紫織さんの幸せとは

 今日は、美内すずえ 著『ガラスの仮面』に出てくる、紫織さんについて、語りたいと思います。☆印のついた言葉は、私が勝手に考えたり予想したものになります。

 以下、超個人的な今後の展開予想兼語りになりますので、そういうのを楽しめる方だけ、どうぞ~。

 ではさっそく。

 紫織さんが手首を切ったのは、感情が暴走した、パニックになったということもひとつの要因ではありますが。それよりも大きいのは、駄々っ子が買ってもらえないおもちゃを欲しがって、周りを気にする親の弱みにつけこみ、床にひっくり返って大暴れした・・・という要素のような気がするのです。


☆いいよいいよ、おもちゃ買ってくれないならいいですよーだ。
☆知らないからね。大暴れしちゃうんだから。店内にいるお客さん全員振り返るような大声出すよ、泣き喚くよ。
☆あ。もう今さら、買ってくれなくていいから。それは諦めたから。買ってもらうために泣くんじゃないよ。買ってくれないから泣くんだよ。悲しいから。
☆だからいいって。もう今さら買ってくれなくて結構。泣くのは、買ってくれないのが原因なんだからね。あたちが悪いんじゃないんだから、そこはわかってよね。
☆そんな・・・今さら買ってもいいよなんて甘え声出されたら、まるであたちがわがままみたいじゃない。脅かしたみたいじゃない。
☆まあ仕方ないわね。あたちが欲しがってたおもちゃに、新作のバービーもつけてくれるなら、もらってあげなくもないわよ。
☆しょうがないわね。もらってあげるわよ、ハイハイ。(まったく、最初からそうしろっての。大声で泣いたから喉嗄れちゃった。後でジュース買ってもらおっと)


 たかみやしおり。5歳。ひよこ組・・・という感じでしょうか(^^;

 フリフリの幼児ドレスを着て両親に傅かれた紫織さんが、この後当然のようにジュースを買ってもらうことは、予想に難くありません。その両手には、前々から欲しかったおもちゃと、新作バービーとがしっかり握られているでしょう。
 そして、そこに「困らせた」という罪悪感はどこにもないはずです。むしろ、「なんでさっさと言う通りにしないのよ!! 泣いたから喉が痛いじゃないのよ、まったく!!」という、真摯な怒りが渦巻いていることと思われます。

 想像してみましょう。紫織さん、病院に運ばれて、ベッドの上で目が覚めて。そのとき自分のしでかしたことを、そしてこれからのことを、どう思うのかなーって。

 私の予想なんですが。
 たぶん、速水さんが病室に付き添ってるね。鷹宮家の怒りを鎮めるためにも、それくらいのパフォーマンスはする。それは、速水さんにしかできないことだから。

 あの状況で、少しでも摩擦なく、いい方向に持っていくには。紫織さんはもとより、鷹宮家を懐柔することが必要。いたずらに怒りを倍増させることなど、あってはならないから。
 速水さんは冷静に、すべての予定をキャンセルして、紫織さんのために時間をつくると思う。万に一つの、希望を失わずに紫織さんが目覚めるのを待つ。そして。

 紫織さんが目覚めて。一番最初に目に入るのが、速水さんなのね。それで、速水さん微笑むの。とっても優しく。まあ、表情なんていくらでも作れますから。それができなきゃ、大都で社長業なんてやってませんよね。

 紫織さんは、速水さんのこと好きだからね。速水さんの顔見た瞬間に嬉しくなって、ぱっと顔を輝かせて。それからだんだん記憶が戻ってくるのね。


☆ここはどこなのかしら。病院? わたくしは一体・・・
☆ああ、この腕は。わたくし、死ねなかった。
☆真澄さまを永遠に、失うのだと思ったのに。
☆こうして二人きり。まだ、紫織に微笑んでくれますのね。
☆優しい人。わかっていますわ。あなたが紫織を見捨てることなどないと。

 


 みたいな感じでね。
 さめざめと泣きそうです。涙があとからあとから流れて。それを、速水さんが自前のハンカチでそっと拭ってくれて。
 それが心地よくて、心のどこかでマヤに優越感を感じる紫織さんだったり。今、現に彼は、マヤではなく自分の傍にいるのだから、と。

