憎しみに代わるものを手に入れたから

『ガラスの仮面』美内すずえ 著を読んでの感想です。今日はちょっと短いですが、少しだけ。思ったことをつらつらと書いてみます。

もし速水さんがマヤと出会っていなかったら・・・。

破滅へのカウントダウンは、静かに始まっていたと思うのです。速水さんは英介への復讐心を心の支えに生きてきたけれど、いざ紅天女を手に入れたときには、果てしない虚しさと孤独が彼を打ちのめしたと思うから。

目標を達成した瞬間が、速水さんにとって地獄の始まりになったでしょう。

そもそも、愛情をもらうべき親(たとえ血がつながらなくても)、たった一人の肉親を憎まねばならなかった時点で、彼の心はひどく傷ついていたはず。その傷の痛みに気付かなくてすんだのは、紅天女への執心が、感覚を麻痺させていたから。

速水さんは、紅天女さえ手に入れればこの底知れない絶望から逃れられると思っていたんだろうけれど、それは違う。速水さんが望むものは、そこにはないと思う。

誰かを憎む心は、自分の心を蝕んでいく。ゆっくりと、着実に。誰かを憎むことは、自分の心を傷つけるということだ。怒りは毒になり、体中を回る。

昔の写真を見て、紫織さんが、速水さんの笑っている写真が一枚もないと驚いていたけれど、彼がそれに耐えられたのは「紅天女を奪い、英介に復讐する」目標があったからだ。

マヤに出会い、マヤを愛することで憎しみの心は消えていった。今速水さんは、英介を憎んでいるだろうか? 私はそうは思わない。マヤを愛することで、速水さんの中で憎しみなどはどうでもいい存在になり、マヤを思うときの温かい気持ちが傷を満たし、ぽっかりあいた心の空洞を、ひたひたと埋めていったのだと思う。

一真の台詞

『ガラスの仮面』美内すずえ 著 の、雑誌最新掲載分を読んで思ったことや、今後の展開予想について語ります。過去のネタバレを含みますので未読の方はご注意ください。また、暗い話についても触れていますので、暗い気分になりたくない、という方は、読まない方がいいと思います。

前回、私は速水さんが紫織さんと結婚して、その犠牲と引き換えにマヤが紅天女を勝ち取る、という予想を書いたのですが。

ただ、何かが違うなあ・・・とひっかかるものを感じていたのは確かで。その何かというのは、「それが結婚で離れたものならば、いつか離婚し、また二人が結びつく可能性はある」ということでして。

速水さんと紫織さんとの結婚は、速水さんとマヤの絶対的な別離というわけではないでしょう。この世に二人が生きている限り。この世で二人が実際に会ったり、話をすることは物理的に可能。
するか、しないかの問題だけですもんね。
たとえ紫織さんがずっとずっと、そのまやかしの結婚にこだわり続けたとしても。現に速水さんもマヤも、その同じ世界に生きていて。呼吸して、活動して、それこそ意志さえあれば、すぐにでも触れあうことは可能なわけです。

究極の別れとはなんぞや。

それは、二人が違う世界に存在すること、なのかなあと。
違う次元に存在することになれば、もう、物理的な接触は不可能になります。
記憶とか、思い出とか。そういう精神的なものでの結びつきでしかなくなる。

一真の台詞。

>死ねば・・・恋が終わるとは思わぬ・・・

この言葉の持つ意味を考えれば、この世で引き裂かれる試練ではない、それ以上の試練が、阿古夜にはあったということで。

死の向こうにあるもの。
それを超えて、あなたはずっと、その人と繋がっていられますかと。
その人を信じることができますか、と。
それが阿古夜に突き付けられた試練なのだとしたら。

紅天女候補のマヤに、足りないものがあるとしたら。紅天女の心を掴む、最後の要素はなにか。

魂のかたわれとして巡り会い、一度は全身全霊で愛した人と、死によって残酷に引き裂かれるという悲劇、なのではないでしょうか。

死をもってしても、魂のかたわれであり続けられるのか? そもそも死とは、なんなのでしょう。

魂は永遠だというなら、死は一つの通過点に過ぎず。
肉体がすべてというなら、死はすべての終局。

どちらが正しいのか。
証明する術などどこにもない。

死とはなにかを考え始めると、それは生とはなにかという問いにつながり。では、生まれた意味はなんなのか、とか。生に対する死とはなんなのか、と。果てしなく、堂々巡りのように思考が広がります。

