなになって、速水さんを追いかけそう。

 

 さて、4月号はどうなるのでしょうか。

 私はあまり雑誌は買わないのですが、このところガラスの仮面を読むためだけに、別冊花とゆめを買っています。続きが気になります。

別冊花とゆめ3月号『ガラスの仮面』美内すずえ 著 感想その1

 別冊花とゆめ3月号『ガラスの仮面』美内すずえ著を読みました。以下感想を書いていますが、ネタバレしていますので未読の方はご注意ください。

 感想、一言で表せば、うわーーーー!!! ですよ。

 心の中で、キャーキャー言いながら読み終えました。

 なぜなら、なぜなら、速水さんが可愛いすぎるから(笑)

 少年の日の、無防備な素顔をさらした速水さんがこんなにも可愛いなんて、読みながら自分の顔が赤くなるのを感じました。

 いいなあ、速水さん。ほんと、可愛い。

 30過ぎの、芸能プロの敏腕社長とは思えない不器用さ。だけどそれが、決して不快ではないのです。

 最近、ヒキタクニオ著 『ベリィ・タルト』や、新堂冬樹 著『女優仕掛人』を読んだばかりなので、よけいに・・・。

 特に『女優仕掛人』の方は、最初から描写がエグくて、読み終えると気分がどんより、でした。

 

 芸能界って、照明がキラキラ当たってとても華やかに見えるけれど、その分、光がもたらす影も深いというか。

 きれいに見える仕事ほど、裏にまわれば汚いものなんですよね。

 白鳥が、水面下で必死に足をバタバタさせているように。

 本は、誇張された部分ももちろんあるとは思うけど、それでもそこには淡々と描かれた真実があるんだろうなあと、そう感じさせるものでした。

 そんな芸能界で生きてきた芸能プロの社長なら、感情におぼれることなどないし、人の気持ちを斟酌などしないのでしょうが。速水さん。

 どうしてマヤの前では、ただの少年になってしまうんでしょう・・・って、それが恋なんでしょうね。

 冷徹で、血の通わない人物だったはずなのに、温かな血が通い始めたのはすべて、マヤに出会ったから?

 

 今月号、ほぼ、速水さんの心情だけで描かれてます。

 速水さん目線での、展開です。

 だからこそ、胸が苦しくなるような場面がいっぱい。

 暴漢に襲われた夜。朦朧とした意識の中で、速水さんは阿古夜のセリフに乗せた、マヤの愛の告白を聞きました。それが自分の夢だったのか確かめようと、船上でマヤに阿古夜を演じさせます。あの夜、自分が聞いたのと同じセリフを言わせるのですが、それをなんと2回も繰り返させます。

 ていうか、速水さん、そんなに自信がないのかと。笑ってしまうのと同時に、せつないなあって。

 マヤに憎まれてると思ってるからね。

 自分がマヤに嫌われている、という思いこみ。その呪縛は、そこまで重いものなのだなあと感じずにはいられません。

 何度確認したところで、百パーセントの確信など得られないわけです。

 自分を卑下している。

 そして、それだけ、マヤへの気持ちは真剣なんだと。

 結果、耳にした声の調子や抑揚から、あのときのことは夢ではないと知るのです。

 

>マヤがおれを・・・!?

>このおれを・・・!?

 賭けてもいいですが、このセリフの続きを言葉にするならば、「嫌ってはいなかったのか」、もしくは「看病してくれたのか」であり、決して「愛しているのか」にはならないでしょう。

 そこまで、ふみこんで考えてはいないと思います。

 マヤの愛情に対する確信は、この時点ではない。

 それ以降の対応を見てもわかるんですが、恐る恐る、マヤの様子を探っていますから。もう、痛々しいくらいに。

 愛されているという確信があれば、もっと堂々と話せていると思うので。

 演技の途中。

 マヤは速水さんがさっきまで着ていた背広の上着を、一真に見立てて抱きしめます。それを見ている、速水さんの心の声はこうです。

>おれは・・・

>そのとき どうしようもないくらい無防備な

>表情(かお)をしていたと思う・・・

 乙女な速水さん、ラブリーです(^^)