 以下、予想です。こんな感じで。


紫織☆お許しになって、真澄さま。紫織のこと、嫌いになりましたでしょう?
真澄☆・・・(あえて無言。紫織の出方を探る)
紫織☆いいんですのよ。わたくしのことなら、これ以上真澄さまにご迷惑をかけるわけには。わたくし、困らせるつもりじゃ・・・(語尾は言葉にならず、嗚咽する)
真澄☆仕事は、部下に任せてあります。しばらく休暇をとりました。ゆっくり話しましょう。
紫織☆わたくしはただ、真澄さまを愛しているのです。


 平行線だな、こりゃ(^^;
 たぶん、速水さんはもう、自分から婚約解消の話を無為に仕掛けることはないと思います。一回それやって、大失敗してるから。紫織さんの方からうまく、婚約解消の気持ちになるよう、誘導していく作戦に出るでしょう。

 あせりは禁物。だからとるはず、休暇の一週間。もしくは、多めに見積もって、一か月くらい? そこに、勝負を賭けるのです。

 一発逆転の最善策は、紫織さんの方から、速水家に婚約解消を申し入れること、ですね。そして紫織さんさえ味方につけたなら、婚約解消によって大都が妨害工作を受けることもないし、マヤの身に危険が及ぶこともないわけです。鷹宮家の面々がもし「恥をかかされた」と恨んでも、当の紫織が、大都やマヤへの手出しをさせまいとすれば、安泰でしょう。

 紫織さん次第で、どうにでもなる。

 
 結婚を強行するのか。
 それとも破談とするのか。

 速水さん、難しい立場ですね。優しくすれば、紫織さんは夢をみて、やはり結婚したいと言い始めるかもしれない。
 かといって冷たくあしらえば、その怒りは大都を、マヤを焼き尽くすかもしれない。嫌がらせをしようとすれば、いくらでもできますからね。また、同じことをすればいいだけ。自殺未遂をすれば、紫織さん自らがなにもしなくても、鷹宮のおじいさまが黙ってはいないでしょう。

 さて、私の予想は続きます。
 おそらく目が覚めて最初の3日間くらいは、お互いに敢えて、結婚のことには触れないと思うんですね。

 たぶん紫織さんは、まだまだ強烈に速水さんと結婚したいと思っていて。だから、不用意にそのことに触れて、また速水さんからはっきりした拒絶の言葉を聞いてしまうのを、恐れているはず。

 それで、紫織さんとしては、自分が懇願して婚約を継続してもらう、ということではなく。速水さんの方から言ってほしい、懇願してほしいと、考えているでしょう。以下、紫織さんの考える、究極の理想展開です。


速水☆紫織さん、ぼくはあなたが倒れているのを見たとき、自分の過ちに気付きました。どれほど、あなたを苦しめたのか。やっとわかりました。
紫織☆いいえ、同情など要りませんわ。あなたが愛しているのはマヤさん。
速水☆ぼくは仕事しか頭にない人間だった。あなたに出会うまで、それしかなかったんですよ。北島マヤは、大都に大きな利益をもたらす存在でした。だからこそぼくは彼女に、魅了されていた・・・彼女を手に入れれば、幻の紅天女を獲得できるから。
紫織☆(つらそうに顔を背ける)わたくしを慰めようなんて、なさらないで。
速水☆いいえ、どうか聞いてください。ぼくは倒れたあなたを見たとき、自分の愚かな過ちにやっと気付いたのです。
紫織☆真澄さま・・・・。
速水☆あなたを傷つけたぼくが、こんなことを言うのは間違っているのかもしれない。(自嘲の笑みと小さなため息)断ってくださっていい。いや、むしろ断るべきだと思います。それでもぼくはあなたに、あらためて結婚を申しこみたいのです。ぼくが妻にしたいと願うのは、あなたしかいないのですよ、紫織さん。


 
 この瞬間、紫織さんの脳内で、鳴り響く教会の鐘。いつまでもやむことなく鳴り響く、祝福の鐘、ですね(^^;

 私が思うに、紫織さんは自殺未遂という強硬手段に出ましたが、別に「形だけ結婚したい。形だけでも結婚できればそれでいい」なんて思っていないんじゃないかなあ。

 ちゃんと、速水さんには愛して欲しいと思ってるでしょう。妻として、北島マヤ以上の真剣な愛情を、期待している。形だけの結婚、冷たい新婚生活なんて、彼女の予想の中には、ないと思うのです。