魂のかたわれ、という概念はとてもロマンチックで。そこに作者は、どう生と死を絡ませていくのだろうと。たぶん、これからエンディングに向かって語られるのは、作者自身の哲学なのだと思います。作者が何を考えているのか、黙っていたままでは他人が知るすべもないそれを、「紅天女」という架空の劇空間で、漫画という手段をもって表現しようとしているんですね、きっと。

私はそれを知りたい、見てみたいと、強く思います。
どんな結末が、そこには用意されているんだろう。

ハリウッド映画ならきっと、マヤが紅天女を勝ち取り、同時に速水さんの愛も手に入れて、二人はいつまでも幸せに暮らしました・・・でエンドロールですよね。

だけど、『ガラスの仮面』では、違う答えが示されるような気がするのです。雑誌掲載分が、単行本になったときにはざっくりエピソード削られていたり、あるいは加筆されていたり、という試行錯誤は、それだけ作者が真剣に着地点を模索しているのかなあと。
最終的に描きたいものは決まっていても、それをどう読者に伝えるか、表現方法は無数にあるわけで。その迷いが、雑誌掲載分と単行本との違いに表れてきてるのかもしれません。

きっと、単行本にした分だって、本当は「もう少しああしたらよかった」とか、「この展開にした方がよかったかも」という迷いは、あるんだろうなあと思いました。

マヤにとって一番悲しいのは。
速水さんが紫織さんと結婚することよりも。自分の世界から速水さんがいなくなってしまうことの方ですよね。

この場合、速水さんが阿古夜で、マヤが一真になるのかな。
阿古夜は一真のために、我が身を差し出す。一真(マヤ=紅天女を演じるという夢、彼女のレゾン・デートルそのもの)のために、阿古夜は我が身を滅ぼす。そうすることで究極の愛を捧げる。見返りのない真心を。
この場合、紫織さんは、戦そのものを暗喩するのかな。無益な執着心やエゴそのものを。それが、阿古夜(速水さん)を殺すことになる。

見返りのない愛、といえば速水さんは。
マヤに憎まれながらもずっと、変わらぬ優しさでマヤの成長を見守り、遠くから励まし続けた。
無条件の愛を、体現したような人だったなあ。
ときおり見せた、里見茂や桜小路君への嫉妬は、御愛嬌ということで・・・。人間らしいといえば、人間らしい感情です。
やがてそういうものをすべて乗り越えて、彼がマヤに捧げる愛情の最終形態は・・・・それこそがきっと、紅天女の答えなのでしょう。

マヤの試練

『ガラスの仮面』美内すずえ 著 の今後の展開予想や雑誌連載分について感想などを語ります。過去のネタバレを含みますのでご注意ください。

>印がついた台詞などは、雑誌から引用したものです。

☆印がついた台詞などは、私が勝手に予想したものです。

紅天女=梅の木は、巡り会った魂のかたわれ、一真に切られるのですよね。二人の間にどんなやりとりがあるのか、想像するしかありませんが、きっとそこには信頼があったのではないかと思います。

マヤが紅天女の心をつかむきっかけ・・・・それは、紫織の画策により、「速水さんがマヤに何も告げず、黙って紫織さんと結婚してしまうこと」ではないかなーと、この頃そう考えるようになりました。そのための伏線が雑誌の4月号だったのかなと。

速水さんは言いました。

>この先なにがあっても おれを信じてついてきてくれるか?

この台詞、こんな意味にとることもできますね。

☆この先もし紫織さんと結婚しても、信じて待つことができるか?

