もしも春さんが全快していたら

 『ガラスの仮面』の中で、速水さんが、マヤのお母さん(春さん)をひそかに保護して療養させていたエピソード。結果的には悲劇になってしまったけれど、もしあのまま、すべてがうまくいっていたら。

 春さんが全快して、マヤと再会して、そのことが大きな話題となって、マヤの知名度も急上昇して。

 今日はその設定で、二次創作してみました。

 以下、単なる想像です。

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(マヤと春の涙の再会が、マスコミで大きく報じられる。それまで何も知らされていなかったマヤは、母親の無事を喜びつつも、事実を隠していた速水にくってかかる)

マヤ☆どうして黙ってたんですか!!

速水☆話したら、きみは冷静に対処できたのか?情緒不安定の新人女優など、現場からすぐに放り出されるぞ。それに病人を興奮させて病状が悪化したらどうする? まずは治療を優先させたおれの判断に、感謝するんだな。

マヤ☆あたし、あなたにそんなこと頼んでません!!

(なんて奴。あなたなんて嫌い嫌い大っきらい。ほんとは宣伝のために母さんのこと隠してたんでしょ。そんなのわかってるんだから。バカバカバカ・・・)

(数日後)

麗☆速水さんがしたこと、冷静に考えてみな。お母さんを医者にみせて、治療して療養させてくれたんだろ? だからお母さんの病気も治ったし、再会も仲直りもできたんじゃないか。あの人は確かに冷血鬼社長だけど、今回のことには、感謝しても罰は当たらないよ。

マヤ☆でも結局は宣伝だったんでしょ。あの人は母さんを利用しただけ。

(ああ・・・でも麗の言うこと、その通りなのかもしれない。たとえ宣伝でも、速水さんが助けてくれなかったら母さんは・・・あたしは二度と会えなかったかもしれない。速水さん・・・この間はあたし、かっとなってずいぶんひどいこと言っちゃったな・・・)

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(社長室にて)

マヤ☆速水さん、あたし、この間はあの・・・・

速水☆なんだ、殊勝な顔して。きみがそんな顔をするなんて珍しいな。雨でも降らなきゃいいが。

マヤ☆・・・(なんでこの人はいつもこうなのっ! 謝りにきたのに、そんな言い方することないでしょ!! ああ、いけない。怒ったんじゃなにしに来たのかわからなくなっちゃう。ちゃんとお礼いって帰らなきゃ)

速水☆言いたいことがあるなら早く言ってくれ。おれも忙しいんだ。きみの相手をする時間は限られてる。

マヤ☆母さんのこと、あり・・

速水☆きみの母親のことだが・・・マスコミのトップニュースになったな。涙の再会に、取材の申し込みが殺到している。水城くんに調整させているが、あとで連絡させる。

マヤ☆あの、あたし今日は・・・

速水☆計算通りだ。いい宣伝になった。これできみの知名度も上がるし、これからはもっと忙しくなるぞ。体調を整えて、これからも大都のためにがんばってくれたまえ。

マヤ☆大都の・・・ため・・・

マヤの顔が、あからさまに曇った。泣きそうになるのを見てとり、速水は一瞬目を逸らせたものの、何事もなかったかのように言葉を続ける。

速水☆きみは大都の大事な女優だからな。大都に所属する限り、そのプロモーションはおれの仕事の内だ。

マヤ☆・・・・・

速水☆さあ、もう帰れ、と言いたいところだが。なにか用事があって来たんだったな? 用件は手短に頼むぞ。

マヤ☆なんでもありません。帰ります。お時間いただいて、すみませんでしたっ!! 

逃げるように駆けだしていく。開け放たれたドアが、ゆっくりと閉まる。一人になった室内。速水は苛ついた様子で、冷めたコーヒーを一気にあおる。

速水☆(あの子が礼を言いに来るとは予想外だった・・・。隠していたのかと責められたときの方が、よほど平静でいられた。礼なんて言われたら、どういう顔をすればいいのか。きみはただ、おれを憎んでいればいいんだ。それでいい)

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帰り道。マヤがしょんぼり歩いている。

マヤ☆あたし、とうとう言えなかった。速水さん意地悪なんだもの。そりゃ、あたしのためじゃなく、宣伝のためにしたことだ、なんてわかってたけど。それでも母さんを助けてくれたのは速水さん。お礼はちゃんと、言いたかったのに・・・。

ううん・・・違うよね。速水さんが意地悪なんじゃなくて、あたしがバカなだけだ。お仕事で忙しいのも本当のことだし、あたしが愚図愚図していたから・・・。

母さんにもよく怒られたっけ。あたし昔からちっとも変わってないんだ。ごめんなさい、速水さん。あたし本当は、すごく・・・感謝してます。母さんを助けてくれて、ありがとうございました。お礼は言えなかったけど、その分あたし、これからがんばっていい女優になります。速水さんに喜んでもらえるような、大都のためになるような女優になりたい。見ていてくださいね・・・。

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 以上、「もしも春さんが全快して、マヤと再会できていたら」の二次創作でした。

 その場合、マヤは速水さんにお礼を言おうとするんだけど、でも速水さんは絶対、それを言わせないだろうなあって、思ったんですよね。その葛藤が想像できたので、思わず文章にしてしまいました。

 憎まれていた方が楽だ・・・というのが、速水さんの気持ちで。だから、マヤのためには手を尽くすけれど、いざお礼を言われそうになると、逃げたり挑発しちゃうの。照れ隠し、というか、怖いんじゃないんですかねえ。自分の好きな少女に、好意をもたれるのが(^^;

 期待してしまうから。

 その好意の先を。そして、一度獲得した信頼を、再び失ってしまうことが心底怖くて。だから、お礼なんて言わせないのね。

 憎まれている状態が快い、というのは。

 自分に自信がないからですね。自分など、愛される資格がないと思ってる。

 そしてまかり間違って愛されてしまえば、いつかその愛を失ったとき、元の状態に戻るだけなのに、一度愛を知った後のその喪失感は、自分を壊してしまうだろうと予想している。

 

 だから予防線をはる、と。

 お礼なんて言わせない。言うのがわかれば、徹底的に妨害するし、マヤにとっては、うるさいやつ、嫌なやつであり続けようとする。その立場に安心する、というか。

 それでね。マヤがちゃんとお礼を言えないよう妨害するの、速水さんにしてみたら、赤子の手をひねるようなもんだと思うんですよ。マヤは単純だし、速水さんの誘導に面白いようにひっかかると思う。そして、そのことに後々まで気付かないだろうなーと。

 あげく、マヤは大反省するわけです(笑)

 速水さんにちゃんとお礼を言えない自分に対して。実は全部、速水さんの策略通りなのに。

 ああ、そういうマヤを想像すると、可愛いなあ。

 春さんの悲劇が、もしなかったら。

 二人の距離はもう少し、近いものになっていたと、そう思います。

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