 もちろん、病室で目が覚めたとき。速水さんにたいして、「結婚はもはや望まない」的な殊勝な言葉を、装飾として使うことはあるかもしれませんが。紫織さんの本心では。速水さんが最終的に自分を選んでくれることを、信じているのではないでしょうか。速水さんは自発的に反省し、もう一度紫織さんにまっすぐ、向き合ってくれるはずだと。

 体に傷までつけた自分を、真澄さまはいたわってくれるだろうと、心の奥底ではそう、考えていたと思います。
 紫織さんをそこまで追いつめてしまったのは自分が悪いのだと、速水さんが罪悪感にかられ、膝をついて許しを請うことを想像していたり。あらためて結婚を申しこまれることを、期待していたかもしれません。

 このへんは、本当に悪気なく、だと思います。
 そういう意味で、紫織さんは素直なんですよね。だって今まで、彼女の人生で思い通りにならなかったことはたぶん、なかった。鷹宮の名前は、彼女にとって魔法の呪文だった。自己否定の念なんて、これっぽっちもなくて。

 心の深い場所から、信じているわけです。自分を。
 愛されないはずがない。わたくしが初めて恋におちた真澄さまが、わたくしを愛してくださらないはずはない、と。

 そして、自分は速水さんにとって、愛するに値する存在だと、純粋に認識していると思うんですよ。

 鷹通の力は、必ず速水さんにとってプラスになるわけで。加えて女性としての魅力にも、不安はないと思います。実際、紫織さんはとても綺麗な女性で。
 マヤのことでゴタゴタする前には、速水さんはいつでも紫織さんを称え、褒めてくれたのですものね。
「ぼくだけを見ていなさい」なんて、究極の殺し文句だって聞かせてくれた。

 速水さんに愛されるのが当然であるはずの自分が、なぜ、当の速水さんから婚約解消を突き付けられたのか・・・・。

 そういう意味で、あの場での心の乱れはあったと思います。何かが違う、おかしい。こんなはずでは・・・と。だからこそ、ああいう思いきった行為に、衝動的に走ったという面もあるのでしょうが・・・。

 病院の白いベッドの上で。目覚めたときに、速水さんがいてくれて。そしたら紫織さんはほっとするでしょう。

 たとえば、以下のような感じで。


☆ああ、やっぱり。いろいろあったけど、やはり真澄さまはわたくしと結ばれる人なんだわ。おかしなことばかり続いて、混乱する日もあったけれど。
☆ようやく、元の場所に戻ってきた。ここが、はじまりの場所。
☆真澄さまが誤解を解き、詫び、そしてすべては望んだとおりに。みな、あるべき場所に収まるのだわ。
☆馬鹿ね、紫織。真澄さまを疑ったりして。真澄さまは、わたくしに不実であったことなど、一度もなかったのよ。
 


 マヤに対しても自分の本音に対しても誠実であろうとする速水さんが、今度はどんな言葉で紫織さんに語りかけるのか、興味があります。
 速水さんの手腕のみせどころですね。
 大都を大きくするために今まで使ってきたテクニックの集大成、みせてくれるのかも。

 私は思います。
 人は似たもの同士でないと、わかりあえない面もあるのではないかと。どんなに紫織さんが努力しても、紫織さんには踏み越えられない境界線を、速水さんは持っていて。
 そしてその境界線を、マヤだったら易々と踏み越えられる。わかりあえる。言葉じゃなく、理解しあえる。

 紫織さんがこの先、速水さんと結婚したとしても、速水さんだけじゃなく紫織さんだって、幸せにはなれませんよね・・・。

 組み合わせなんだと思います。
 紫織さんには紫織さんの、速水さんには速水さんにふさわしい相手がいる。そうでない相手と結婚すれば、ギシギシと歯車は嫌な音をたてて軋んで。どんなにがんばったところで、きっと、つらくなるばかり。
 苦しい思いをするのは、なにかが間違っているからなのかもしれません。
 物事は、スムーズに運ぶときにはまるで、魔法のようにすべてのパズルが当てはまって、するすると進行するものです。あっちに行って行きどまり、こっちにいって行きどまり、そういうのは根本的ななにかが、決定的に間違っているからなのかもしれない。

 人が、結ばれるべき人ともしも出会ってしまったら。もうそれ以外の道など、偽物でしかなくなるのかもしれないなあと、そう思いました。

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