 同時に、速水さんがこんなにも子供に戻れたのは、無防備になれたのは、お母さんを亡くした少年時代から今に至るまで、この瞬間にしかなかったのだとそう思いました。

 そこに立っていたのは、速水真澄になる前の、藤村真澄。まあくんです。

 だって、誰も彼を守ってくれる人が、いなかったから。早く大人になるしか、なかった。体は子供でも、心は大人になるしかなかった。誰にも傷つけられないように、頑丈な鎧をつけて。力を身に付けるしかなかった。そうすることでしか、自分を守れなかった。

 でも好きな人ができて、その人の前では。鋼鉄の鎧もいつの間にか、消え失せてしまったのですね。愛しい気持ちが、鎧を跡形もなく溶かしてしまった。だから、呆然とマヤを見ていた。体裁を繕うこともできずに。

 そしてマヤの手が、頬に触れたとき。

 これ以上自分の気持ちを抑えることができず、マヤを抱きしめてしまいます。

>もういい・・・

>もう演らなくていい

>わかったから・・・

>もうわかったから・・・!

 一体何をだよ? と、読者なら誰もが想像をふくらませたと思いますが、私はこの続きのセリフがあるとしたら、「俺はどうしようもなく君が好きになってしまった・・・」だと思いますね。

 あの夜の真実がわかった、というよりも、自分の気持ちの深さに、自分が気付いてしまった、というか。

 コントロールできない感情があることを。感情が理性に負ける瞬間を。速水さんは知ったんだと思います。

 そして、もう全身全霊で認めざるを得ない。マヤが好きだし、その事実から目をそらすことはもう、できないんだって。

 そうでなければ、演技を中断させてマヤを抱きしめるなどという暴挙(^^;に出られるはずがありません。

 言い訳しようがない状態です。

 でも、ここで面白いのがマヤとの気持ちの対比。

 この号で、マヤは終始、きょとんとしている状況です。

 速水さんが自分に優しくしてくれる、抱きしめてくれる、それは嬉しいし照れるしドキドキしているのでしょうけれど、速水さんが抱いた恋愛感情には、ほぼ、無頓着というか気付いてないと思われます。

 マヤ的には、速水さん、私の演技に感動してくれたんだ。嬉しい。

 心中を察すれば、こんなところだと思います。

 よくやった!という賞賛のハグです。

 速水さんに褒められたんだ、という嬉しさはあっても、まさか彼がマヤへの激情に震えていることなど、知る由もないでしょう。

 この、すれ違う二人の心。描写がすごく面白いです。

 マヤは抱きしめられたものの、船上に朝日を見にきた人たちがいたため、人目を気にしてとっさに離れようとします。でも、速水さんは一層強い力でマヤを抱きしめ、こう言います。

>きみはイヤか?

>おれと噂になるのは・・・

>いいえ・・・!

>いいえ 速水さん・・・

 私、このとき二人は案外、互いの心境をわかっていないのではないかと思うのです。

 

 マヤにしてみれば、速水さんはただ単に紅天女の演技に感動して、自分を抱きしめているわけです。彼は自分自身の感情に酔っているのだろうと、そう思っています。我が道を行く、冷血鬼社長ですから(その奥底にある優しさもわかってはいますが)、人目を気にしない堂々としたところがあるんだと、そうとらえているのではないでしょうか。

 対して速水さんは、マヤの答えを。

 意地っ張りな彼女らしいと、思っているのではないかなあ。

 私、チビちゃんじゃありませんから。

 別に、速水さんと噂になったって、そんなことで動揺なんて、しませんから。

 もう大人なんですから。

 強気なマヤが、そんな気持ちで平静を装ったと、考えていたかもしれません。

 長文になりましたので、続きはまた後日・・・。

別冊花とゆめ1月号・2月号『ガラスの仮面』 美内すずえ 著

 別冊花とゆめ1月号、2月号で、『ガラスの仮面』を読みました。以下、感想を書いていますが、ネタバレしていますので未読の方はご注意ください。

 いやー、46巻の続きが気になりまして。

 ワンナイトクルーズ。

 真澄さんとマヤは2人きりで、どんな話をするんだろう。2人きりならもっと素直になって、いろんな誤解も解けるんだろうか、などなど、いろんなことを考えてしまいます。

 一応豪華客船という設定なので、1月号の表紙に描かれた真澄さまは正装しておりました。タキシード、よく似合うなあ。さすがです。この表紙に描かれた真澄さまは、真澄さまの名前にふさわしく凛々しいお姿で、間違ってもマヤの濡れ衣を、そのまま信じてしまうような迂闊なお方には見えず(^^;

 豪華客船の上。

 マヤにドレスをプレゼントして、美しく着飾った彼女とつかの間のデートを楽しむ・・・って、真澄さん、あなたどちらへ向かおうとしているんですか?