今の時点で、速水さんは紫織さんとの結婚が回避できるかどうか、判断はつきかねていると思います。もちろん婚約破棄できればそれがベストでしょうけれど、もしその交渉がうまくいかなかったら。
どんな選択であれ、速水さんはマヤを一番に考えるでしょう、たとえ一見して残酷(マヤにとって)なことであっても、それを選ぶ勇気を持つのが、速水さんという人だと思うのです。

どこかで、予感していたのかな・・と。
嵐の予感を。

>しばらくは会えないかもしれないが きっときみをいい形で伊豆に迎えたいと思う
>待っていてくれ

上記の台詞ですが、私が注目するのは、この「思う」の部分。
あくまで希望であり、予測であり、せつない願望であり。意識的なのかなんなのかわかりませんが、決して断定はしてないんですよね。
「きっと伊豆に迎える」と言いきってしまえば、約束になってしまう。

だから、「思う」と、曖昧な言葉にしかならなかったのかな。
自分の意志ひとつで、できることじゃないから。相手は紫織さんだから。

紫織さんが本気になって速水さんを手に入れようと思ったら。泣き落し(自殺未遂含む)か、攻撃しかありません。
紫織さんの強みは、鷹宮家のバック。
攻撃のための資金もコネも、その気になれば優秀なブレーンも用意できる。攻撃力は尽きることがないし、長期戦も可能。

速水さんが、不利な戦いを強いられるのは自明の理です。
今は、紅天女の後継者を選ぶ大事なとき。スキャンダルは命取り。

紫織さんはマヤを標的にするはずです。速水さん本人をどうこうしようと、効果がないのは十分承知でしょう。
マヤへの憎さもあるし、それ以上に、速水さんの一番の急所が、マヤそのものだから。

紫織さんは有利です。
どんな方法でもいい。ただの一撃でも、マヤをかすめることができたなら。スキャンダルは噂を呼んで、マヤの足をさらう。試演の場に立つことが叶わなくなれば、たとえどんな天才女優であれ、紅天女にはなれない。表現の場がないのだから。

そして、今このときを逃したら、マヤが紅天女を手に入れる機会は永遠に失われるわけです。後から挽回するチャンスは、ない。

鷹宮側からの攻撃の矢は、何度放ってもいい。何度失敗してもいい。時間がかかってもいい。試演までの間であれば、時間制限はありません。ありとあらゆる方向から、マヤを狙えます。

対する速水さんは。
もちろん、あらん限りの力でマヤを守ろうとするでしょうが、圧倒的に不利なんです。だって、ただ一度でも失敗すれば、それは敗北を意味するから。他の99パーセントの攻撃をよけたことなんて、なんの意味も持たなくなる。たった一度、失敗するだけで。

それに紫織さん。マヤに対するスキャンダルをでっちあげる、という攻撃だけじゃなくて。もしも本当に危険な攻撃をしかけてきたら・・・と思うと、マヤは女優生命ではなく、命そのものを危険に晒すわけで。

なおさら、速水さんの防御が一度でも失敗すれば、それは致命的な敗北になるわけです・・・・。
少女漫画だし、紫織さんがそこまで過激になるのか?とは思いますが、でも紅天女が究極の演目であるというなら、それくらいのことはあってもおかしくないかな・・・・。

もし紫織さんがマヤの命、までいかなくても、たとえば女優生命に関わる、顔に怪我をさせるようなことを目的としたなら、紅天女の試演までという時間制限はなくなり、それこそ生きてる限り、マヤには危険がつきまとうわけです。

速水さんがいくらマヤを守りたくても、完全な防御を一生続けられるのかどうか・・・・それはもう、無理です。はっきり言って。だったら、速水さんのとる方法はもう、一つしか残ってない。

紫織さんの好きにさせること。
つまり、このまま結婚してしまうこと、なんですよね。

どうみたって不幸な結末しか見えない結婚ですけど、仕方ない。紫織さんがそれしか認めないのだとしたら。いつかその不幸に気付いて、別れを切り出す日を 待つしかない。それが結婚から一年後か、三十年後か、もしくは死ぬまで、怨念でもって死の床まで速水さんを縛り付けるのか、それはわかりませんけれども。

そうなれば、紫織さんはマヤに手出ししないことを約束する代わりに、速水さんにも自分への忠誠を誓わせるだろうなと。つまり、「マヤと一切、接触を持つことを禁ずる」わけです。

