前回の続きです。別冊花とゆめ『ガラスの仮面』美内すずえ著 の、最近の連載についての感想などを語ります。かなり個人的な今後の展開予想などを書いていますので、そうしたものが苦手な方はご注意ください。
私、3月号を読み終えた時点で、すっごく浮かんできた絵があったんですよね。4月号はまだ読んでなくて、3月号を読んだばかりの時点で、パっと浮かんできた図。あくまで私の想像した展開、ですが。
速水さんはマヤを伊豆に招待しようと思ったものの、結局失敗してしまうんじゃないだろうか。婚約の事実はどうあがいても、今さら取り消しできなくて。
マヤの身の安全を盾にとられるとか、紫織さんが自殺未遂するとか、とにかくいろいろあって、速水さんがどう抗っても、結局紫織さんと速水さんは結婚することになってしまう、と。
そしたら速水さんは、どうやってマヤに接するか悩むだろうなあ。クルーズでいい雰囲気になったからこそ、マヤにははっきりと伝えなくてはいけない事実なわけで。「結婚は予定通り行われる」と。そして伊豆への招待を、取り消す必要がある。
紫織さんと結婚することが決定したら、速水さんはどう動くだろうか。もうマヤとは関係がなくなる? いやいや、紅天女がある。今さら、一切無関係で・・・とはならないだろうなあ。
そしたら、自分のプロダクションに、マヤを所属させようとしたりして。そうすることで、マヤを守る、みたいな。そうすれば少なくとも、マヤが芸能界で誰かに騙されたり、酷い目に遭うってことはなくなるだろう。
大都で紅天女を上演するのは英介の長年の夢でもある。マヤが紅天女の上演権を手にしたら、それは所属プロの大都が紅天女を手にしたも同然で。
英介がどれだけ紅天女に執着してきたか、その話をすれば、紫織さんもマヤの大都への所属には、納得するはず。単に速水さんが「そうしたい」と言えば、「あの子だけはやめて」と邪推して妨害するかもしれないけど、「これは英介の積年の夢なのだ」と説得することで、紫織さんの了解は得られる。
結婚をごり押しした負い目があれば、紫織さんは速水さんの気持ちを知る分、英介の機嫌を損ねたくはないだろうから。せめて、舅になる人に、少しでも気に入ってもらおうと「マヤの大都入り」を承知するでしょう。
なにしろ彼女は、「結局のところ、速水真澄と結婚できる」という事実の前には、寛容にならざるを得ない。嫉妬心をむきだしにすることは、それなりにプライドも傷つくだろうし。
大都に所属しないかとマヤを誘い、船上でのことは、あれはすべて忘れてくれと彼女に告げるのは、速水さんにとっては決死の作業になります。自分の心を偽る、つらくてせつない行為。でも速水さん本人以外に、誰も代われない。
きっとマヤを、社長室に呼びだすね。夕暮れ時。それで、ブラインド上げてるから夕陽がまぶしくて、速水さんをみつめるマヤには、シルエットしかみえないの。それを幸いに、速水さんはマヤの目を一切見ることなく、彼女に嘘を吐くんじゃないだろうかと。背中を向けたまま、心にもない台詞を。
そのときのマヤには、速水さんがなにを考えているのか全然わからなくて。船上のときとはまるで別人で、彼がとても遠い存在に思えて。泣けてくるだろうなあと思ったのです。
マヤがそんな状態で紅天女の上演権の話をされたら、「速水さんが私に抱いた興味は、結局それだったのか」と誤解しそうで。
それで、そのとき思わず書いた文章があるので、載せます。私は3月号を読み終えた当時、こんな情景を想像してたのです。文字に起こしました。
速水さんに裏切られる形のマヤちゃん。その目に映った光景は、こんな感じでしょうか。
これも一応、二次創作というかパロディになるのかな? 短いですけど・・・。以下、気軽に楽しめる方だけご覧ください。個人的な展開予想です。
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「きみの演劇の才能はおれが評価している。もっと自信をもて」
そう告げた速水さんは、窓の向こうを向いたままで、こちらを振り返りもしない。あたしがそれだけの存在なのか、顔を向けるだけの価値もないのか。だからあたしには、速水さんの表情が見えない。なにを考えているのかなんて、わかりようもない・・・・。
痛いほどの夕陽が照らす室内は、なにもかもが赤く染まっている。窓の外を向いたきりの速水さんは、眩しくないのだろうか。あたしが水城さんに案内されて入ってきたときから、その場所を動かずにいる。シルエットは影になり、あたしの目にはひどく・・・遠い存在に見えた。
「あたし・・・・大都にとって魅力的な商品なんですか?あたしは・・・」
「価値はあるさ。そうでなければ大都に誘ったりはしない。おれは安っぽい同情などに興味がない男だからな。だからこの先、きみが女優としての価値をなくしたら、遠慮なく切らせてもらう」
冷えた、感情のこもらない声だった。その声は、クルーズのときとは全く別人で、あたしは自分の足が熱を失っていくのを感じた。とめようとしても、どうしようもなく冷気が、じわじわとつま先から膝へ上がっていく。
「きみが手に入れるかもしれない紅天女の上演権。あれは、大都に任せることが最良の選択だぞ。大都のためじゃない。これはきみのためでもある。大都がやれば、きみが妙な話に騙されることもないだろう。あの作品だけは・・・・おれもおやじも、特別な思いを持ってる。悪いようにはしない」
「あたしの価値は、紅天女の価値にあると・・・」
「そうは言ってない。きみはたいした子だよ。クルーズで、おれはどうかしていた・・・そうさせたのはきみの演技だ」
ズキーンと、心臓が悲鳴をあげる音がした。あれは、演技なんかじゃないのに。あたしは紫のバラの人に、自分の本当の気持ちを伝えただけ。演技なんかじゃない、あれがあたしの本当の心。速水さん! わかってくれたんじゃなかったの?