 諦めるはずじゃなかったのかなーと。

 そんなことしたら、余計、未練が残るんじゃないのかと。問い詰めたくなりますね。

 一緒にいればいるほど、好きになっちゃうだろうに。

 マスミンと一緒にいるマヤは、相変わらず全身で「あなたが好きです」ビームを発しているんですけど。マスミンは完全無視です。

 どうせ俺は憎まれているって、思ってるんだろうなあ。そろそろ、その憎まれてる設定に大きな矛盾が生じていること、敏腕社長なら気付かなきゃ。

 1月号は、マスミンとマヤがダンスして、それから星空を一緒に見ているところで終わったんですけど。私が好きなのは2月号の冒頭。

 マヤを部屋に連れて行くときの葛藤がね、いいのですよ。

 気持ちわかるなあ。

 黙りこくって、その沈黙をマヤが少し怖がる、その空気。

 いや、心配しなくても、マスミンは紳士なので大丈夫なんですけどもね。その冷静で理知的なマスミンの理性でさえも、危うくさせるくらいの情熱が、静かにマスミンの中で息づいているのかなあと思うとね。

 それくらい、好きになっちゃって。

 離れようとしてるのに、なんのめぐり合わせだか、2人きりのシチュエーション。

 マヤの手を引いて部屋へと急ぎながら、マスミンはなにを考えていたんだろう。

 部屋へ入ったマヤが、怖がったりしなければ。

 あのまま、部屋でいろいろ、2人で話したりしたのかなあと。

 スイートルームなんだし、寝室しかないわけじゃないなら、部屋を分けて寝ることも可能だったわけで。

 なにもマスミンが部屋をすべてマヤに譲り、ロビーで夜を過ごすこともなかったのになあと、一読者である私は、そんな感想を持ちました。

 紫織さんが用意したベッドに、ショックを受けて泣き出すマヤと。しなくてもいい言い訳を必死でしている真澄さまと。

 これが、惚れたもの同士でなくてどうするっていうシチュエーションですが、この2人だけは何故か、頑なに拒むんですよねえ。お互いがお互いを好きだという事実の、認識を。

 ツボは、マスミンが部屋の鍵を海に投げ捨てる場面でした。

 読んでてびっくり。

 エエーーー!!! それ、私物じゃないし。投げ捨てる必然性も全く感じなかった。部屋使わないのは使わないのでいいけど、だからって鍵を海に捨ててどうするんだと。

 マスミンにはそれだけ、厭わしかったのでしょうか。

 紫織さんが自分に向ける愛情が。

 そのねっとりと重い愛情が、マヤを泣かせたとわかっただけに余計、投げ捨てでもしなければ断ち切れないと、とっさに思ってしまったのでしょうか。

 態度で思いっきり宣言しちゃってますね。

 紫織さんのことは好きではないと。

 まあ、もろもろ考えれば無理もないですが。

 勝手にクルーズの部屋を手配したことは、マスミンの性格からして嬉しいことではなかったろうし。それにあの小切手。

 マヤに、手切れ金とばかりに小切手を渡したと知ったとき、そのやり方に吐き気がするほどの嫌悪感を、おぼえたのかもしれません。

 深窓の、なにも知らない純真なご令嬢がするような行為では、ありませんものね。

 それで、真澄さんは紫織さんとの別れを決断したのかもしれません。

 小切手破っちゃったし。

 穏便な解決、とはいかない予感がします。

 ただ、紫織さんと別れたからといって、マヤとの間が進展することはなさそうです。マスミン、一言も自分の本当の気持ちを口にしない。

 せめて船上でだけ、紅天女の演技の相手としてだけ、夢をみたいと思ったのかな。だから、紅天女の阿古夜を今ここで演じて欲しいと、マヤに頼んだのだろうか。

 3月号が待ち遠しいです。