事情説明の機会なんて与えない。そんな生温いこと、認めるくらいならきっととっくに、速水さんを解放してあげていたでしょう。

それで速水さんはなにを考えるかというと。

もちろん、本当ならマヤに会って、説明したいでしょう。結婚は本心でなく、やむにやまれずのことだと。
しかしマヤに会えば、マヤは泣きながら反対するのが目に見えています。

☆あたしのために、そんなことしないでください
☆あたしはなにが起ころうと、自分の精一杯で紅天女に挑むだけ
☆だから速水さん、あたしの傍にちゃんといてください

きっと上記のようなことを言って、マヤは悲しい選択の翻意を迫ると思われます。

速水さんは、もし自分が原因でマヤが紅天女を逃すようなことがあれば、一生後悔するでしょう。そしてもし自分が原因で、マヤの体に傷一つでもつくようなことがあれば、自分を一生責め続けるでしょう。だからマヤを説得することは諦めるはず。

マヤの気持ちも性格も、よーくわかってるから。伊達にずっと見守ってきたわけじゃないですよね。事情説明なんかしても、マヤは納得しないし、それでもこの結婚を強行すれば、さらに傷ついてしまうだけ。

だったら。紫織さんにばれる危険性を冒してまで、速水さんは、マヤに会って説明しようなんてことは考えないでしょう。大事なことだし、電話では無理。手紙も証拠が残るし、却下。

やっぱり歳の差で。マヤにはきっと、速水さんの決断は受けとめられないし、理解できなくて泣けると思います。心の負担を増すだけの結果になるなら、むしろ知らせなければいい。自分が悪者になり、マヤの前から消えればいい・・・・。

この場合、速水さんの出す結論は、これしかないですね。マヤにはその後いっさい会わず、ただ黙って、紫織さんと結婚してしまう。マヤがどんなに会おうとしても、拒絶。偶然にすれ違っても視線すら合わせず、無視。徹底的に距離を保つ。

マヤと幸せになろうだなんて、やはり自分には叶わない夢だったのだと、速水さんは諦めるのではないでしょうか。また、憎まれる元の自分に戻るだけ。マヤは泣くかもしれないけれど、これで紅天女には堂々と挑戦できるわけだし、身の安全もはかれるのだし。
そしてマヤはまだ若くて。女優としての才能にもあふれていて。

だから最初は泣いても、すぐに自分のことは忘れてしまうはず、と、速水さんは考えているのでしょう。時間がたてば、傷も癒えると。自分の愚かな愛情で、マヤの未来を奪うようなことだけは避けなければならないと、速水さんは真剣にそう、考えるでしょう。

そうなるとマヤは。

これは、一真に切られる梅の木と同じ立場ですね。マヤにとって、速水さんが黙って紫織さんと結婚することは、自分の心が死ぬのと同じ。
以下、そうなったときのマヤの心境を想像してみます。

☆どうして?どうして?わからない。
☆でも、あなたがそうしたいのなら、そうすればいい。
☆だってあなたは、あたしだから。あなたの選択にあたしは従うだけ。
☆あなたはあたし。あたしの魂のかたわれ

切られる千年の梅の木の悲哀を、マヤは速水さんとの別れで、体感するのではないでしょうか。

でも当初は混乱しても。苦悩と葛藤の向こうにあるのは、平穏と信頼なのかもしれません。結局、マヤは速水さんを信じると思うので。

信じて、と速水さんはマヤに言ったから。
これは人づての言葉ではありません。速水さんがワンナイトクルーズの下船後、直接、マヤにくれた言葉だったから。

それに対して、マヤはどう答えたか。

>はい 速水さん
>はい・・・!