「おれは・・・どうかしていたよ。きみの演技にすっかり魅せられ、ばかなことも口にした。だがおれが心惹かれたのはきみの阿古夜であって、きみではない。そんなこともわからないほど、きみも子供じゃないだろう、チビちゃん」
いつもは温かい「チビちゃん」という言葉には、明らかな悪意がこもっており。だからといってあたしにはなすすべなどない。だって、本当にその通りだから。あたしなんかを、速水さんが本気で相手にするわけないんだから。そんなことわかってた。わかってたのに!!
「念のため言っておくが、おれがきみを伊豆へ呼ぶこともない。あそこはおれの、特別な場所だから。他人を引き入れるつもりなどない。きみが断ることを見越して口にしたのに、あっさりうなずくから驚いたよ。きみはきっと、そういうことにためらいがないんだろう」
そういうことって、どういう意味ですか・・・・問い返してやりたいという気持ちが、カっとあたしの中で強く燃え上がった。だけど次の瞬間、その怒りはすべて、涙になって流れ出した。泣いちゃだめだ、こんなところで泣きたくない。速水さんの前で。
背中を向けたままの速水さんに感謝した。ゆっくり、息をして。自分に言い聞かせるあたしは平気。本当の気持ち、もう二度と見せたりしない。速水さんが望む女優の北島マヤを演じるだけ。女優なら、感情なんてちっとも痛くない。なにも感じない。
「わかりました。もう帰ります。速水さん、あたしの演技評価してくれて、ありがとうございました。試演、がんばりますから」
すらすらと口から出てきた言葉に、おかしな動揺は欠片もみえなかった、と、思う。後ろを向かない速水さんには、あたしの本当の気持ちは、絶対にわからないだろう。彼がライターを使う音がした。煙が上がるのを見た。気まずい沈黙が、あたしたちの間にある。
このまま返事を待たずに、あたしは出ていくべきだろうか。そのほうが自然だろうか。
そう思いながらも、あたしは未練がましくソファに腰を下ろしたまま、動こうとしない。そう、待っている。どんな言葉であれ。あたしは速水さんの言葉を少しでも、一言でも狂おしいほど待ち望んでいる。こんな状況でさえ、恋しくて、発狂しそうになりながら。
ここまで絶望的な状況だからこそ、自分がどんなに速水さんに甘えているのか、あたしは思い知った。依存といってもいい。優しい言葉がほしかった。
だけどあたしの思いはあっさり打ち砕かれた。
速水さんは最後まであたしを見てはくれなかったのだ。長い、息苦しいほどの沈黙の後で、速水さんがくれた言葉。それは。
「さよなら、チビちゃん」
速水さんの声は低く、少し掠れていた。
終わりだと思った。
あたしは立ち上がる。絶対、不自然さを悟られてはいけない。ごく当たり前の動作が、ひどく難しかった。でも平気。これはあたしじゃない。女優、北島マヤなんだから。 さあ立ち上がって、あのドアまで歩いて。扉を開いて。そう、ゆっくり閉めたら、それで・・・・終わり。
社長室のドアを閉めると、水城さんと目があったので慌てて駆け出した。自分をさらけだしてしまいそうだったから。そんなやりとりを速水さんに聞かれるくらいなら、死んだほうがましだ。
あたしはこの日、もう二度と速水さんに、淡い期待なんて抱かないと誓った・・・。
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3月号を読み終えたとき、思わず書いてしまった文章でした。あ、もちろん勝手な個人予想ですので、この先、こんなシーンが展開されることはないでしょうが・・・。4月号からまた、あらたな動きもありましたし。
もしマヤに嘘をつくことになれば、速水さん、どれだけ心が痛いのかなあと。きっと目を見ずにしゃべるだろうなと、そう思いました。心にもない言葉をすらすら並べるのは、どんな気持ちでしょう。それで、目すら合わせない状況だからこそマヤは速水さんの真意を量りかねて、誤解して。
マヤはもうそのときには、つかつかと速水さんの真正面まで歩いて行って、じっと瞳を見据えるような勇気など、ないだろうなと。
ただただ、二人を包む沈黙と、夕焼けの強い光。
その光景は、傍からみたらどれだけせつないだろうなあと、想像したの
でした。