安全地帯の『あなたに』を聴いている。若き日の玉置浩二さんの声は、深みがあって美しい。安全地帯の全盛期。
石原真理子さんとの不倫が騒がれたとき、玉置さんは全く表に出てこなくて、石原さんが記者会見で泣いていたのを覚えている。あんなに綺麗な曲を作る人なのに、冷たいな・・・と思った。
でもその頃、2人が不倫で、最高に盛り上がっていた頃に玉置さんが創作意欲を刺激されてかいた曲は、どれも名作ばかり。私が安全地帯で好きな曲といえば、『プルシアンブルーの肖像』『悲しみにさよなら』『碧い瞳のエリス』『熱視線』などです。
これ聴いていると、容易に石原真理子さんの顔が浮かんでしまう。石原さんがいなければ生まれなかったのかなあ、なんて思ってしまう曲ばかり。相手にのぼせているときって、どれだけ一緒にいても時間が足りないし、感性が刺激されて後から後から曲が湧いてきて、それはたぶん玉置さんが歌手でなかったとしても、きっと曲を作らずにはいられなかったと思うのです。
そして、歌詞のセンスも素晴らしい。この時期、松井五郎さんは安全地帯の専属のような形で作詞をされていましたね。後に、あるインタビュー記事でお顔を拝見したときに、あまりにも予想通りで驚きました。内面の優しさが、にじみでてくるような穏やかな表情。
あらためて当時の曲を聴くと、歌詞から発信されるメッセージの優しさに胸を打たれるのです。もし玉置さんが作詞してたら、もっと勝手で、激しい言葉になっていた気がします。
たしか、当時玉置さんの奥さんだった人は、売れない時代をずっと支え続けた人で。離婚が騒がれたとき、バンドのメンバーが全員反対したと聞きました。
この一時期。まるで夢のように、心を鷲掴みにするような名曲を連発したのは、玉置さんを支えた奥さんがあり、本気で心配したバンドメンバーがあり、そして石原さんがいたからなのかなあと思います。それらの要素がパズルの破片のように、吸い寄せられて集まって、一つの美しい絵画を作り上げた。
当時の玉置さんの曲は好きです。
恋愛してたんでしょうね。それも春の陽だまりみたいな穏やかな恋じゃなくて、真剣勝負のにらみ合いのような。周囲全部を敵にして、自分も泣いて、相手も泣かせて、傷つけて傷ついて、ボロボロになりながらそれでも離れられない、みたいな。
作詞家の松井五郎さんて、臆病なほど相手の気持ちを探って、自己完結してしまう人なのかなあ、なんて考えてしまいました。
でもこの繊細さがよいのですよ。
相手の心の中にずかずか土足で踏み込んでいくような真似は、絶対しない。いつもどこかに逃げ道を用意してあげて、そして見てる。ただ見てる。綺麗だなあって。
美しいものを、美しいなあって賞賛する気持ち。見てるだけで、幸福に満たされて、現実感がなくなっていくその過程。
自分の思いの深さと同じものを、相手が持っているとは限らないことをわかっていて、それを気にする気持ち。成就しない悲しさ。この一瞬さえ、ちゃんと存在するならそれでいいって、わりきってしまう孤独。
いろんなものがつめこまれています。