力強く、こう答えましたよね。

速水さんは、約束を守る男。その魂のかたわれがマヤだというのなら、マヤもその言葉を守り続けると思うのです。

たとえ説明なんかなくても。その人を信じるということ。「信じてついてきてくれるか」という速水さんの言葉は、決して物理的なことを聞いているのではなく、この先ずっと心を添わせることができるか、マヤの意志を確認しているように、思えます。

会えなくても、遠くに離れていても、ちゃんと説明がなくても。ずっと心は傍にいてくれるか?という。

それが魂のかたわれなのでしょう。

だから紅天女も、最終的に、自分を切る一真を受け入れたのだと思います。そこにはきっと、不信も憎しみも、疑問もなかったはず。ただすべてを、両手を広げて受け入れたような。

速水さんの選択を受け入れ、自分の心を殺すことでマヤは、紅天女になれるのかもしれない、と思いました。

別冊花とゆめ5月号『ガラスの仮面』美内すずえ 著 感想その3

別冊花とゆめ5月号『ガラスの仮面』を読みました。以下、感想を書いていますが、ネタバレ含んでおりますので、未読の方はご注意ください。
感想を書くために、本誌から引用した台詞などは>で表してあります。
私が勝手に想像した台詞は、☆で表してあります。

混同しないように、記号分けしました。

紫のバラのひとがあなただってこと、知ってるんだから!!と、鼻息も荒く叫んだシオリーですが、これでも相当自制してたんだろうなあ。
本来であれば、おそらく下記のような暴言になったと思います。

☆11も年の離れた女優に匿名でバラを贈り続け、妙な愛着を持つなんてみっともなさすぎます!!
☆恥ずかしくございませんの?
☆ご自分の社会的立場を、もっとお考えになったらどう?

ああ、もしもこんなことをストレートに言われていたら。マヤに憎まれていると思いこんでいる以前の速水さんであったなら。瞬間固まって・・・・投げつけられた言葉の一つ一つに完全同意して、幾度も心中で復唱して、まるで抜け殻のような弱気な笑みを見せたのだろうか、と想像してしまいます。
言葉を発した本人であるシオリーですら、思わず罪悪感を感じずにはいられないくらいの、ずたずたに傷ついた虚ろな目をして・・・。

まあ、想像は広げると果てしないのでその辺にしておいて。
今月号の速水さんVS紫織さん対決を見て一番感じたことは。
速水さん、根本的に戦略を間違えてると思います。
シオリー、女性なんですよね。それもかなり、女性っぽい女性なわけで。その人相手に、理路整然と理屈を説いても無駄なんです。
たぶんシオリー、論理じゃなくて感情で動いてるから。

☆なんだかわからないけど真澄さまが好き。
☆その真澄さまがマヤを愛してるみたいだから、マヤが憎い。
☆マヤがいなければ、真澄さまは紫織を愛してくれる。

シオリーの考えてることは、要するに上記のようなことで。なのに真正面から

>なぜあんなことをしたんですか? 紫織さん

なんて聞いちゃ駄目です。追い詰めるだけだから。しかも、「あんなこと」って部分にたーっぷりの皮肉をこめて。その意味に、シオリーちゃんと気付きますよ。気付いて動揺しますよ。

感情で生きてる人に、論理で対抗しても激情に火を注ぐだけなんですよね。理屈じゃなくて、上手にあやしてあげなくちゃ。

まあ、そこに正攻法でどーんとぶつかるところが、速水さんらしいといえば速水さんらしい。それがマヤへの誠意でもあり、シオリーへの誠意でもあると心得ているのかな。ビジネスだったらもう少しひねったやり方、したかもしれない。シオリー相手でマヤが絡んでるからこそ、真正面からいくことが速水さんなりの誠実さだったのかもしれないけど。

もしこれが、速水さんみたいに生きてきた人相手の交渉だったら、それはもう一番無駄がなく、効果的な方法だったと思いますね。

もしも速水さんがシオリーの立場だったら、ですよ。
今回のように、あなたのやったことは許されないことでその手口は全部ばれているし、あなたが切り札と思っている紫のバラのひとの正体は、なんの攻撃力も持ちませんよって淡々と言われたら、あっさり引っ込むでしょうね。逆転のチャンスが、一パーセントもないことを知って。
事実を冷静に判断すれば、そうすることが自分にとって一番傷つかないと、当然そういう結論に達して身を引くでしょう。それが速水さん。だから、シオリーに対して、「自分が逆の立場だったらこれが一番効果的」な最後通牒つきつけたんでしょうけど、速水さん、シオリーがすごく女性らしい女性ってことを忘れてる・・・・。

正しいことを理路整然と言う、、それが逆に、怒りに火を注ぐっていうこともあるわけで。
このままシオリーが、

☆申し訳ありませんでした
☆わたくしが間違っておりました。マヤさんにあんなひどいことをするなんて、それを真澄さまに知られるなんて、紫織は恥ずかしい・・・
☆婚約は解消です。さようなら・・・ヨヨヨ

なんて返してくれると思ったのでしょうか?

波乱の予感です。
速水さんに対して、シオリーは今まで、清楚なお嬢様で通してきたわけで。その仮面を、無理やりはがされたらどうなるのか?
とりつくろう体面があったからこその、行動の制限なわけで。その箍が外れれば、きっとシオリーはもっと過激な行動に出る。

こんなこと言ったらドラマチックではないし盛り上がらないけど。本当は速水さん、全力で「嫌われる男」を演じればよかったんですよね。恥をしのんで。なりふり構わず。それが一番、円満に婚約解消できる道だった。
好かれることより、嫌われることの方が簡単です。
ある一点、「百年の恋も冷める瞬間」さえ掴めばいい。その一点さえ掴めたら、あとは勝手に、シオリーの気持ちが冷めていく。そしたら追いかければいい。
そうなれば追いかければ追いかけるほど、シオリーはゾッとして、自ら婚約解消を申し出るはず。

そのときこそ、速水さんはつぶやいてみせればいいんですよ。

☆残念です。ぼくはあなたと結婚したかったのに・・・。

とね。駄目押しです。そうすれば、間違ってもシオリーは速水さんを恨まない。マヤを憎まない。嫌いな人間と結婚しなくてすんだ幸運を、しみじみとかみしめるだけ。

☆マヤさんも気の毒な人ね
☆真澄さまの裏の顔を知っているのかしら。わたくしにはとても、あんな人と添い遂げるなんて無理。
☆でももしかしたら、マヤさんのような人にはお似合いなのかもしれないわね(微笑)

上記のようなことさえ、思うかもしれませんよ。そうなれば速水さんとマヤの結婚には、なんの障害もありません。時間をおく必要もなく、すぐにでも結婚できます。そしてその結婚に、シオリーは傷つかないし、今さら気持ちが変わったりもしない。

まあ、そうなると速水さんとマヤはめでたく結ばれて、マヤが幸福であれば、引き裂かれる恋人同士の悲哀など想像の産物でしかなくなり。彼女が紅天女を演じても、至高の存在を演じたという域にまでは、達することができないのかもしれません。

だからこそのシオリーなのだと、私は思っています。彼女がきっと重要なカギになるはず。

紫織さんはきっと、引きさがらないでしょう。

別冊花とゆめ5月号『ガラスの仮面』美内すずえ 著 感想その1

別冊花とゆめ5月号『ガラスの仮面』を読みました。以下、感想を書いていますが、ネタバレ含んでおりますので、未読の方はご注意ください。
感想を書くために、本誌から引用した台詞などは>で表してあります。
私が勝手に想像した台詞は、☆で表してあります。

混同しないように、記号分けしました。

今回は、桜小路君メイン。

だけどわからないことが一つ。桜小路君の、マヤに対する態度はなんなのだ? 戸惑ってるのだろうか。稽古場へ戻ってこられたことを素直に喜ぶ笑顔のマヤに対して、怒ったような固い表情でフイっと顔を背けるのは。ちょっと、桜小路君の心中を量りかねてしまった。

憎み合っていたはずの、マヤと速水さんの抱擁シーンをみてショックを受けて、次に考えることはなんだっただろうか。
私だったら、自分が目の前で見たことだけに・・・・・察するなあ。

事情はよくわからないけど、もはや二人は憎み合ってなどいない。むしろ、心を通わせあっているのだと。いい大人の男女が、友情でハグなんてしないもんね。

桜小路くんはなにを考えたのだろうか。マヤに対し顔を背けるのは、それってマヤに対してひどくないか? でも、マヤはさすが天然だ。

>怒ってる・・・?

ぼかーんとしてます。そうか、あんまりいろいろ考えたりしないのか。うん、でもそれが今はいいのかも。あれこれ考え始めたらきりがないし、桜小路君に対しては断る以外に選択肢はないのだし。
彼にへたに優しくすれば、結局、

☆マヤちゃん、僕はいつまでも君を待つよ。
☆だから僕を選んで。ずっと君を見ているから。
☆君の心から、紫のバラの人が消えてしまうまで・・・・

的な展開が、ループで繰り返されると思うんですよ。ここはむしろ、嫌いにさせることこそ本当の優しさなのかと。
好きなままじゃ苦しいからね。
マヤに落胆し、マヤを嫌いになれば、桜小路君は楽になれるから。

まあ、そんな相手と舞台で激しい恋を語る、なんてことは別の意味で苦しさを伴うかもしれませんが。舞台の上だけ、であればまだ、ましですもんね。四六時中、報われない相手に片思いしているよりも。

この交通事故をきっかけにして、一真役の本質に近付こうとする桜小路君ですが、事故で体の自由がきかない、その痛みよりも。
自分を相手に稽古しながら、自分を見てくれない、その向こうの誰かを常に見ているマヤへの、複雑な思いこそが一真像を深めるのではないかと思うのは、私だけでしょうか。

>死ねば・・・恋が終わるとは思わぬ・・・

一真の台詞に、こんなのがありましたね。肉体は今目の前にあり、温かさを感じるのに、自分のものなのに。その人の心が今、ここにはない。そういう状況、まさに紅天女稽古中の桜小路君が直面するその状況は、肉体の結びつきの不確かさを、心の結びつきの深遠さを、体感できるなによりの機会なのではないかと思いました。

だから一真は、梅の木を切れたのでしょうから。そこで断ち切られる絆より、もっと確かなものを信じていたのでしょうから。

マヤに対して、どんな態度をとればいいのか。桜小路君はまだ、揺れている状況なのかもしれませんね。だから、かける言葉もなくて、横を向くしかなかったのか。とても、笑顔をみせる心境でもなくて。

☆マヤちゃん、速水社長を憎んでいたんじゃなかったの?
☆マヤちゃん、いつから二人はそんなことになっていたの?
☆マヤちゃん、僕に可能性はもう、ないのだろうか?
☆マヤちゃん、少しの可能性もないなら、どうして期待なんてもたせるの?

桜小路君の心中を察するに、上記のような感じでしょうか?
問い詰めたい。でも、はっきり答えられたらきっと傷つく。
知りたい。でも結果が出れば決定的。
曖昧なままなら、幸せでいられる、不安定でも、それで構わない。

マヤは、黒沼先生が代役を考えず、桜小路君を一真役と決めたことに涙して喜びますが、私はもう一真役が誰であろうと、マヤの演技に影響はないだろうなあと思っています。
マヤが見るのは相手役じゃなく、相手役のその向こうにいる、速水さんだろうから。動きも台詞もすべて、速水さんに向けて語られるだろうなあと。

まあ、マヤはともかくとして。
舞台全体のことを考えたら、「マヤに恋する人物」が、一真役をやるというのは重要ですね。そうでないと、一真の台詞が上滑りしそう。

そうか。そういう意味で、一真役は桜小路君である必要があるのか。マヤは一真が桜小路君でなくとも阿古夜の台詞は語れるけど、一真役はマヤにひたむきな愛情を持つ必要があるわけで。
桜小路君とマヤは、昨日今日知り合ったわけじゃなく。重ねてきた歴史の分、桜小路君の苦悩は深く。だからこそ、観客を引き込む一真が生まれるのかも。

私は今月号を読んで、やはり速水さんとマヤは結ばれないだろうなあと、その思いが一層強くなりました。

結ばれないから、マヤは紅天女を手に入れるんですね、たぶん。速水さんを失う。どんな形かわかりませんが、そうなるんじゃないかなあ。その喪失が、マヤを紅天女として覚醒させる。その感覚の再現こそが、舞台上に本物の紅天女を出現させるのではないかと。

長くなりましたので、感想その2に続きます。